宴の残り火 2章ルーシー 第2話

     ジル・ド・レェ

「不完全ながらもルーシーの力を使っている?

 ジャンヌがいなくても?

 厄介な状況みたいだね・・・まあ、想像はつくけど・・・」

「でも、お姉ちゃん死んでないよ?」

「恐らく、ジャンヌの心臓とやらを食べたんじゃない?

 多分彼の中では、遺伝子の暴走状態中だと思う。

 それならジャンヌの位置が分からない説明がつくし・・・」

「えっ!おねえちゃん食べられちゃったの?」

「多分ね、表現が悪いけど現在食あたり中ってとこかな・・・無茶な事をする・・・」

 マリエルは、

「普通の人間がルーシファーを取り込んだとしても別にどうもしないのでは?」

「ルーシーは単一の遺伝子が人間を模して46本のセットを構成している。

 遺伝子一つ一つに、「ゲート」と呼ぶ亜空間が存在して、世界「ルーシー」とリンクして、遺伝子情報を常時接続している。

 世界「ルーシー」には僕達の世界の、今までの旅の情報も、混在しているから本来は、暴走したらこの宇宙ごと弾けてビックバンが起きたとしても不思議じゃあ無いんだけどね。

 恐らくジャンヌが内側からかろうじて制御しているんじゃあないのかな・・

「そんなに恐ろしい状況なのですか・・・」

 吸血鬼の長はため息をつく。

「それを聞いても、あまり興味無さそうなあなた達は・・・

 とんでもないお方達ですな・・・

 ますます、何とかして頂きたいのですが・・・」

「まあ、僕らの目的は君達の言うジャンヌの回収だからねえ。

 同じ事になると思うよ。

 じゃあ、報酬を要求する。

 今晩ここに泊めてよ、美味しい食事付きでね。」

「ごはーん!」

 ルーシーの顔がぱあっと明るくなる。

「ははは、ようございますとも。

 腕を振るわせていただきますよ。」

 その晩は、小さな宿屋から明るい笑い声が響いていた・・・

   出発

 朝が来て、ルーシーの寝ていた部屋から、アインとツヴァイがふらふらした足取りで、部屋から出てくる。

「やっぱりどんなミッションよりもハードだわ・・・」

「でも、可愛い寝顔には敵わない・・・」

 吸血鬼の長こと宿屋の主は、

「夜中に結構凄い音がしていましたが・・・お疲れさまでした・・・」

「大丈夫よ、楽しくてしてるのだから・・・」

「ふふっ。」

「あなた達はクローンなのですか?」

「似たようなものね、私達は4分割された授精卵・・・

 もう一人がジャンヌ・・会いたいわ・・・」

「さあ、朝食の準備をいたしますね。

 後しばらくしたら、妹さんを起こしてあげてください。

 あんなに喜んで食べていただけたら、こちらも作り甲斐があるというもの。」

「分かった。」

 やがて、ルーシーも起きてきてみんなで朝食を食べ、

 出発の準備をする。

 マリエルは、吸血鬼の長に向かって、

「ありがとうございます。

 あなた達は、人間をどう思っているのですか?」

「私達は、自分達を人間から派生した者と位置付けています。

 私達の間でも実際争いはありました。

 只、今回の事は呆れましたがね。」

 ルーシーが、マリエルに向かい、

「マリちゃん、ジャンヌおねいちゃんが火あぶりになる時、誰も助けようとしなかったか?」

 じっと真っすぐな目で・・・

「・・・ジル・ド・レェだけだった・・・ごめんなさい・・・」

 耐えきれず、うつむくマリエル。

「分かった・・・」

 そして、一行はジル・ド・レェの領地に向かう。

       人の住む街

 数日後、一行はジル・ド・レェの領地である城塞都市に着く。

 途中の夜は必ず吸血鬼の襲撃を受ける。

 かなりの数だったが、ルーシー達の敵ではない。

 十兵衛や、アインとツヴァイは、難なく片付けていく。

 マリエルはそれを驚いて見ていた。

 門の前でルーシーが、

「あーけーてー!」

 開かない・・・

「・・・ケロちゃん、ミサイル発射よーい。」

「おいおい、ルーシー」

 流石に十兵衛が止めようとすると、ゆっくりと門が開く。

 老婆が一人佇んでいる。

「ミサイルは困るわ・・・久しぶりねマリエル。」

「君江・・・」

「そちらは・・そう、貴女がルーシーね。

 それにプロジェクト・ルーシファーの2体・・と?」

「・・柳生十兵衛、だ。」

「・・・これは驚いた・・本物?」

「・・・自分では偽物と思った事は無いな・・・」

「まあ歓迎するわ、入って頂戴。」

 馬車は中に入る。

 街はそのままの街並、人も多い。

「この街はジル・ド・レェの街。

 彼が民を守っているの。

 満身創痍になりながらね・・あの状態になりながら・・」

 ルーシーは、

「食あたりなの?おねえちゃんたべたから?」

 君江は驚いて、

「どうして知ってるの?」

「ハカセに聞いた、はいこれ。」

 イヤホンを差し出す。

「やあ、久しぶり、君江。」

「先生、・・・この悪寒は、間違いなくヲタク先生。」

「ハカセ達みんな、でしにひどいあつかいされてる・・」

 ルーシーは、呟く。

「ほっとけ、悪いか?」 

 君江はくすくす笑う。

「まあ慕われている事にしておきましょう。

 それで、ここに来たのは何故?」

「ジャンヌおねえちゃん迎えに来た。」

「そう、ジル・ド・レェの体ももう持ちそうにないし、潮時かしらね・・・

 長い間の戦いの後の、残された者達の宴の残り火が今、やっと消えようとしているのね・・

 城に向かってちょうだい。

 ジル・ド・レェと、おそらくジャンヌもあなた達を待っているわ。 

      ジル・ド・レェ城

 かくして城に入る。

 誰もいない・・・

 君江は、

「誰もいないわ・・・ジル・ド・レェに恐れをなしてね・・・

 彼は定期的に発作を起こす。

 その遺伝子の暴走を抑えることが出来るのは、今は本当の吸血鬼の遺伝子情報。

 もうそれも限界だけどね・・・

 マリエルは、

「それで吸血鬼を襲っていたの?」

「そうよ、機動甲冑で強引に肉体を閉じ込めて、抑え込みながらね・・・」

「そこまでして何故・・・」

「ジャンヌの復讐かしらね。

 そちらはまだ出来ていないから・・・」

「教会?」

「彼らは吸血鬼を造り、失敗してジャンヌに倒させてその挙句、ジャンヌを殺して

 安泰と思ったけど、吸血鬼は全滅していなかった。

 恐らく、次に狙われるのはルーシー、あなたよ。

 ジャンヌの生まれ変わりと言って同じ事をしようとするでしょうね。

 向こうには今、サリアもいるわ・・・

 馬鹿な子・・・」

「死にたくないのは、馬鹿な事?」

 何故かマリエルは、君江に食って掛かる。

「私は結局怖くて、悲しくて、申し訳なくって、機動甲冑の騎士たちのメンテナンスをしてきた・・・自分達がしたことだから・・・

 でも今ならわかる。

 生きる為にあがく事は、悪い事?」

「いいえ、でもねじゃあ聞くけど、諦めて火あぶりにされたジャンヌは悪いの?」

「それは・・・」

 間をおいて、

「生きる為に戦うこと、悪くないとルーシーは、おもう。

 でもね、吸血鬼が出来たのは悪い事。

 悪くない人いっぱい、しんだのはわるいこと・・・

 だから、ルーシーは、せんそうきらい。

 吸血鬼もきらい。」

「・・・もうすぐよ」

      ジル・ド・レェとジャンヌ

 玉座に座るジル・ド・レェ。

 両目は赤く光っている。

「何者だ・・・ジャンヌ・・・」

 驚きの眼で立ち上がる。

「おねえちゃん返して・・・」

「お前がジャンヌの言っていた・・・

 ずっとジャンヌに聞かされていた・・・かわいい妹、大切な妹、とな。

 ルーシー、だがジャンヌは死んだ・・・

 お前に逢えなかったのを後悔してな・・」

「ううん、おねえちゃんまだ、死んでないよ。

 じっちゃんの中で暴走押さえてる。

 だから、じっちゃんとおねえちゃん切り離して、ルーシーにする。

 そうしたら正常にりんくできるの・・・

 ルーシーから、星空が伸びるとジル・ド・レェの足元から、銀の霧が出る。

 いつの間にかルーシーの隣に立つ二つの人影・・・

「ジャンヌ・・・」

 ジル・ド・レェは呟く。

「ジャンヌおねえちゃんのお姉ちゃん達、アイおねえちゃんとヴァイおねえちゃん。」

「お前達は4人姉妹なのか・・・」

「私達は末妹ルーシーの為に存在する。

 ジャンヌ、お前はどうだ?

 ルーシーは大事じゃないのか?、大切じゃないのか?大好きじゃないのか? 

 4人で運命を切り開くぞ!」

 霧の中にぼんやりと人影が出来ていく。

「ああ、かわいい妹プロッツ・・・いいえただ一人のルーシー・・・大事な、大切な、大好きな・・・私の妹・・・

 お姉さん達も・・・そう・・・やっと出会えた、本当の家族・・・」 

 銀の霧の右眼が紅く輝く。

 同時にジル・ド・レェの両目の光も収まり右眼が紅く輝いている・・・

 ルーシーの星空が戻る。

 完全に正気に戻ったジル・ド・レェと、その傍らにナノマシン体となったジャンヌ。

「今の私はジル・ド・レェの中にある心臓が本体。

 同時にこのルーシーで出来た、ナノマシン体も私・・・

 ねえ、ジル・ド・レェ、私達と共に来てくれる?」

「いうなジャンヌ。

 良き旅路を共に歩もうぞ。」

「じゃあ解決~」

 ルーシーはにこおっと笑った。

      復讐の行方

「ルーシー、ありがとう。

 礼を言う。

 ジャンヌを蘇らせ、 我を直してくれて・・

 で、そのー、じっちゃんて我の事?」

「そー、じっちゃんこれからよろしくね~」

「・・・まあよいわ。

 それで、今少し時間をくれんか?

 どうしてもこの世界でやらねばならない事がある。 

「ふくしゅー?」

「・・・そうだ。後、残りの吸血鬼も片付けたい。」

「ホントの吸血鬼も?」

「いや、彼らは実際我々にはむしろ協力的だった。

 我が自分の維持の為彼らを襲っただけで、謝りたいくらいだ・・」

「その謝罪は受け入れよう、ジル・ド・レェよ。」

 吸血鬼の長の通信が入る。

「感謝する。

 人間の造りし吸血鬼を消し去ることをもって感謝の気持ちを表す。

 だが、教会のやりようだけは我慢ならん。

 ジャンヌは、反対かも知れんがこれだけは譲れない。」

 ジャンヌは、何か言いかけて諦める。

 ルーシーは、

「ルーシーは、お姉ちゃんいじめたみんなきらい、だまってみてたみんなもきらい。

 だから、あばれることにする・・・

 とりあえずみんなは撤収、今回はお姉ちゃん達もおねがい。」

「了解した、暴れすぎるなよ、」

 アインとツヴァイはルーシーの頭を撫でてふっと消える。

 十兵衛も、

「まあ、これ位大丈夫だろう、遊んで来い。」

 ニカッと笑い消えた。

 マリエルは、君江と顔を見合わす。

「教会全部と吸血鬼全てを相手に遊ぶって・・」

 ハカセ、

「可哀想になあ、相手がな。

 クククッ、ハハハッ」

 再び顔を見合わす二人。

「ハカセ達悪乗りすると怖いからな~」

 長が、

「・・・避難艇出だそうか?」

「・・・お願いします。」

   大暴れ

 避難艇に領地の民とマリエル、君江を乗せて避難艇が月に向かう。

「さあ、行くぞ。」

「いくぞー!」

 あきらめ顔のジャンヌも騎士姿になっている。

 漆黒の機動甲冑を着たジル・ド・レェ。

 そしてルーシー。

 星空が伸びると、ケロちゃん、クロちゃん、キーちゃん、ナナちゃんが姿を現す。

「プログラム・ルーシファー使うと、お月様迄壊しちゃうから、無しで行くよ~」

 しゅっぱ~つ。」

 そこにいる全員の右眼が紅く輝いている。

 こうしてこの星にとって最後の災厄が広がる・・

 マリエル達は星の表面の所々に光が起こるのを見る。

 人工衛星から地表に向かい光が伸びる。

「あれは荷電粒子砲かしら。」

「マイクロウェーブかもね・・・」

 やがて、長に通信が入る。

「おじいちゃん吸血鬼多すぎ、めんどくさいから一回この星壊すね~

 お月様離して~。」

 長が目を向いて、月と連絡を取り合う。

 やがて、星の中心部分からゆっくりと星の輪郭が崩れ出す。

「信じられん。

 個の力で一つの星を壊すなど・・・」

「うーん、本気でブチ切れて世界を二つ同時に壊したこともあったからねえ。

 まあこの位はご愛嬌という事で・・・」

 ハカセが、さらりと言う。

「もう少し離れてね。

 この子が再構成するから・・」

「はっ?惑星を?」

「折角だから完全地球型にするよ、ルーシー。

 まず中心核だ、鉄、ニッケルで構成・・・そうそう重力で圧縮して、やりすぎると融合反応で、超新星爆発を起こすからゆっくりとね・・・

 そうそうそして回転させよう。

 重力が出来たら塵を集めて固めていくよ・・・

 いい感じいい感じ。

 もう少し時間を早く進めよう。

 うーん、思ったより水が無いね。

 しょうがないキーちゃん、近場の彗星から水持ってきてよ、えっ?人使い荒いって?またまた~もう僕等人じゃないよ。」

「・・・なんか楽しそうじゃな・・・」

 マリエルと君江は呆然として見ている。

「まるで神の御業、ね。」

「ふん、この子は人間に造られた只の女の子、さ。

 よし、マントル層確認、重力、大きさはほぼ同じ地球型・・・

 大気、水もOK、ケロちゃん、植物、動物、各遺伝子バンクから合成開始、ここはもう端折って、洪積世以降の生物分布で・・・

 見る見るうちに水の惑星が出来ていく・・・

 長が、

「こんなものを見せられたら、な。

 進化の可能性か・・・

 何時か人間がこれを起こせる日が来る可能性、か・・・」

「誤解の無い様に言っておくけどね、これは特別だからね。

 ルーシーに感謝しなよ。

 あんたのご飯がよっぽど気に入ったんだろうさ。」

「嬉しいのう。

 是非またご馳走させてくれ。」

 突然、避難艇の前に長い髪の女性が現れる。

 長い銀髪の白いワンピースを着た20歳くらいの女性。

「おじいちゃんまたいつか来るね、その時は美味しいごはん食べたい。」

「ああ、いつでもおいで。

 自分が長生きなのが今日ほど嬉しく思えた事は無い。

 またいつかこの星「ルーシー」に遊びにおいで。」

 長がニッコリと笑う。

「まじょはどうする?一緒に来る?」

「私達は残るわ。

 後、いくばくかの間、この星で生きていく。

 元気でね。」

 二人はにっこりと笑った。

 ルーシーは、星空に包まれる。

「じゃあね、バイバイ。」

 ふっと周りの星空に溶け込むように消えた・・・

 

 

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