第74話 ガチでした

 話は平行線のまま、私たちはミヤモト家の領地、シンハリマまで戻ってきました。左右は見慣れた田園風景で、先輩が危惧していた飢饉が来るなんてとても信じられません。

 そのまま城へ。着いたのは昼の少し前でした。完全武装のナイト級たちが並んで巨人の盾を地面に打ち立て、槍を交差して私を待っていました。いずれも建造三〇〇年を超える古強者で、改造に改造を重ねて強化を図っているものです。王都でもこれだけの粒がそろったチェスピースはないでしょう。そもそも平和な時代とあてチェスピースをほとんど配備していないという背景もあるのですが。

 しかし……

 どうもこう、ローン男爵のところで見たみたロード級の方が高性能に見えてしまいます。あちらはなんの改造もしてなさそうだったのに。不思議。まあ私の方が強いのですが。

 私が先輩を連れて降りると、執事長のセバスチャンが待っていました。私の守役を長年やって、その褒美で出世したものでした。

「久しぶりですね。セバスチャン」

「どうもこうもでもありませんぞ、姫様。わたくし、久しぶりに胃痛で眠れぬ日々を……」

「それよりお母様は?」

 セバスチャンはウソ泣きをやめて真顔になりました。

「殿を捕らえたあとは、誰も座っておらぬ椅子を護っておいでです」

「なるほど……一応まだ、名代というていで、お父様を完全に放逐したり処刑したりまではいってないのね」

「どうでしょう。それと関連して、サダノブさまとミランダさまが」

「お兄様とお母様は斬られましたか」

「はい」

 つまり、完全に本気の武装蜂起です。第二夫人とその系統は一掃。空白の席はお父様ではなく私のためかもしれません。本当にありがとうございました。お兄様はさておき、ミランダお母様は隠れて私に淑女教育の援助とかをされていたのですが……。今更何を言っても無駄でしょう。せめて墓だけでも作ってあげたいものです。

「セバスチャン、あなたがついていながら……もう少し、どうにかならなかったの?」

「そうはもうされますが、私もまた、姫様が爵位を継ぐべきと思っております」

 諫める側が武力蜂起側でした。もう最初から駄目でした。私は遠い目になった後、背後のナイトたちを見ました。つまりはあれらは、新しい次期当主を出迎えていた、ということになります。

 正直、別に誰が爵位を継ぐかについては、どうでもよかったのですが。欲しければ斬ってしまえばいいだけですし、斬って手に入るようなものには特に興味はありません。

 しかし、そこまで至ってない人にとっては……ということですか。はぁ。

 とかく私を煙たがって追いやりたかったお兄様でしたが、別に殺されるほどではなかったように思います。たとえミランダお母様の援助がお兄様の当主の座をゆるぎないものにするための嫁に出すための準備だったとしても。

「お母様に会います」

「はい。そこの方は?」

「お母様は知っているようでしたが。くれぐれも丁重に扱ってください。間違っても害をなしたりするようであれば、三族皆殺しの上に領地に塩を撒いて二度と人が住めない場所にします」

「はは。御意のままに」

 先輩は連れていかれました。口論はまたあとでと口を動かすと、先輩は苦笑いを浮かべて連れていかれました。

 死んだ兄のためにも婿入りしてください、そうでなければ無駄死になってしまいます、というべきか悩むところです。今思えば私が生まれたときに父が泣いていたと伝え聞くのは今のこの状況を予見しての話かもしれません。

 まあでも、私があずかり知らぬとは言え、割とどうしようもありません。この際ですから王女も斬って、この国を平らげるしかないのかも。

 そうしたら全土で飢饉対策してもさすがの私もちょっとしか嫉妬しないでしょう。これだ、これだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る