第12話 大親友のマーカス編
「あ、朝だな。うっ。な、なんで苦しいんだ!?」
目を覚ますと、俺はシリちゃんの抱き枕になっていた。
ぎゅっと抱きしめられていて、俺の顔は、ちょうどシリちゃんの胸の中だった。
シリちゃんの胸は大きいものだから、とっても柔らかくて、拝みたいくらいに有難いものだけど、このままだと俺は息が出来そうにないので死にそうです。
それに、彼女の抱きしめ力が強いです。
神官なのに、力が強いのは、なんででしょうか。
俺にも一つその力を分けてほしいところだ。でも盗賊に力って意味があるのか。
戦闘スタイル的には意味がなさそうだな。
と冷静に考えている時間はなさそうだ。
「シ、シリちゃん。めっちゃ苦しいんだけど」
「え? あ、ク~ちゃんだ。朝起きてもク~ちゃんがいる!」
「いや、昨日会ったじゃん。なに、夢だとでも思ったの?」
「だって、いなくなったじゃん。酷いよぉ」
「ああ、はいはい。もうその話はいいから、とりあえず、離してちょ」
「駄目」
「え?」
「もういなくならないって、約束してくれたらこの手を離してもいい」
デレモードのシリちゃんには素直に従った方が上手くいく。
「わかった。勝手にはいなくならないから、とりあえず呼吸したいです」
「うん。じゃあいいよ。あたし、離すよ。離すからね。離してもいなくならないでね。絶対だよ。絶対だからね。逃げないでよ」
「約束するから、お願いします」
どんだけ警戒してんだよ。
でも俺は『いいから離せよ』なんて野暮な事は言わない。
なんだか一生懸命なので、こんな事言ったら可哀想なのだ。
「じゃあ、はい」
と大人しく離してくれたので、俺は起き上がった。
「うわあ。首が痛てえわ」
長く抱きしめられていたのか。それとも強く抱きしめられてたせいなのか。
首だけじゃなく、俺の体の節々が痛かった。
「ん? ふわあああ、牛丼食べたい!」
と言って、アイちゃんが豪快に起きた。
ご飯要求という珍しい寝起きである。
「お。アイちゃん。起きた?」
「うん。ク~ちゃんがいる! やったね」
「いるよ。そりゃ。一緒にここまで来たんだからさ」
「うん・・・あれ? ん。なんで、シリちゃんいるの?」
指摘されたシリちゃんはと言うと、俺の左肩に顔を寄せて喜んでいる。
俺の肩の何が面白いのかはわかりません。
「昨日会ったのよ。それ教えたかったのに、皆起きねえからさ。教えられなかったんだよ」
「そっか。でもベタベタしてるね。デレモードのシリちゃんだね」
「まあな。ほとんど人の話を聞かないモードだ」
俺とアイちゃんは頷き合った。
「ク~ちゃん。離さない~」
「はぁ。駄目だこりゃ」
俺の疲労は朝から重なるのである。
◇
その後、気を張ってくれたのか。
シリちゃんはまともになった。
ツンモードに戻ってくれたのだ。
そして、そのシリちゃんとの再会を喜んだアイちゃんとゴっちゃんの二人。
ようやくそろって来た俺たちも、残すところはマー君だけとなった。
「そんじゃ、早く行こうか。その村にさ」
「ああ。いいぜ。と言う事でだ。急ぎで行くなら、ク~ちゃん。俺が担ごうか」
「担ぐってなんだ? 俺を担ぐ???」
ゴっちゃんが急に担ぐと言って来た。
何の事だと思いきや、有無を言わさず俺を肩に乗せた。
「うわ。なんだ」
「アイちゃん。魔法で移動って出来るか」
ゴっちゃんが指示を出し始めた。
こういう時は胸騒ぎがする。
上手くいかないかもって話じゃない。
無茶をしてくる可能性があるからだ。
「出来るよ。風魔法で飛べる」
「じゃあ、そっちはシリちゃんを運べるか」
「いけるよ。同じ風に乗せるよ」
「よし。ぶっ飛ばしていくぜ!」
「待て、ゴっちゃん。どんくらいの速度で・・・」
俺の話の途中で、『ドン!』という音が鳴る。
それと同時に、ゴっちゃんが信じられない速度で走りだした。
前から来る風で呼吸が出来ない。
これが仙人の脚力のようだ。
爆速移動が出来る身体はとんでもない速度を生み出す。
「死ぬ・・・死ねって!? おい。ゴっちゃん!」
「大丈夫。大丈夫。あと一分以内にはいけるからさ」
「呼吸止めろってか・・・クソっ。無茶して!?」
これほど息が出来ない速度を再現しているのに、アイちゃんたちもついて来ているのだ。
ゴっちゃん同様、二人とも化け物である。
「シリちゃん苦しくない?」
「大丈夫だ。あたしの結界で、呼吸を取ってる。アイの分も作ってるんだぞ」
「そうなの」
「気付かないのかよ。呼吸苦しくないだろ」
「そうだったんだ。ごめんね。へへへへ」
二人とも凄い事をしているのに、話しているノリは普段通りの二人だった。
というよりも、それを俺にも下さいな。
俺死にそうです!
◇
爆速で村に到着した。
「こ、呼吸がやっとできる・・・死ぬ」
三人無事なのに、俺だけが死にかけた。
ここでも弱さが目立ってしまう。
やっぱり一緒にいると情けない部分が際立ってしまうのだ。
「なんだ。結界か?」
目の前の結界に向かって、ドアにノックするように叩くゴっちゃんが言った。
「だから。あたしが言っただろ。ゴド。人の話聞けよ」
「忘れた!」
「そもそもあたしの話を聞いてねえだけだろ」
「覚えてられないんだわ。わりい」
ゴっちゃんが能天気に言い返した。
「うちが、開ければいいの」
「馬鹿。そしたらあたしが作った結界が壊れちまう」
「そうなの。じゃあ、どうするの」
「あたしと一緒にいてくれれば入れるよ」
「そっか」
とシリちゃんが皆に指示を出してくれた。
「クス。大丈夫か?」
「ああ。そろそろ息が出来てきたよ」
俺の準備が整うと、シリちゃんが結界を開けてくれた。
◇
村に入ると驚く。
ほぼほぼ平穏だった。
村人も普通に生活しているし、数十名の冒険者たちも怪我はしているけど、軽いものばかりだった。
これならば致命傷とは言わないし、再び大規模な戦いにも参加できるはずだ。
「大丈夫そうだけど・・・・マー君がいないな」
「あそこで待ってると思う」
シリちゃんが、村の北の方を指差した。
「ん」
「森はあっちだからな。南側のこっちよりも、あそこが一番突破されやすいんだ」
「そうか。じゃあ行こう」
村の北に到着すると、仁王立ちで立っている大男がいた。
大きな斧は隣の地面に突き刺している。
「マー君!」
「ん?」
のそっと振り向いた。
「おお。ク~ちゃん」
「久しぶりだね」
「ん!」
表情があまり変わらないけど、俺には喜んでくれているように見えた。
マー君はいつも同じ顔しかしない。
眉間にしわを寄せたスタイルである。
「それで、どんな敵なの」
「ん!・・・強い」
「そっか。敵わない感じ?」
「いいや」
「倒せない感じか」
「そう」
「やっぱな。大体は想像がつくな」
俺はマー君の言っていることを理解した。
マー君という人間は、言葉の数がかなり少ないのだけど、たぶんお互いの最大の理解者だと思う。
敵はいつでも倒せるのに、倒せない。
やはり特徴的には不死属性を持っている。
ならばカギとなるのは、物理メインのマー君とかゴっちゃんじゃなくて、アイちゃんだ。
魔法で消滅させないといけないはずだ。
「そうだな。倒す方法を考えていこうか」
俺がぼそっと言うと、マー君が頷いた。
いつも彼だけは大人しく話を聞いてくれるのだ。
三人が忙しなく動く分、マー君の不動な感じが際立つ。
「マー君。敵はその怪物を中心に群れで行動してんの」
「そう」
「この結界付近にいる雑魚は? どんな感じで動くのかな」
「夜。強くなる。朝は緩い」
「そうか・・・なるほどね」
夜行性の動き方だと思う。
マー君はさすがの分析力を持っていた。
「じゃあ、明日の朝がいいな。今日はもう昼に入ってるから、もしかしたら行動を起こせる奴がいるかもしれない。それと他の冒険者でも敵を倒せるんだよね。この漏れてくる敵さ。だったらここは他の人に託した方がいいんだよ。マー君休もう」
「わかった。そんなに強くないから任せる」
「じゃあ、今日はその人たちに任せよう。マー君。皆と休憩に入って決戦準備しよう」
「わかった」
無骨な戦士であるマー君は、俺の言う通りに休憩に入ってくれた。
休憩所に入るとすぐに俺の隣で、壁に寄りかかって座ったままで寝た。
武器も握ったままなので、警戒は怠っていないのだ。
これが安心ポイントである。
マー君は俺の親友の中で最も冒険者らしい男で最高に頼りになる人物なのだ。
こうして、俺たちは明日の朝に決戦をする気であった。
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