マラトンの再戦

 仙台ツヴァイズィーベンとしては上出来だろう。上位チーム相手に前半はゴールネットを割らせなかった。ゴールできなかったとはいえ、後半に修正をかけていければ問題ない。対して真岡シュピーゲルにとっては大問題。


中位チームならばなるべく前半からリードを続けたい。また、得失点差の観点から複数得点での勝利をしたくもある。強者は欲しいものだらけなのだ。この現状について、コルテス監督は相手の大城直紀監督は、「妥協」が上手い人物だと話す。


「昇格初年度から上位や優勝、大きな目標を掲げるチームは沢山ある。その方が士気も上がるしサポーターも満足する。


しかしあの人(大城監督)はそういうことはしない。大目標としての2050年の優勝および定着、そのために5年間で何が出来るのかを逆算していく。そして今年度掲げられた目標は8位。この順位だって昇格したチームには簡単ではない。


真岡シュピーゲルだって、昇格した最初の年は14位でシーズンを終えている。サポーターも選手も、皆が5年後の夢をみて長期戦の覚悟をしている。それが強さや順位よりも、厄介だ」


 大城監督は選手たちへ良いところを伝え、アドバイスをし後半へ送り出していく。選手たちがピッチへ戻っていくと同時に離席していたサポーターたちも席に集い、後半の足音が近づいてきていた。


 試合開始のホイッスル後、すぐに選手交代のお知らせがながれる。無機質なアナウンスが、真岡シュピーゲルの吉田裕一郎選手に代わり、清水直史選手が出場することを告げた。


この交代は、怪我明けで走力がまだ落ちやすい吉田選手をやすませ、清水選手に経験を積ませる目的もあると考えられる。対して仙台ツヴァイズィーベンはハーフタイムに2人の選手交代を行い、後半で得点を取りに行く意図を全ての観客にも理解させていた。


 後半は、真岡シュピーゲルの攻撃を阻むと、仙台ツヴァイズィーベンはボールを前へけりだし、村瀬選手をはじめとした真岡シュピーゲルのディフェンス陣と仙台ツヴァイズィーベンの井上達也選手はじめフォワード陣が追いかける。そんな単純、それでありながら格上を倒すなら効果的な戦い方を見せてきた。


 しかし作戦と走量に対して仙台は上手く真岡の守りを崩すことが出来ず、生み出すチャンスも全て偶発的なものとなっていた。


後半22分に真岡シュピーゲルのキーパー、山本選手のパンチが甘かったボールが仙台の井上選手のもとへと転がり込む。しかしこの時には既にキーパーの背後に村瀬選手と杉山選手が走りこんでおり、井上選手のボールは杉山選手によって蹴りだされてしまった。


完全なチャンス、この試合の実況も、今のところはぜひとも決めて、タナバタシュターディオンに歓声を轟かせてほしかったと語っていた。


 しかし、仙台は重大なチャンスを逃しただけではない。杉山選手の蹴りだしたボールはセンターサークル付近のカセロ選手に到達し、同時に両チームの、黄色と青の選手たちがピッチの端から端へと疾走する。


仙台のディフェンスがカセロ選手によせていくが、彼はそれを気にすることなく、今回フォワードとして最前線に起用されている佐藤選手へとボールを出す。彼はそのボールを受け取る。ゴールまで距離は遠くない。十分にゴールの中を狙える。


 カセロ選手が2人の選手をひきつけていたが、ある選手だけがずっと佐藤選手に視線を向け、警戒を続けていた。


神田章選手、彼が佐藤選手がボールを持つとすぐによせに行った。しかし佐藤選手も彼へ背を向けるようにし、ボールに触れさせまいとあがく。そして彼は視線をチームメイトへうつし、自分でのゴールを断念する姿勢に入った。


 元チームメイト、それも共に連携して戦っていた2人。後のインタビューでこの時の攻防戦について、次のように語っている。まずは神田章選手は、


「この時について、カセロは2人で止められると思って、フリーになっているかつ、ゴールの近くにいる悟(佐藤選手)を見ておいた方がいいかなと思いましたね」


と、そして佐藤選手の昔の癖について覚えているのかと尋ねたところ、


「忘れてはいないけれど、大切なのはかつての悟じゃなくて、ピッチ上で相まみえている対戦相手、なのでその時の悟はどう動くのかを考えていました」


でも懐かしかったんです、と佐藤選手は語っていた。この話に対して、佐藤選手に同じような質問をしたところ


「ぶっちゃけ怖いなとは思いましたよ。


でも、もう一緒にプレーしていた時から時間は経っているし、戦っている間は間違いなく敵なので、もう章さん(神田選手)がどうかとかじゃなくて、すごい勢いで寄せてくる相手からいかにしてボールを逃がすかに夢中でした」


と笑った。

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