魔王の剣と勇者の剣 第3話

      出発

 翌朝早くにギルドに向かう。

 ギルドの前に2頭立ての馬車が4つ。

 3つのパーティーだろうか。

 20人程の冒険者がいる。

 シリウスがやってくる。

「おはよう、Aクラスパーティーが2つとBクラスパーティーが嬢ちゃん達と合わせて2つだ。

 5人パーティーと、8人パーティー、9人、嬢ちゃん達はと・・」

 ハンナ達の後ろにいつの間にか、アインとツヴァイ、弁慶、ジル・ド・レェ。

 と、もう2人。

 金髪の戦闘服と赤毛のローブを着た若い女性。

「あれ、カーちゃんいつきた?」

「さっきね。」

「あと、あたしも。」

「ナナおねいちゃん!」

 ルーシーが抱き着く。

「この姿の時はアリアよ。」

「えーと、9人だな。

 じゃあ、俺入れて10人として・・

 じゃ総勢33名で。

 街道沿いに報告があって、ドラゴンの群れが一つ、狼型の群れが二つ。

 猪の群れが一つと、後・・」

「ちょっと待った、30人で敵うもんかそんな数。」

 Bクラスパーティーの幾人かが抗議する。

 Aクラスパーティーの一人が、

「いやならやめておきな、分け前が増えるからな。

 無理だと判断したら、やらないのも責めはしないさ。」

「・・分かった、悪いが俺達は抜ける。

 まだ、この間再編成をしたばかりで連携に自信がない。」

「んじゃあ3パーティー23人だな。

 馬車をじゃあ、一つを荷馬車にして御者は俺と・・あんた。」

 ジル・ド・レェを指さす。

 荷馬車の開いたスペースにハンナ、アンナ、ルーシー

 残りの三台に各パーティーの配置で出発する。

      襲撃

 出発して、城門前で衛兵に止められる。

「現在、城門前に魔物の群れがいます。

 狼の群れが多数。

 今、城壁から弓兵が応戦中ですので、しばらくお待ちください。

「仕方がない、待機だ。」

「ワイバーンだ!」

「おいおい、」

 空が陰る。

 ワイバーンの群れ。

「仕方ない、一旦解散。

 各自迎撃だ!」

 全員馬車を降りかける。

「その必要はないよ。」

 アリアが城壁から上に結界を張る。

 ワイバーンは街に降りられない。

「ルーシー、」

「わかった~。」

 ルーシーと、アインとツヴァイが城壁を垂直に走り出す。

 カーちゃんが蝙蝠の翼を広げ上に飛ぶ。

 ジル・ド・レェの機動甲冑がバーニアを吹かして飛び上がる。

「はっ?」

 ルーシーとジル・ド・レェ、アインとツヴァイ、はそのまま垂直に降りて狼の群れへ飛び込む。

 ワイバーンの群れにはクロちゃんが空戦モードで突撃、城壁に着いたカーちゃんの手には自分の身長より大きなライフル。

「電磁レールガン、速度マッハ20、弾頭貫通弾。

 レーザーロック、」

 隣にケロちゃんがスライム状の小山になり、無数の銃身が出る。

 同時に、動物の頭部が出ると右眼から照準レーザーが伸びる。

 次の瞬間、電磁レールガンの閃光と、無数の20ミリモーターガンが火を噴く。

 あっという間にワイバーンの群れがどんどん落下してゆく。

 弓兵が啞然としていると、

「下の狼の群れが全滅したぞ。」

「なんだ、あいつら、強すぎる。」

 アリアが、

「門開けなさい。外にもう出ても大丈夫よ。」

 衛兵は、

「あ、ああ、開門!」

 門が開く。

 立っているのはアインとツヴァイ、ルーシー、ジル・ド・レェの4人。

 周りは200匹程の狼の死骸。

 この間約5分。

 シリウスや冒険者は呆然としている。

 あまりに常識外れな強さ・・

 パーティーの連携、と言うより軍の部隊としての組織的な強さ、だ。

 ハンナは、

「これが、ルーシーの『力』・・」

 呟いた。

      仲間

 しっかりと魔物の群れを星空の回収して、一行は出発の用意をする。

 シリウスは、ルーシー達に

「何であんた達は、あんな芸当が出来るんだ?」

 壁を垂直に走ったことを言っている様だ。

「ルーシーは影がルーシーだから影を踏んでたらむてき~。」

「??」

 アインとツヴァイ、は

「私たち二人は本来はそこまで出来ない。

 ゲートの限定解放と最低限のリンクのみ、だ。

 ルーシーやユニットがそばにいたら今の様な重力制御の様な事が出来る。」

「?? 要するにルーシー、お前さんが力の大本、って事か?」

「そうだよ。」

「まあ、わかんなかったらあたしに聞きな?」

 アリアが言う。

「あたしは、この子達4姉妹を「造った」5人の博士の一人・・そしてユニットの一つ・・この子について訊ねられたら答える義務があるのさ。」

「・・まあ、先を急ごう。

 時間もそうないしな。

 出発だ。」

 荷馬車で御者の席にシリウスとアリアが座る。

 後ろにはハンナとアンナ、そして、ルーシーとカーちゃんと呼ぶ女性が座っている。

 そして、真後ろの馬車にジル・ド・レェが御者の席。

 隣は・・銀の霧で形どられた女性の騎士・・

 その左右を他のパーティーの馬車。

「クロちゃん、は先にこちらに向かってくる集団を護衛に向かいな。」

 銀色の烏が馬車に止まる。

 止まっているのと別にあるもう一本の足と、紅く光る右眼がその身体の上を動いている。

 バサバサッと前方に向かって飛んでいく。

「いってらっしゃーい。」

 ルーシーが言う。

「さあ、上空の迎撃はカーミラ、あんたに任せたわよ」

「ああ、任せな。」

 中心が紅く輝いている右眼と、全体が紅い左眼で、カーミラはにっと笑う。

 二本の乱杭歯を見せて・・

 シリウスはアリアに、

「なあ、後ろの女って吸血鬼なのか?」

「ええ。」

「日の光も気にしない所を見ると、まさか真祖クラスか・・後ろの子達は一緒で大丈夫なのか?」

「ご心配なく、調教済みよ。」

「調教ゆうな、虐待の間違いだろうが。」

 ルーシーが言う。

「人間おそったら罰ゲーム。」

 カーちゃんが怯えた目をする。

 ハンナが、

「そんなに大変なの?」

「ああ、朝はペペロンチーノ大盛り、昼食はガーリックチャーハン、晩はニンニクキムチラーメン大盛りに、ギョーザ3人前を一週間だ。

 ニンニクがどうこうよりも、一週間で5キロ太った・・

 匂いで、皆いやな顔するし・・

 ただでさえ小食の吸血鬼が5キロダイエットするのに、どれだけの苦労が必要か・・この鬼!」

「・・そっちなのね・・」

「ルーシーは罰ゲームつきあうのたのしみ~。」

「・・このニンニク娘め。

 まあ、ルーシーは可愛いから許す。」

 シリウスは、

「ははは。」

 笑うしかなかった。

     最初の野営

 50キロ近く進んだところで街道の所々にある安全地帯に到着して野営の準備に取り掛かる。

 ルーシーから星空が広がり、ワイバーンが浮かぶ。

「肉祭りー。」

 8人パーティーと5人パーティーが近づいて来る。

「朝はお前ら凄かったな。

 Aクラスパーティーの「暁」リーダのー、ランドだ。」

「ほんとにね、同じく「アマゾネス」リーダーのアマンダよ。」

「ルーシーだよ。」

 ルーシーがにこおっと笑う。

「メンバーは何人かいないが?」

 アリアが、

「個人行動が好きな奴が多いからね。

 まあ、気にしないでね。

 一人でもそうそう後れを取らない連中だから。」

 シリウスは、

「向こうが気になる。

 一応最後の連絡では安全地帯にいるとは言っていたが・・」

「クロちゃん、が見つけて近くにいるからだいじょうぶだよ。」

「そうか。」

 アリアが、

「それよりも、同じ方向から魔物の群れが来るのが気になるわ。

 もしかしてだけどその方向にダンジョンがあるんじゃないの?」

 シリウスは、少し考えて

「ある、な。

 アンデッド系のダンジョンで、余り人気のないダンジョンが・・

 まさか・・」

「・・スタンピードじゃないの?

 この世界ではどう言うか知らないけど、「魔王」の発生とダンジョンの外に魔物が溢れ出す状況を指す言葉なんだけど。」

「・・まさか・・いや、ありえるか。

 魔王とは言わんが、ダンジョンのボスと魔物が溢れ出てくるのは過去にもある。

 ただ、このダンジョンでは初めて聞く。

 このダンジョンでは、発生するボスは・・」

「リッチじゃなきゃいいけどね。」

「そんな物騒な奴が出たらたまらん。

 たかが3つのパーティー位じゃあ足止めにもならん。

 早く合流して戻り、改めて討伐戦だな。」

「間に合えばいいけどね。」

 ランドと、アマンダも不安そうな顔をする。

 こうして、初日が過ぎた。

    合流

 ルーシー達の女性陣が一緒に寝ているテントから、寝不足のアリア、アインとツヴァイ、ハンナが出てくる。

「昨晩もなかなか・・カーミラは?」

「まだ、気絶している。」

「意外なのはアンナちゃんもなかなかの・・」

「すみません。」

「いいのよ、元気な証拠よ。」

 朝食の準備をしていると、段々と起きてきた者が増え手伝い出す。

 朝食の準備が出来上がるころに、

「あさごはーん!」

 ルーシーとアンナが手をつないでテントから出てきた。

 朝食を食べていると、ふらふらとカーミラが起きてきた。

「フライングヘッドバットは反則よ・・」

 出発準備が終わると、アリアが

「全員に渡しておくわ。」

 ゴーグルにヘッドホンが付いた様な物をみんなに渡す。

「各種センサーと、通信機、ディスプレイが付いているわ。

 これで情報のやり取りができるから。」

「これはすごいな。

 有り難いが俺達にもくれるのか?」

「ええ、お近付きの挨拶、ってとこかしら?

 その代わり、少し派手にさせてもらうからね。

 それがあれば、目や耳は保護されるからね。」

「‥お手柔らかに・・」

 ハンナとアンナも身に着け、

「ルーシー達はつけないの?」

「私達はその辺は右眼や補助脳内に搭載済みだからね。

 それは最低限の装備さ。」

 出発をして1時間後、アンナがビクンとする。

 ハンナが、

「何か近づいて来る。」

 アリアが、

「ハンナちゃんの探知魔法は結構すごいわね。

 あたしとそう変わらないわ。

 狼型の群れ、距離3キロ、数300とイノシシの大型数10。」

 馬車からカーミラがレールガンを構える。

「ケロちゃん、照準手伝ってー」

 ルーシーから星空が伸び、

「地対地ミサイル発射~」

 3キロ先で何度も爆発が起きる。

「20匹ぬけてきた。」

「任せな。」

「いいとこ見せなきゃな。」

 アマンダとランドのパーティー達が飛び込んでゆく。

 アマンダのパーティーアマゾネスは女性の戦士ばかりのパーティーで戦斧を構えて飛び込んでゆく。

 ランドのパーティーは剣士二人、戦士、弓使い2人、魔法使い3人で連携をとりながら、攻撃している。

「あら、意外とやるわね。」

 アリアが、感心していると、シリウスが

「あれでもAクラスのパーティーさ。

 あのクラスならあの位の魔物なら連携出来ればどうという事は無い。

 街にはSクラスのパーティーもまだいるし、Aクラスのパーティーもまだ、幾つも在る。

 一応来月の闘技際、お前さんたちにも招待状が行くと思うから、よろしくな?」

「それはルーシー次第かね?」

 戦闘が終わる。

 ルーシーが星空を広げて、回収する。

「アイおねえちゃんとヴァイおねえちゃんが向こうについた。

 しゅっぱつするから、あすごーりゅーするっていってる。」

 いつの間にかアインとツヴァイの姿が見えなくなったら・・

「やっぱりとんでもないな・・」

 シリウスがため息をついた。

     帰路

 予告通りに翌日合流出来た。

 シリウスが、

「皆は無事か?」

「ああ、けが人が出たが、犠牲者はいない。

 安全地帯の近くにいたので助かった。

 この人達のおかげで、魔物達も片付いたしな。」

 アインとツヴァイの方を向く。

「ありがとう。」

「いや、それよりもこれから、だ。」

 シリウスが、

「さて、急いで街に帰りダンジョンに行く討伐隊の手配をしよう。」

 アリアが、

「あんた達は急いで戻りなさい。

 私達は、このままダンジョンを目指すわ。

 恐らく、街まで戻ると間に合わない。」

 シリウスは、

「いくら何でも無茶だ。

 あんた達の実力は良く解った。

 だが、アンデッドの大群では話が違う。」

 と反対する。

「クロちゃん、ダンジョンにいるけど、まだ魔王出てきてない。

 今がチャンス。」

 ルーシーが言う。

「・・分かった。

 アマンダとランドは護衛しながら街まで戻って、ギルマスに報告してくれ。

 俺は仕方ない・・こいつらとダンジョンに行く。」

「あら、信用無いわね。

 まあ、足手まといだけど我慢してあげる。

 ハンナちゃんとアンナちゃんを任せるわ。」

「・・ああ。」

    来襲

 突然、アンナが震えだす。

 同時にハンナも・・

「ドラゴン、くる。」

 ルーシーが言う。

「どうやらその様ね。

 数500。

 大型20。

 黒龍5。

「は?おいおい、そんな数・・」

 アリアの額から燃える眼が開く。

 アリウス、そして、十兵衛ともう一人の若い女性。

 カーミラが、ひっと短い悲鳴を上げる。

 アリアが、

「あら、ほんとに珍しいわね。

 手を貸してくれるの?

 ルーシーの世界でも霧の中で、普段は全く我々に干渉しない、5人の「シークレット」影の住人のあなたがねえ、ラミア。」

「気にするな。

 気が向いただけだ。」

「・・吸血鬼の真祖にして始祖、大魔導士にして最古の吸血鬼。

 古の・・邪神に挑み、存在が消滅したとされる・・」

「そこのお嬢ちゃん、カーミラと言ったか。

 私の好物はニンニクマシマシだよ。

 ルーシーと出かけるとラーメン屋巡りが楽しみでねえ。」

「・・只のニンニキーババア・・ぐえっ」

「言葉に気を付けな、ガキ!」

「ラミちゃん、来てくれてうれし~。」

「ルーシーは相変わらず可愛い事言ってくれるねえ。」

「・・おまけに孫馬鹿・・ぐええっ。」

「・・ほんとに口の減らない子だねえ、カーミラ。」

「おいおい、ワシらもいるぞ。

 相手がリッチなら、いつぞやの借りが返せるな。」

「久しぶりの戦闘、か。

 腕が鳴る、な。」

 アリウスと十兵衛が、にやりと笑う。

 シリウスは、

「ルーシーの仲間って一体何人いるんだ?

 しかも、皆化け物ぞろいってか・・」


 



 

 

 

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