第24話 謁見
王城は、王都の一番北側に位置する。
貴族街を抜けて、大理石の岩畳の道が現れると、それが王城に繋がる場所。
僕と葵は、その王城に向かっていた。
大きな門を守っている衛兵。
彼らに、アリアから渡されていた令状を見せる。
「お入りください。お待ちしておりました」
彼らは、丁寧に頭を下げてくれる。
そんな二人に礼を言って、王城の中に入った。
「……あぁぁぁ、めんどくさい」
いつもより身支度を整えている葵。
それでも、『ソレイユ書房』としての格好は変わらない。
ここで変えてしまったら、僕たちの矜持に関わることだから。
「同感だよ」
王城に入れば、王宮騎士が待っていた。
僕たちに向かって一礼した後、国王と謁見する広間まで案内してくれる。
騎士の後ろを歩きながら、僕たちはひそひそと話をした。
「別に、国王との謁見が嫌な訳じゃないのよ。『あれ』に会うのが嫌なだけ」
「付き合う方が大変だよな」
「ほんと、子どもみたい」
王宮騎士の前でこんな話をしていたら、きっと不敬罪で首が吹っ飛ぶだろう。
しかし、彼はそんなことはしない。
僕たちを罰するころができない上に──。
「ね、貴方のそう思うでしょ?」
「い、いや、俺はその……」
葵が騎士に話しかける。すると彼は、たじたじになって目を逸らす。
彼も同じような意見を持っているのだ。
「ヒナタ様、アオイ様がいらっしゃいました」
謁見の間に着く。
大きな扉が開かれると、そこは大広間。
豪華なシャンデリアが天井を照らし、優美な飾りが輝いている。
広間には、王宮騎士や侍女たちが並んでいた。
そんな広間の中央奥、特別高くなっている場所に金色の玉座が二つ。
「お目にかかります、国王陛下並びに王妃陛下」
「お久しぶりでございます」
どっしりと座る、国王。
その隣にしとやかに座る、王妃。
この二人こそ、シャルディア王国の最高権力者だ。
「面をあげよ」
「楽にしてくださいな」
二人の声に、僕と葵は顔を上げる。
輝かしい金髪と青い瞳。王族の象徴が、僕たちを見下ろしていた。
「アリアから聞きましたよ。王都で『転生物語』が問題になっていると」
「えぇ。アリアは実際に王都を歩いて確認したようです」
「アリアが確認してくれなかったら、僕はより『転生物語』をソレイユ書房に入れていたかもしれません」
「それなら、私たちの娘が役に立った訳ですね。礼を言います、ありがとう」
王妃と話している間、王は終始無言だった。
きっと、僕たちの様子を伺っている。
──と、思うだろう。
実際は。
「わ、私の可愛いアリアが一人で外に!? 何か起きてはいないだろうな! 確認せねば!」
ただの親バカである。
「うるさいですわ。黙りなさい」
王妃は、持っていた扇で王の頭をはたく。
何を隠そう、いや隠そうもない、王はアリアを溺愛しているのだ。
それに加えて、厄介なことに兄王子たちもこの溺愛を継いでいる。
そうなると、出来上がるのはアリアへの重い重い愛な訳で。
「あ~、こうなるから来たくなかったんだ」
葵は、げんなりしてため息を吐いた。
同感だ。
会う度にこんななのだ、もうそろそろいい加減にして欲しい。
「アリアの行動範囲を定めよ! そして、護衛を倍に増やすのだ!」
行動がぶっ飛び始めている国王。
そんな王に、王妃が制裁を下した。
「お黙り!」
国一番の美女・王妃による、平手打ち──ビンタ──が炸裂した。
*
「人払いを頼む」
頬に真っ赤な手形を付けた王が言った。
その言葉を聞いて、騎士や侍女が退室する。
誰もいなくなったことを確認して、王妃が結界の魔法をかけた。
「まずは、」
王が、玉座から立ち上がった。
赤い手形で台無しになっているが、すらりと高身長の紳士だ。
そんな王は、高くなっていた場所から階段を使って下りてきた。
後ろには王妃も付いてきている。
僕たちと同じ場所に立ち、適度な距離を保つと。
「すまなかった」
僕たちに頭を下げた。
一国の王が、王妃と共に。
「顔を上げてください」
この世界は、葵のテリトリー。僕は、違う。
だから、葵が始めに言葉を発した。
凜とした声で。
「お心遣い感謝する」
王は、そんな言葉と共に顔を上げた。
人払いをして結界を張ったのは、このため。
王が頭を下げることも、今から話すことも、全て聞かれてはいけないことだから。
「お母上は、なんと仰っておられるのか?」
「記憶操作が必要だ、と」
この前、片野さんにやった記憶操作と同じ。
世界の境界線が危うくなれば、そのような処置が必要になる。
今回も、そのケースだった。
「国全体ですか?」
「そうですね。だから、お兄ちゃんの手も借りることになります」
僕たちは、特別な存在。
この国の王さえも頭を下げる、そんな立場。
僕たちが偉い訳でも、なにか結果を出した訳ではない。
両親の立場が、僕たちをそうしているのだ。
「何か、手伝うことはできるだろうか?」
「お兄ちゃんは『人間界の血』を強く引く者です。わたしとは違って、何が起きるか分からない。そのための対応を取って欲しいです」
僕は、魔法を使えない。
魔力はない。
でも、『ジェミニ』としての力は使うことができる。
ジェミニは、双子座。
違う世界、違う星座の中で、唯一二つの夜空を飾る星座。
人間界と魔法界を司る星であり、力。
その力は、使うと消耗が激しい。
魔力で補うことができる葵と違い、僕は魔力がないからどうなるか分からない。
いつかのときは、数日立てなくなった。
そのまたいつかは、酷く体調を崩した。
それでも生きている。
生きながらえている。
「分かった。きちんと用意しよう」
「ありがとうございます」
葵は礼を述べると、僕を見た。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「うん。これは、僕の責任でもあるから」
転生物語──人界書──を入れたのは、僕だから。
その責任は取る必要がある。
「行こう」
葵だけに全てを負わせない。
僕たちは、二人で一つの双子だから。
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