最終戦
VS 真岡フラガリア
足りないもの
「宿敵」仙台ツヴァイズィーベンを下してから数日。今日も選手たちは練習に励んでいる。ここまでで日程の大部分を消化したが、まだまだ戦いは続く。
同時に樺太県では天気予報に雪だるまのマークが出現し、雪に備えたタイヤ交換を促す番組がよく放送されていた。しかし選手たちの熱気は冷めることなく、今この瞬間も彼らは汗を流し、次の試合へと備えている。
しかし、その光景には何かが足りない。もちろん、村瀬行成の姿だ。先の試合から、彼は練習場に姿を見せていない。先の試合で負傷し、全治3週間と診断され、今は練習どころではない。
医療スタッフに話を聞いたところ、村瀬選手は練習、および試合への早期復帰を希望し、骨折部分の手術を行った。骨の固定が終わったらすぐにリハビリに移り、筋肉が減るのを避けたいと考えているらしい。とはいえ、そのスタッフ曰く、本調子で戦うことは今年諦めるべきだと語る。
「村瀬君の気持ちはとても分かります。キャプテンとしてチームを率いなければという使命感の強い子なので。
それに、生まれ育った樺太のチームが優勝できるチャンスに自分がいないのは選手としても耐えられないのかなって。ただ、治療が不十分なままピッチに戻れば若いとはいえ今後の選手生命に関わります。
なので、できれば治療に専念してほしいです」
なんて言ったら、村瀬君に怒られちゃいそう、と医療スタッフは語っていたが、村瀬選手のチームへの愛着やキャプテンとしての責任感は、治療に甘んじることを許さないのだろう。実際この怪我を受けて、監督のコルテス氏は次のように話していた。
「村瀬がいないとなると、守備面に不安はある。もちろん、村瀬がいなくとも守備陣に実力の不足はない。しかし、人間は得意分野がそれぞれある。その中で、村瀬が得意としていた選手たちを率いる統率力。
あれを失ってしまうことで、チームがどれだけの影響を受けるのかはいまだ未知数だ。今はキャプテン代理として鎌田が頑張ってくれているが、彼は村瀬行成とは違う」
鎌田選手は練習の中で、度々他の選手に指示を送り、コミュニケーションも適切に獲れているようだったが、その表情にはいつもの練習以上に疲れが見て取れた。鎌田選手に、キャプテン代理には慣れたかと尋ねたところ、彼はそうだなあと首をかしげ
「もうやるしかない! って感じかな。ナリ(村瀬選手)には早く良くなってもらいたいし、あいつに心配かけることなく、チームをまとめていきたいとは考えてるけど……って感じとしか言えないです」
彼は多くを語らないまま、それじゃあお疲れ様です! と休憩に戻っていく。村瀬行成のいない真岡シュピーゲルというものは何年振りなのだろうか? 彼は樺太県に生まれ、このチームに加入し、出場機会の少なかったころから練習場の土を踏みしめていた。
陽に照らされて金色に見える髪を揺らし、汗で肌を光らせる彼は、この土をもう一度踏む日が、優勝までに訪れるだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます