第19話 記憶がこんがらがる『きみの朝』

 さて岸田智史のヒット曲『きみの朝(作詞岡本おさみ作曲岸田智史)』の件なんだが、これはいろいろと記憶が混乱しがちで、歌そのものの記憶は物凄く強くあって、それは何故というに何でもエロに結びつける男子中学生のやむにやまれぬ初期衝動ってやつで、サビに行く手前の「ああ 心より体のほうが 確かめられるというのか」のところの純粋に聞けば音楽的にはなかなかよくできていることであるなあ、っていうその部分だけを、朗々と歌い上げ、「体の方が確かめられるんだってよっ!」と周囲に確認して回りだす奴らがいたわけだ。「心じゃないんだっ!からだだつ!」以下10回行進しながらくりかえす!みたいな。恐るべし!厨房のエロへの希求!とでもいうべきか。


 で、岸田智史といえば「新八先生」のドラマのイメージも強く残っており、成人後ずっと『きみの朝』=「新八先生のうた」と思いこんでいたんだが、これがまた全然違うのであって、「新八先生」はそもそも「金八先生」の第一シリーズのすぐあと、1980年4月からの放送なので、自分はもう厨房卒業して高校生だったわけで、高校で「体の方が確かめられるんだってよっ!」なんていいながら『きみの朝』のサビ前のあのフレーズを朗々と歌い上げる男子生徒の一団、とかいたらヤヴァいだろって話だ。そういうのは中学で卒業しとけ、っていうね。いやほんとマジで。


 そうなのだ『きみの朝』は79年4月~7月、TBSで放送されていた「愛と喝采と」っていう岸田智史が新人歌手役で「俳優」デビューしたドラマの挿入歌なのだった。

 

 で、実際ヒットしてチャート1位にもなるわけだが、なにせTBSのドラマなので「ザ・ベストテン」を虚実入り乱れのかたちで使った、っていうようなこともあったのである。この設定自体もなかなかにちょっと凝っている。


  自分は前回書いたようにテレビ聴取時間、同世代平均で考えればかなり少ない方だったわけだが、音楽番組はそりゃ例外であって、「ザ・ベストテン」はほぼ欠かさず見てたので、実際のベストテンの「今週のスポットライト」に岸田智史が出てきて『きみの朝』歌ったのも見ただろうし、チャートインしてからの出演も見ただろうし、それは確かなんだろうけど、ドラマ「愛と喝采と」は見たのかどうだか思い出せない。『きみの朝』を「新八先生のうた」だと勘違いしてたくらいだから見てなかったんだろうとは思う。思うがいまこれを書くにあたって『きみの朝』のウィキ読んで、そのドラマとベストテンの相互利用のくだりを読んで、「あ?そういやそんなことあったかな」とふと思い出したような気もしたが、いやいや、厨房のころはそんなの把握してたかどうかもうわからんぞ、今となっては。ってところもあり。実際ほんとうにもうわからない。


 とにかくウィキによると、ドラマ中、岸田智史演じる「新人歌手役名武井吾郎」が売り出しのさなかに「ザ・ベストテン」のスポットライトのコーナーに出る場面があり、それは本物の「ザ・ベストテン」をそっくりそのまま使って、つまり岸田智史として「ザ・ベストテン」に出演して撮影されたドラマシーンでもあり音楽番組の一コーナーでもある、ってことなわけで、もう書き進むのがいやになるくらいこんがらがってきた。


 が、ヒットして1位になったのはこのドラマ連動行為の効果であったのは間違いない、と。


 それとウィキによれば、作詞の岡本おさみはこのドラマ「愛と喝采と」の脚本家ア岡本克己の弟である、とある。


 そんなこんなで、いろいろと「身内」でまわしまくりなんだなあ、っていうね。

いいんですかね。これ。確か黒柳徹子は番組司会引き受ける前に、「コーセー歌謡ベストテン」の化粧品メーカーがらみのあれこれとかを意識したのかどうなのか、「公正なチャートでやるのなら」って条件つけたってことのようだけど、このケースはどうなんだろう。


 っていやべつに、昨日まで忘れてたり、知らなかったりするような話なので、なにも糾弾しようとか告発しようとかじゃなく、つらつら書きながらふと思っただけなんすけどね。


 ま、実際ヒットしたのは曲がいいってことで受け入れられたのは間違いないだろうし。


 こういう「音楽」ネタの自己言及的コンテンツでほんとにチャート1位になるレベルで売れたっていうの他にあんまり聞いたことないですねえ。なんかありましたっけかね。このドラマの時までで、ってくくりで。

 

 ま、あれか『勝手にシンドバッド』のタイトル自体が自己言及的なところあるか。でもまあちょっと『きみの朝』みたいなややこしい状況もないし、あと意外に「1位」にはなってないし。


 ただこれ、いずれ後々の回でたっぷり触れますけど、同じ79年の10月に始まる「3年B組金八先生」第一シリーズで、放送とシンクロするように、その時々のニューミュージック系のチャートインしてる曲をガンガン入れ込んでくる手法、これの前哨戦だったんすね。


 などといろいろ書きながら、念のため年鑑あれこれ前年のものも見てたりしてたら、あったあったありました。郷ひろみ&樹木希林の『林檎殺人事件(作詞阿久悠作曲穂口雄右)』が。ただねえ、これ「コンフィデンス年鑑 1979年版」だと1978年7月7位、8月6位で、年間で42位なんです。しかし「ザ・ベストテン」だとこのオリコンチャートに入ってた夏の時期に「4週連続1位!!!」なうえ、「ザ・ベストテン」の年間チャートでは「10位」でつまり年間「ベストテン」に入っている、と。

で、『林檎殺人事件』を挿入歌にしてたドラマ「ムー一族」放送してたのは、そりゃもう「ザ・ベストテン」と同じくTBSですよ、と。


 なんだかなあ、みたいな。黒柳さんの司会引き受け条件的にこれどうなの?みたいな。ってことで「ムー一族」、同世代では見てた人多いんでしょうけど、なにぶん自分FMエアチェック至上主義者だったんで見てないんすよね。なのでドラマではなくベストテンの4週連続1位の場面も立ち会ったはずなんだけど、あまり覚えてないってことはドラマ見てなかったので、そんなにアツくなってなかったってことかな。までも曲そのものはコメディータッチで聴きやすいメロディーだしそりゃまあ覚えてます。覚えてますけど「一時代の習俗として面白かったことであるなあ」くらいな軽い感じというのかなんというのか。胸が高鳴る青春の一コマ、ってほどではないかな、みたいな。ってことでサクッとつべ動画みて振り返ってるんだけど、曲どうこうより郷ひろみ歌唱力すげええ、ってところに今ぼくは猛烈に感動している。なんか陽気な振り付け陽気な笑顔で動きもそこそこあるのに全く乱れてねえええええ、みたいなね。


 なのでくりかえしますけど、べつにチャートがインチキだなんだって、告発、糾弾するつもりで書き始めたんじゃないんで、何も怒るようなことはなかった、と。


 知らなかったり、忘れてたりした事実を、いま知りました、と報告してますよ、と。そんなさなかに、いろいろ「大人の事情」も見えてきましたねってことですよ。


 まさに、リアルタイム勉強実況小説になってますよ、と。で、とにかく、折角岸田智史が美声で切々と唄ってるんだから、「心より体だっ!」とか叫びながら旗振って行進したりするのは大人げないからやめた方がいいよ、と。これが言いたかったわけなのです。え?大人げないって言ったって、こちとら中学生だもんなっ!ですって?

いやいやいや、それを言うなら「もう中学生」でしょう。
















 








 











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