第16話 ユーゴ戦記 ベオグラードへ南下

スーパーカブにまたがりビデオカメラを手にしたワタナベはひたすらユーゴ首都ベオグラードへ向かって南下する。

今回の取材目的は、とにかくEBU(=ヨーロッパ放送連合)がいるベオグラードに逃げ込み、そこから取材した映像を東京に送ることにあった。

そしてワタナベの明晰な頭脳の元では、さらにスーパーカブでベオグラードから南下し、アルバニア人軍事勢力=KLAが支配するコソボ自治区に入り、取材をするという、日本初の試みを決行しようとしていたのである。

さらに、当時は最新鋭のNATO軍のステルス戦闘機がベオグラード近郊で撃墜され、セルビアの人々が、意気軒高だった(新ユーゴスラビアは「セルビア・モンテネグロ」で構成されており、空爆の中心はセルビアであった)。

とにもかくにも、彼らは最新鋭のステルス戦闘機を撃墜したことに高揚しており、ワッショイであった。

暗闇の空爆の中、一台の日本人のバイクをNATOが狙うことは無いわけで、ただひたすらベオグラードのEBUの元に向かうのみ。

空はただひたすら暗く、時々地対空ミサイルなのか、閃光が上がり、首都ベオグラード方面の地上には空爆の炎がほとばしる。

ベオグラードにたどり着くまでの映像をEBUに届けなければ。

ワタナベは相変わらず、電池切れを起こしそうなビデオと、携帯電話でEBUと連絡を取りながらベオグラードへ向かうのだが、既に時刻は24時に迫ろうとしていた。

そんな中、EBUから衝撃の連絡。


「間もなく我々は撤退する」「1時までに来れるか?」

このスーパーカブで空爆の中まっしぐらの俺を、ベオグラードに置いてきぼりに?

しかし、EBUも命がけでここまで世界中に取材映像を届け続けてきた強者。

その強者が「撤退」というのであれば、仕方ない。


ワタナベの地を這うスーパーカブが、真夜中、既に人通りの無いベオグラードへの道路で炎を別に上げなかった。


悲しいかな、スーパーカブのスピードはうんざりするほど遅く、NATO空爆はうんざりするほど目的地ベオグラードに近づけば近づくほど続くのであった。


しかし、午前1時までにはEBUの施設に着かなければならない。

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