第66話 追手が動き出す
暑苦しい夜の王都は、ようやく騒ぎになりつつある。
校舎が切断されて、生徒の死亡一、目撃者であった王女殿下は心に深刻な打撃を受け、犯人は逃亡中。
犯人は大貴族の娘という。
平和のもと、惰眠を貪っていたファルガナ国の眠りを妨げる、それは特大の一撃に思えた。
大臣は、自分の代にこんなことが起きるなんてと愚痴を言いながら走っている。しかも、大飢饉が来るという。
「何の勘違いかは知らないが、娘の安否よりその友人を気遣うとは……」
大臣は王から下された命令をうまく呑み込めずに嘆いた。王は、いやあの一族はあまりに薄情ではないか。娘が可愛くないのか、いの一番に娘のもとへ駆け付けるのが普通なのではないのか。
せめて、私だけは王女を心配しよう。臣としてではなく、一人の大人として。
大臣がそうきめて学園に到着すると、聞きしに勝る惨状に一度思考が止まってしまった。線で切り取られたように一棟の校舎が傾き、倒れている。
一刀両断。それでしかありえない。
冗談だろうと呟くしかできない状況だった。暴竜でもこんなことは無理だ。同じことをしようと思えば我が国に一〇機しかない女王級チェスピースを動かさざるをえなくなる。
これを、一人の少女がなんの助けもなくやったという。
こんなものをみたら、それはもう、心にひどい傷を得るに違いない。
大臣はついてきた神官たちに生徒たちの心の治療に当たるように指示すると、自らは高位司祭を連れて王女を探して走った。
「王女、ご無事で!!」
見知った姿をみつけて近づくと、それを邪魔するように見上げるほど大きな人影が現れた。黒い影のような装束をみにつけた。禍々しい凶相をしている。
「おやめなさい。王女は今悲しんでおられるのです」
「何者か知らぬが、だからこそ声をか」
大臣は最後まで言うことが出来なかった。黒い影が機械化した手を広げると、大臣の首をねじ切ったのである。首は無造作に捨てられた。
悲鳴をあげそうになった高位司祭は、沈黙の魔法を掛けられた後、ゆっくりと殺された。黒い影は糞女神め、たかが神の分際で我らに楯突こうなどと言いながら、司祭の全身を機械の指で穴だらけにして殺害したのである。
すっきりした黒い影はにこやかに笑うと、少しばかり歩き、アリマの首無しの体に抱きつく王女のそばに座り込んで声の形をした毒薬を耳に注ぎ出した。
「ああ。可哀想な王女様! 我々にお任せくださいませ。このオズボーン。全力をあげて思い人を助けましょう」
「御託はいい。商会で動かせる戦力は?」
「人型戦車……いえ、騎士級チェスピースを四〇機。加えて特別な機体が一つ」
「たかが一商会がなぜそんな戦力を持っている。一個騎士団以上だろう」
「それはもちろん、王女殿下の思い人が……ああ、実際におみせしましょう!!」
オズボーンは笑うと左側の袖から生身の右手を出した。
「どうぞ、こちらへ」
オズボーンが案内したのはアリマが王女に頼み込んで作った格納庫であった。
「ここは」
「ここにある戦力を使えばよいのです」
格納庫の扉は開け放たれていた。そこには整然と真新しい騎士級、従士級、歩兵級が並んでいた。
「アリマが用意していたのか……」
「きっと王女殿下を娶るために実績がいると思ったのでしょう!! ごらんなさい。この比類なき美しさを。おお、おお。これらを量産した暁には、ニューワールドに再び攻め入るのも夢ではない……」
王女は話を聞いていなかった。吸い寄せられるように一つの機体の許へ歩いて行ったのだった。
’’リリアーナ姫殿下に’’
見覚えのある文字に手を触れた後、覆い布を引っ張る王女。
「暗殺者の紋章で動く騎士級など聞いたこともない!!」
王女は叫ぶオズボーンを無視すると機体を見上げた。なで肩をした流麗な機体。見たところ楯も武装もないように見えて、それでいて全身に武器が隠されている。王女にはそれが分かった。自分が武器を隠している場所とまったく同じところにそれがあると感じたからだった。
つまりアリマは普段から私の全身をくまなく見ていた、ということだ。
気恥ずかしさを覚えて自分自身を抱きしめた王女は、イオリに薄暗い優位を覚えた。お前の身体のどこに見どころがある、と。
「すぐに騎士を集めろ」
「おまかせください!!」
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