自称中堅歌い手のおっさん、異世界転生しても歌ってみた(←こいつ女神に配信されてるのに気づいてない)

むしゃあおい

第一章

1-1 オレの唄を聴け!

「バズってくれよぉぉぉぉ!!」



 気合い入れた「歌ってみた動画」が出来上がった。さあ投稿だ、今度こそバズる!


 この歌で誰かの心を動かす、いや、世界を変える!

 

 オレは、川原マサムネ。カラオケの点数が高いことだけが自慢の、34歳の中堅歌い手だ。

 歌ってみたを投稿し続けて13年、昔はともかく最近の再生数は泣けるほど低迷してる。

 それでも信じたい。

 オレの声が、次こそ世界に届くって。

 

 

 ついマウスに力をこめ【スケジュールを設定】をクリックする。

 勢いで机の上のエナドリ缶がカラランと倒れる。一瞬焦るが缶はカラ、飲みきっててほっとする。


「投稿予約完了」

 オレのMeTube【マサムネちゃんネル】に、新しい動画が登録される。

 

 

「フうぅ」

 心臓がドクドクと鳴っている。BPMは――180、速すぎだ。

 額の汗を手でぬぐう。

 毎度のことだが、それでも投稿となると緊張する。

 それに今回は特別だ。

 

「……ほんと、たのんます神様」


 オレは手を合わせる。

 ネットには「神」がいっぱいいるんだ、1人くらいオレの頼みを聴いてくれ。

 頼みっていうか、歌を。

 


 今回の動画を伸ばすために、思いつくことはなんでもやった。


 伸びやすい土曜18時で予約、スタジオで録音、有名Pによる音源MIX、知り合い神絵師のサムネ絵。

 視聴よろしくと卒業RINEグループにまで書き込んだ、神社にもお参りした。

 仕事多めに入れて貯めたお金が一気になくなったが、スッキリした気分さえある。

 

 『歌い手マサムネ』のこれが最後の賭けだ。もっと上、行きてぇのよな。

 

 

 投稿のタイトルは『【最終投稿】マサムネが全てをかけて歌う『遠吠えの唄 エッジィEdit』【音程補正ナシ】 ―― 感謝の気持ちを込めて』

 

 これでダメなら、オレは歌い手をやめる!

 

   

 予約完了でひと仕事した気分になって、眠気がどっと襲ってくる。

 やばい、今日土曜は仕事――実は正社員の話がある。サボるのは避けたい。

 ここはマサムネ式チートアイテムでも足しとくか。


 オレは冷蔵庫から緑色のエナドリ缶を取り出し、プルタブをカシュっと引いて一気でキメる。


「うはあ効くぅ」


 人工の冷たい甘さで舌がしびれる。

 

 今日もやってやるぜやるぜやるぜ人手不足もなんでも来い、明日の有名歌い手マサムネさまが、どんな試練も乗り越えてやる。

 これもヒーローストーリーへのステップだ、こんな日がありましたってインタビューでいつか語る。


 朝日を浴びて、出かける準備のBGMに、完パケ音源を聴き返す。

 

 「この街に響く クラクションひとつ

 オレの声が夜 ネオンに祈る♪」

 

 ああいいデキじゃん。

 

 そう思ったとき、痛みが胸を叩いた。


「あれ?」


 まだ残ってるロング缶を落とす。

 硬い床にあたるけど無音。というかどこからも音がしてない。曲は? えっ、怖っ。

 

 体の内側だけ音がする。心臓の鼓動がすっごい速い。速いのに、不規則なリズム。

 胸を強く押さえる。

 

 呼吸が浅くなり、脂汗が吹き出してくる。

 

 店、休む?

 

 鼓動はさらに加速し、頭がぼんやりとしてきた。

 職場にRINE――体が動かない。

 

 これ、ヤバいやつだ――

 

 視界が揺れて、にじんだ景色が床にある。

 

 倒れてる? オレ、え、泣いてる?

 

 締め付ける胸の痛みに耐えられない、視界の全ては暗くなっていく。

 意識が薄れ、闇にのまれっていった。


 神様はいじわるだな、オレがヒーローになる明日なんてなかったんだ――


――――――――――


『すいません? すいませんがこれで聞こえてますか?

 映ってますよね?

 オッケーですよね?』

 


 みなさん初めまして、むしゃあおいと申します。

 今日から配信を始めます、慣れないですけどこんな感じで間違ってないでしょうか?

 少しでも、

「面白そう!」

「続きが気になる!」

「マサムネどうなるの!!!」

 と思っていただけましたら、

 登録、お願いいたします!

 あおいでした。


――――――――――

エンドカード:

マサムネさんはここまでしか聞けませんでした

https://youtu.be/Ed86XW2mkG0

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