第2話 生活保護
生活保護という制度は、文字通り生活が困窮して日常を送るのが困難な人間に、最低限の保証をしてくれる国からのサービスである。
しかしながら、近年不正受給が後をたたず、健康で働ける人でも簡単にもらえる方法はネットにいくらでも載っているのである。
勇太が住むQ県Z市X町の市役所では生活保護や生活困窮者自立支援制度を扱う部署があり、勇太は職員に、医者に賄賂を渡して書いて貰った診断書を持って生活保護の申請をしている。
「では、会社でのパワハラが原因でうつ病になり自殺未遂を図ったのですね?」
「はい、傷跡はこれです」
勇太は手首のリストカットの跡を自慢げに見せつけ、その様子を担当の職員は痛々しい表情で見ている。
「うーん、でもまだ、勇太さんは若いですよね?支援してくださるご家族の方はいらっしゃいますか?生活困窮者自立支援制度を利用するとかは?」
「いえ、私は親がいないのでおりません。それに医者からは就労不可との診断を受けてます。幻覚と幻聴が聞こえ、夜は眠れません」
勿論、勇太が言っていることは出鱈目なのだが、真偽を調べることは難しく、多少疑心暗鬼なのだが、人が良さそうな中年の職員は一応信じることにはした。
「そうですか……分かりました、結果が出るまで1週間ほどお待ちください」
「はい……」
市役所の中は、コロナの補助金や生活貸付金の手続きを申請する人でいっぱいであり、三密で、勇太は配布された生活保護の資料を持ってそそくさとその場から離れていった。
******
「なるほど、来週には分かるんだな」
雄介は、勇太が貰ってきた生活保護のパンフレットを見ながら、ネットで見た知識と照らし合わせて納得している。
「あぁ、それまで節約するわ」
彼らは勇太が住んでいる家賃4万円程のアパートの部屋におり、10万円程度の失業保険が頼みの綱である。
「お前はどうだったんだ?」
「いやな、一応医者に金渡して頼んで、診断書は書いて貰おうとしたが断られた。市役所には行ったが、生活困窮者自立支援制度と職業訓練校を勧められたよ……」
「まぁ俺ら若いからな……」
彼らは、生活困窮者自立支援制度と職業訓練校は知っていたが、仮にそれをやったとしてもワープアと変わらないぐらいの収入にしか稼げないため、二の足を踏んでいたのであった。
「お前これからどうするの?」
勇太は、電子タバコを吸い、テレビから流れるコロナの感染者のニュースを見ながらぼーっとして口を開く。
「うーん、多分職業訓練校に行くかもな。やはりまだ若いから。生保とかもらえそうに無いし。ヘルパーの試験があるからそこやるつもりだ」
「ふーんそうか。ってか、なんか腹減ったから飯食いに行かね?」
「コンビニにしとこうぜ。今どこもやってないぞ」
「あぁそうだったな、緊急事態宣言出てたからな……」
全国では緊急事態宣言が行われ、飲食店は軒並み閉店しており、「厄介な時代になっちまったんだなあ」と彼らは深いため息をついた。
*****
勇太が迫真の演技で、市役所の人間に就労ができないことを理由に生活保護を頼んでから1週間が過ぎ、実家に市役所からのハガキが届いた。
おそるおそる封筒を開くと、そこには生活保護の受給決定が決まった通知が来ており、今月からお金が支給されることが書いてあった。
(よっしゃ……! これで当面働かなくて済むぜ……!)
勇太は心の中でガッツポーズを取ったが、何故か、不意に虚しい気持ちに襲われ、虚無感に囚われた。
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