はだしのルーシー2~ルーシーという名の異世界
大場 雪
弁慶記 第1話
プロローグ
ある女性が、鬼の子を産んだ。
体内に18ヶ月宿り、生まれた時には歯も生え揃っていたと言う。
鬼若と呼ばれ、京の叔母の元に出され、やがて寺に送られたものの、寺も出ることになる。
後に、武蔵坊弁慶と名を変え、願をかけ1000本の刀を集めようとする。
1000本迄あと一本になり深夜、京の五条の橋でつわものをやってくるのを待つ所から、物語は始まる。
出会い
その日弁慶は、深夜に橋の上で誰か来るのを待っていた。
この時間では普通の住人や旅人は通らない。
通るとすれば、よほど豪胆な者か、腕に覚えのある者、日中歩く事の出来ない事情のある者か。
果たして、向こうに人影が見える。
が、
「童、か。」
不思議な雰囲気の子供だ。
が刀を持っている。
「やれやれ、仕方ないか・・・
そこの童よ、刀を置いて行け。
ある願掛けで、わしは1000本の刀を集めている。
つわものなれば、勝負して奪い取るが、童ではそうもいかん。
しかしあと一本で1000本なれば・・・」
「いやだと言ったら?
勝負するのかい?
只、お主妙な気配だな?
体もそうだが、体内にも何か流れているな。
筋肉も、強化されている様だし。」
弁慶は、驚く。
「童、わしの事が分かるのか?
鬼の子と呼ばれ、生まれつき人より遥かに強いこの体、そして一度戦いになると、自分を押さえることが出来ぬ・・・
そういう童も随分変わっておるの。
まるで、外見と中の意識が別人のように見える。
憑依?いや、溶け込んでいるような・・・」
突然、二人同時に横を向く。
音が消え去り、周囲の空気が凍り付く感覚。
足元に星空が広がり、振り向いた一点がみるみる少女の形をした星空になる。
ワンピースを着た髪の長い少女・・・
「これは・・・次元移動か・・・」
童が呟く。
「次元移動・・・」
弁慶も呟く。
瞬間、見えない何かが弾け現れた少女がふわりと着地する。
二人を見て、
「こんにちわ、あたしルーシー、世界を旅しているの。」
にこおっと笑った。
邂逅
ルーシーが二人を見て、首を傾げる。
「二人とも、補助脳がある~」
「あら珍しいわね?この世界では標準装備なんだろうか?
あたしらみたいに、AI搭載型ではないみたいだけれど・・・
只、あんたの方は今脳が機能していない・・補助脳がメインで体を動かしている。
まあ、これを補助脳と言っていいのか・・・」
「君は何者だい?
かなりの分析力みたいだけど、確かにこの子は我が見つけた時不慮の事故でほぼ脳死状態だった為、この子の中に入って機能維持している状態だけど・・・
一応自己紹介するけど、鞍馬山に住んでいて天狗と呼ばれていたよ。
あ、この人は今初めて会った所さ。」
「お主は何者だ?
ここで初めて通信細胞が機能したが、聞こえる声からすると中に誰かいるのか?」
ルーシーは、答えずにじっと弁慶を見る。
弁慶は、ルーシーの右眼、銀の瞳の中心部と縁が紅く輝いているのに気づく。
「この人、生体改造されてる。」
「私達よりは旧式のナノマシンなのと補助脳にはAI搭載されていないか・・」
「ワシらより数段美しさが無いのう・・・」
「あんまり楽しそうな所じゃなさそうだよ、僕ら向きじゃあないね・・・」
「野蛮よ野蛮、とっとと次に行きましょ。
こんなのがごろごろいるんじゃあ、ろくな世界じゃあ無いに決まっているわ。」
さらに複数の声が聞こえて、弁慶は混乱する。
「いったい何人いるんだ・・・」
「まず誤解を解いていこう。
我は京の鞍馬山に天狗と呼ばれ、棲んでいたけど、この子が寺から逃げて平家に追われ、崖から落ちた所に、偶然出くわしてね。
そのまま死なせるのも可哀想だったから、取り敢えず中に入って現在治療中ってとこ。
只、回復できるか微妙な所。
この子は源氏の九男、九郎義経。」
「源氏の子か・・・
わしは、武蔵坊弁慶。
人から生まれたが、どうやら偶然飛ばされた先がそうだった様だ。
わしは戦闘中に、何か空間移動らしき物に巻き込まれた様だ。
わしらは、突然に空間を移動してくる謎の生命体と長く戦っていた。
元の世界に帰るすべもなく、時間もあるので願をかけて刀を1000本集めていた。」
「しょうがないわねえ、今回はあたしが順番だから説明すると、この子はルーシー。
あたし達の世界は、太陽に中性子星が衝突して滅んだの。
それが、避けられない運命だと悟ったあたしたちは、偶然手に入れた「時空を超える石」を使い、この子ルーシーを造った。
時空を超える遺伝子、亜空間「ゲート」を持ち、その先につながる世界に出来る限りのデータを託してね・・・
ルーシーはこの子の名前であり、遺伝子の名前であり、この子の持つ世界の名前・・・
あたしたちの、今はもういない人類の生きた証、墓標ってとこね。
ああ、あたし達AIは4系統ね。
暫くはあたしが表にいるわ。
呼び名はハカセでよろしくね。」
義経は、
「さて、どうやら偶然だけどこの世界にとって「異物」な3人が揃ったみたいだけど、これからどうするの?
せっかくだから、一緒に行動した方が良くない?
取り敢えず、この子の記憶には、寺から連れ出した人が、鎌倉か奥州にと言っていたらしいけど。」
「その子が、あたし達の知る源義経であっちが武蔵坊弁慶ならば、否応にも戦争に巻き込まれる事になるでしょう。
あたし達に近い世界ではあるだろうけど、全く同じではない筈だけどね。
まあ、奥州に行くならご一緒するわ。
弁慶、あんたはどうするの?」
「わしは、戦うことが本分故、義経殿についてゆこう。」
「決まりね。
じゃあ奥州に行きましょ。
途中の戦闘はあんた達に任せるわ。
ああ、こちらは守ってもらう必要は無いわよ。
情報は、必要なのはそっちにも教えるから。」
ルーシーの足元から星空が伸びると、銀色の烏が出る。
立っている2本の足に加えてもう一本の足が生えている。
そして紅く光る右眼。
と、右眼ともう一本の足が体の上を無軌道に動き出す。
「これは、まるで・・・」
「ユニット・ヤタガラス。
この子には後3体、「ケルビム」「亀王」「サラマンダー」のあわせて4体のユニットが付いているの。
この文明レベルならば、国家どころか惑星レベルの軍事力でも相手にならないでしょうね。」
「じゃあ~クロちゃん行ってらっしゃあい~」
飛び立っていく烏を見ながら、弁慶は思った。
もしかしたらルーシーは、わしを元の世界に連れて行く事が、出来るのではないか・・・
「ベンちゃんは、元の世界に帰りたいか?」
見透かしたようにルーシーは、弁慶に話しかける。
「まあ、そうだな。
最も、帰りたいと言うよりは、向こうの世界の戦況が気がかり、と言う方が正しいか。」
「ふ~ん。」
義経が、
「ねえルーシー、悪いけどその髪の毛何とかしないとね。
この国は他国との交流が無い。
君の容姿は非常に悪目立ちするんだ。」
「こう?」
突然、ルーシーの髪が漆黒に変わる。
両目も黒くなる。
只、右眼の中心と瞳の縁は紅いままだが・・・
「それで十分だよ。」
「便利なものだな。」
弁慶も感心する。
「まあ、この子の遺伝子情報は「ルーシー」と言う遺伝子に定着している訳ではないからね、書き換えは自由にできる。
何なら見た目の年齢も操作可能よ。
肌の色も含めてね。
あ、そうそう、通信回路から、ヲタクの奴があなた達にハッキングして現在の状況や、言葉のデータはもらったわよ。
その代わりに会話しやすい様に、私達の知識も一部ダウンロードしといたわよ。」
「いつの間に・・・」
「すごいな、お前達の世界は・・・」
「あたし達は、おそらくこの世界の流れが、全てでは無いにしろ知識として分かっているわ。
全く同じ世界ではないけどね。
不公平だからあらかじめ言っておくけど、あなた達は平家を滅ぼし、その後用済みになり兄頼朝に殺される。
あなた達をかくまった事で、奥州藤原氏もね・・・
それでも奥州に向かう?」
義経は、
「まあ、義理もあるしね。
何より、最近の平家は・・ね。」
弁慶も頷く。
「じゃあ、しゅっぱーつ!」
ルーシーの合図で、奇妙な3人組の旅が始まる。
旅路
義経の提案で、東海道は目立つし距離が延びるので、鈴鹿の関を超えてから、一度北上して日本海側から奥州を目指す。
道は険しくなるが、この三人ならあまり苦にはは成らないだろう。
最も、ルーシーはいつものワンピースから、着物に着替えさせられ、
「うごきずらーい、重ーい!」
駄々をこね、しまいには地面をスケートの様に滑りだした為、慌てて今は弁慶の肩に乗せている。
「楽ち~ん、それに高~い。」
ルーシーはご機嫌だ。
弁慶の頭の中で、ピッと電子音が鳴る。
「秘話回線を開いたわ。
口に出さなくても伝わるから、そのまま聞いて。
あの義経はあまり信用しない方がいいわよ。
彼は恐らくあたし達の事を最大限利用するつもりでしょう。
目的はまだ分からないけどね。
後、私達は基本1年程度を目安にこの世界にいる事になるでしょう。
只、戦争に巻き込まれた場合は、この世界を離れる事になるでしょう。
この子の為、あたし達は多数決で、緊急移動の権限が与えられているの。
この子の持つ力は、殆んどの世界では過ぎた力だしね。
もし本当に元の世界に帰りたいのなら一緒に連れて行くことも出来るわよ。
只、間違いなくとも言い切れないけどね。
あたし達は言った様に、元々あてのある旅でもないしね。
すでに帰る所も無い、いつまで続くかもしれない旅よ。」
「まあ、気が向いたら、な。」
それにしてもと、弁慶は思う。
決して目立ちたくは無いが、自分は僧兵。
義経は武家の若君。
ルーシーは、どこかの貴族の姫君。
あまりに目立ちすぎる・・
「盗賊には格好の獲物に見えるぞ・・」
弁慶はため息をつく。
「だいじょーぶ、前はクロちゃん飛んでるし~ここはケロちゃんいる。」
いつの間にか、ルーシーの着物の端に銀色のカエルが張り付いている。
弁慶に向ける右眼が紅く輝いている。
「ルーシーの下にはキーちゃんいるし、後ろにナナちゃんがお姉ちゃん達連れている。」
「お姉ちゃん達?」
「アイお姉ちゃんとヴァイお姉ちゃん。
後ねサッキーとサッシーも来てる。
ナナちゃんがね、連れてきてくれるんだよ。
一緒に旅したり~助けてくれる人。」
「どうやら本当のお姫様、だな。」
弁慶が呟くと、ハカセが、
「言っておくけどルーシーは、今は違うけどその元の遺伝情報は、あなた以上の戦闘兵器よ。
右眼は、34本の同時に個別照準可能のレーザー発振器、各種センサー内臓、
補助脳は、4系統のAI搭載で陸、海、空、宇宙のドローンを一括して統括、人工衛星ともリンク、先程の様にハッキングやダウンロードも出来る情報戦も可能。
更にその指令系統の補助ユニット。
各種陸上ドローン統括、援護用多目的駆逐戦車、ケロちゃんこと、「ケルビム」
各種航空ドローン統括、多目的戦闘機、クロちゃんこと「ヤタガラス」
各種海上、海中ドローン統括、武器庫兼旗艦、キーちゃんこと「亀王」
各宇宙用ドローン統括、人工衛星リンク、お友達の管理、ナナちゃんこと、「サラマンダー」
4体のユニットが、常にルーシーを補助している。
この子は常に、あたし達がいた世界でも1国以上に相当する軍団を常に引き連れていると言ってもいいわ。
でもね、この子は生まれはどうあれ今は兵器では無いわ。
滅びた世界のデータを持ち、無限とも言える時を、世界を旅する、「プロジェクト・ルーシー」、人類の墓標計画・・・
「・・・率直に言わせてもらえば、随分と酷い事をしている様に思えるがな・・・
聞く限りでは、この子の意思を全く無視して兵器として造り、世界から放り出した様にも聞いて取れるがな。」
「その通りよ。
私達科学者のエゴで、勝手に何か残したくて、この子を異世界に放り出したのは紛れもない事実。
只、この研究に係わった5人の博士の内2人は、この子にとっては実の両親。
たとえ、どんな形になろうとも我が子に生き延びて欲しかった気持ちはあったかもね・・・」
「・・・すまん、言い過ぎた。」
「いいえ、事実だから気にしてないわ。
所詮あたし達はAIの文字通りの人でなしだからね。
只、お願いがあるの。
なるべくルーシーの前では、人を殺さないで欲しい。
この子にはショックだし、あなたの為でもある。
あなたも、元から命を奪うことに抵抗を感じるのでしょう?
あなたに搭載されている戦闘用補助脳は、戦闘態勢に入ると、興奮剤や各種アドレナリンが、分泌される仕様になっている。
一度戦闘状態ななると、我を忘れるのでしょ。
寿命を縮める事になるし、いずれは冷静な判断すら出来なくなるわよ。
あたし達の世界でも普通にあった・・・
兵士に配布される戦闘薬と称される、覚せい剤や麻薬・・・
サイボーグ兵士に搭載される、バーサーカーモード、
死ぬまで戦い、最後は巻き込んで自爆する狂戦士・・・
少し補助脳の設定をいじらせてもらったわ。
その機能にオン・オフのスイッチを造らせてもらったわ。
後、ナノマシンもいじらせてもらうわね。体調の維持管理優先にする様にね。
「それはありがたい。
礼を言わせてもらう、約束も努力すると誓おう。」
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