蓮白という男。
少年は自身の
昨晩までの気だるい身体の感覚はさっぱり消え失せていて、全身は暖かい布団に包まれている。
「ここは……」
布団から
少年は寝ているうちにはだけた
ここで眠ることになるまでの
寺を出た。街に降りた。そしたら黒い靄のようなものに付きまとわれるようになって、しばらくは気にせず過ごしていたが、身体のけだるさを感じるようになる。そしてある日気づけば腕を食われていた。左腕がむしゃむしゃと。そしてついに危機感を覚え、山を逃げることになったのだ。
少年が左腕を見ると、それは包帯に巻かれていた。手を握ったり開いたりしてみるが、問題はない。まるで元に戻ったようにきちんと動く。
「……いったい何が起きてるんだ?」
誰に聞かせるわけでもない呟きが室内に溶けていく。
そうしていると、
少年は彼の顔をまじまじと見つめた。年のころは二十初めに見えるが、
やけに
「感謝の一言くらい、欲しいものだね」
少年は驚きつつも、そこに平伏した。
「こ……この度はどうも助けていただきありがとうございました」
「全く。君の腕を作るのには
訳の分からないことを言って、それからにやり、と男性は
男性はひとしきり嫌味を言い終えた後に、脇に隠れていた
「手を出して」
おずおずと左腕を差し出すと、彼は慣れた手つきで包帯を
「少年、名前は?」
「俺は……
この名はあまり好きでない。聞き馴染みが無く、寺の出身にしては妙に
しかし彼はからかうことなく、興味もなさそうに
「あの、貴方の名前は?」
恵次は腕に軟膏を塗り込まれながら尋ねる。何度も入念に撫でるので、肌が
男はちらりとこちらを見上げてきて、恵次は瞬きをした。何かついているか。顔を触れてみるが特に何もない。
「僕の名は
そして大層な名前を口にした。
「そう名乗ることにしている」
している?
違和感のある言い回しに恵次は首を傾げた。しかしこれ以上掘り下げるようなこともない。
蓮白は話題転換に恵次の家族について尋ねてきた。恵次は軽く首を
「……俺は生まれてすぐに寺へ預けられたんです」
「よくある話だ」
「それ以来親は一度も会いに来ていないので、俺に家族はいません」
「そう。なら、寺に
包帯をきっちりと巻き終えた蓮白は水で湿らせた布で手についた軟膏を拭き取ると、桶を片手に立ちあがった。恵次は慌てて彼の袖を掴んで止める。
「待ってください!」
蓮白は見返り美人図のように振り向いた。そして唇を薄く開いてなんだ、と尋ねてくる。
「寺には帰りたくありません」
「家出ならぬ、寺出をしたのが後ろめたいかな。大丈夫だよ、君みたいな子はたくさんいるだろうから、酷く
「ちがいます。俺は逃げて来たんです、
恵次の告白に、蓮白の切れ長の目がゆっくりと見開かれる。恵次は思わず掴んでいた彼の袖から手を離した。
その目は吸い込まれるような迫力があった。色の薄い瞳だと思っていたが、今はそれが
「あの和尚とは
蓮白の言うことに恵次は首振り人形のように何度も頷いた。彼が和尚を知っているとは思わなかったが、誰もが抱いていた共通認識のようだ。蓮白は綺麗な手で自身の
「では、お仕置きをしなくてはいけないね」
そしてまるで切腹を言い渡すような重い空気で、軽々しい言葉を吐いた。恵次は見上げた姿勢のまま動けない。
「……お仕置き、ですか?」
「そうだとも。世の
蓮白はしんと
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