ルーシー0 第2話

       ママハカセ

 翌日、ルーシーは培養漕から出される。

 プロトがいない為、元気がない。

 いない理由も分かっているのだろう。

「ルーシー、元気だしな、いつか会えるよ、必ずね。

 それから今日から、あたしのことをママハカセって呼ぶの。

 いいわね。」

「・・・なんで?」

「いいから、分かった?」

「分かった。」

「よーし、じゃあご飯食べに行くよ!」

 二人で手をつなぎ、食堂に向かう。

 ヲタクとエロジジイは、それから不思議な光景を見る事となる。

「ねえ、ナ、ママハカセ。」

「パパハカセとマ、ナナおねいちゃん。」

「ナマハカセと、マナおねいちゃん・・」

 エロジジイとヲタクが顔を見合わせて、パパハカセの隣にいるマナおねいちゃんことママハカセに囁く。

「一体どうなっているんだ?

 もし一緒に行きたいのならば、言えばよかろうに。

 あれではルーシーが大変そうだぞ。」

 ナナおねいちゃんこと、ママハカセは、にこにこして見ている。

 ルーシーが培養漕に入っている時に、エロジジイが今なら大丈夫だろうと、

「エッチ・スケッチ・ワンタッチ~。」とナナのお尻を触ろうとして、

「こ~んのエロジジイがーっ!」

 振り向きざまに右クロスをかぶせられて、エロジジイがのけぞって吹っ飛ぶ・・

 ルーシーが、培養漕の中で目を見開き、ごぼっと泡を吐き驚いている。

 ルーシーが培養漕から出てきても、暫く顎にギプスをして、流動食を食べているエロジジイだった。

       準備

 その日まであと半年を切る頃、培養漕に世界のあらゆるネットに繋げる事の出来るシステムを立ち上げるヲタク。

 ナノマシンのグレードアップを図るパパハカセ。

 ルーシーの世界の解析を行うナナ

 遺伝子情報の更新を繰り返す、ママハカセ

 各ユニットとドローンの武装のグレードアップを図るエロジジイ。

 皆、最終の仕上げの作業に没頭する。

 培養漕の中で、どんどん情報のダウンロードを行うルーシー。

 ある日、ママハカセとナナ、そして培養漕から出されたルーシーは、三人で研究所最下層に向かう。

 扉を開け、幾つものセキュリティーを解除して進み、あるドアを開く。

そこにあるのは、二つの培養漕。

 それぞれ中には若い女性の姿、長い銀色の髪、ルーシーと瓜二つの顔立ち・・・

 二人とも目をつむっているが右眼が紅く輝いているのは良く知っている。

「・・・ルーシファー1号機、2号機、ここにいたのね・・・」

 ナナが呟く。

「現在、遺伝子をルーシーに転化中、約7割ってとこね。」

「転化が完了したら、最終調整を行い、その後あなたがルーシーの世界に送ってね。」

「ナマおねいちゃん、お姉ちゃん達のお名前はなんていうの?」

「・・・なんか本当に混ざって来たわね。

 まあいいわ、アインとツヴァイ、よ。」

「じゃあね~アイおねえちゃんと、ヴァイおねえちゃん。

 お話しできるのたのしみ~」 

 ルーシーが、にこおっと笑った。

 ふと、培養漕の中の二人も微笑んだように見えた・・・

「ルーシー、もうちょっとこの二人を見ていてくれる?」

 こくんと頷くルーシーを置いて、二人は隠し扉から、もう一階層下に降りる。

 8つの培養漕があり、最後の一つ、ナナと書いてある隣にある、一つだけ中が入っている、培養漕の通話ボタンを押す。

「エイス、聞こえる?最後の任務よ。

 損な役回りだけど、貴方にお願いします。」

「お姉さん方、分かっています。

 私は最後の時まで、あの子の母親でいましょう。

 損な役と言いますが、私は例え短い間でも娘と、家族と共に暮らせるなら嬉しいです・・・」

「・・・ありがとう・・・」

       5つ目の石の欠片

 翌日よりルーシーが、培養漕に入る。

 いよいよ、最後の調整だ。

 その晩、ルーシーの培養漕でナナとエイスが機器の微調整を繰り返す。

 そこに、N・カーター博士が入る。

 実は、時空を超える石本体には寄り添うように欠片が一つ付いている。

 彼女は、我が子ルーシーをそっと抱きしめる。

 ナナが知る限り、初めてルーシーに・・・

 やがて、彼女は完全に欠片に取り込まれ、培養漕の中はルーシーだけとなる。

 心なしか、ルーシーも微笑んでいる様だ。

「さあ3日後はあたし達をお願いね、エイス。」

「ええ、分かったわ、ナナ姉さん。」

 そして、3日後から、ハカセ達は一人、また一人と、いなくなる・・・

 最終調整を終えてルーシーが、培養漕の中から出た時研究所には、エイスのみ。

「ルーシー。

 お願いがあるの、私達だけだからママと呼んでくれたら嬉しいな。」

「うん、ママ。」

 ルーシーが、抱き着いて甘える。

 それから、ルーシーはママと一緒に暮らす。

 朝はユニットの培養漕に向かう。

「おはよ~ケロちゃん」

「・・・あーっ!」

「どうしたの?」

「クロちゃんが銀色になっちゃった~」

「ああ、不安定だったナノマシンが安定したのね。」

「せっかくなまえ、クロちゃんにしたのに・・・めんどくさいからクロちゃんでいく。」

「そ、そう・・・」

「クロちゃん、元気~?」

「キーちゃん、早くおっきくな~れ」

 ユニット・サラマンダーの前に立つ。

 じっと見る。

「ルーシー、この子には何て名前を付けたの?」

「・・・ナナちゃん。」

 エイスは、はっとする。

 最終調整で、この子はナナに関する記憶を消している筈だ。

「ルーシー、あなたに搭載されたAIのコードを教えて?」

「ん~、パパハカセ、ヲタク兄ちゃん、エロジジイとママハカセ。」

 一応、正常の様だ。

「でもね、ママハカセは、ナナおねいちゃんだよ。」

 ・・・これは後の計画に影響を与えるかもしれないが、エイスには記憶操作の術がない。

 いずれ、再調整をしてもらうしかないだろう・・・

 そして、二人は最下層に行く。

 アインとツヴァイは転化が終わり、培養漕から出されルーシーと対面した。

「アイお姉ちゃんとヴァイお姉ちゃん。」

 二人に飛び込んで、順番にギューッと抱き着く。

 今まで、ルーシファーとして数々の実験や戦闘をこなしてきただけの二人は、

 戸惑いながらも、微笑んでルーシーを抱きしめる。

「少し前と違うようだが、コード「ママハカセ」、お願いがある。

 私達を再調整してくれないか?

 この子の為、現在の大量破壊型から、隠密行動向きの暗殺機に、

 統括ドローンも、対人用ドローン兵器メインで。

「それなら私でも出来そうだけど、あなた達はそれでいいの?

 姉さん達はそれを望んではいないと思うわよ。」

「・・・私達は「ルーシファー」。

 かわいい妹「ルーシー」の為にこの身全てを使う・・・」

 二人は頷き合い、真っすぐな目でママハカセを見つめる。

「・・・判ったわ。」

 こうして二人は再び培養漕に入り、再調整が終わると目覚める事なくルーシーの星空に、回収された。  

 それから、ルーシーはテレビを見たり、ママと遊びながら、楽しく毎日を過ごす。

 ニュースでは毎日、テロ、暴動、戦争など・・・

「やはり、これが人類の業なのかしら・・・」

「ママ、戦争無くならない?」

「そうね、でもいつかは・・・」

 そうしてついに旅立ちの日が訪れる。

 培養漕から出された4体の「ユニット」

 それぞれから星空が広がる。

「さあ、準備が出来たわ。

 最後の時は見せたくないから。

 皆、元気でね。

 さあ、ルーシーも・・・

「ママ、さいごにギューして。」

 抱き合い、そしてルーシーは星空に包まれる。

 パネル操作をして、ログを消去作業しながら実行する。

 これで、この子は容易に返ってこれない・・・

 ふっとルーシーが消える。

 エイスは日記を書いていた。

 わずかばかりの間の楽しかったこと・・・

 読み返して、最後のページに一文を書く。

「ルーシーに幸多からんことを。」・・・

 あと、どれだけ生きていられるか分からないが、この日記を毎日読み返しては微笑むことになるだろう・・・

             そして冒険に・・・   

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