ギャルは化粧が上手
第一パンデミックは登場人物の選定だ。ゾンビ映画において、人が一か所に集まると、たいていゾンビが侵入し主要なキャラのみ生き残る。そう、決まっている。なんていうが、俺は映画なんて大して見たこともない。ただ、ネットでそういう風に書いてあった気がする。俺はゾンビに気づかれぬよう静かに体育館と逆方向へ歩き始めた。
俺の目的地は屋上だ。この学校の屋上はほとんどの生徒が「入ってはいけない」という校則を律儀に守っているため、ゾンビが仮説どおり、生前の行動を繰り返すのであれば、ゾンビは入ってこないだろう。また、この学校は校舎へ続く階段は2つ、非常階段が1つあるため、逃げ道も確保しやすい。まぁ、階段の数でわかるだろうが、屋上はかなり広い。よかった。よかった。これまで学校を隅々まで調べておいて。
ひゅう、と突然風が吹いた。温暖化を感じる生温かい風だ。急に暖かくなったよな。風の発生源は次の曲がり角、屋上への階段から吹いた気がする。俺は音をたてないようにそっと壁から階段をのぞく。そこには、1人のやさぐれた美男子が立っていた。
その男はやや長めの髪を無造作に乱し、古びたコートを羽織り、どこか不機嫌そうに周囲を見回していた。彼の姿はまるで、現代の憂鬱を具現化したようだった。上靴が赤い、てことは同学年だろう。ただ、こんな強烈な生徒をうわさですら耳にしないことなんてあるか?まぁ、彼が誰だろうとかまわない。とにかく、屋上へ行きたいのだ。
と、一瞬目を離したすきに彼は階段から消えていた。
「やぁ。」
「うわあ!!!」こいつ...いつの間に後ろに?!
その男は無表情のまま、「驚かせてすまない」と言ったが、その声にはどこか諦めが漂っていた。
「君は、どうしてこんな場所へ来たのだい?」と、男は俺を見つめた。
「え、あ、はい、ゾンビから逃げるためです。あなたもそうでしょう?」
そういうと、男は笑い出した。
「ふふふ、ゾンビとはこれまた。傑作じゃないか。」
なんだこいつ。むかつく!早く話を切り上げて屋上に上ろう。
「あ、そうですか。では。」
「まちたまえ。」
よし、無視しよう。そうだ、屋上へ行こう。
「僕はかねてより、退屈という病にかかっていたのだ。無味乾燥な日常に押し潰され、心は乾ききり、何をしても満たされることはなかった。」
ここの階段だけ暗すぎだろ。電気つけるべきだったな。
「僕が君の言うゾンビを傑作と評したのは、君が全くの真実を語っているように思えたからだ。まるでそれが日常の一部であるかのように。」
うっ。ドア、重っ。屋上ってなんでこんなにドア重いんだろうな。
「そうして、ぼんやりと考えてみると、不思議とゾンビという存在が実在するのではないかという思いが頭をもたげてきた。信じがたいことだが、何か直感がそれを告げているような気がする。」
ちっ。こいつ屋上までついてきやがった。一言言ってやろう。
「あ、あの。すみません。」
「ああ、そうだったね。僕は、
大庭という苗字に聞き覚えがある。
「もしかして、学年一の変人の大庭?」
「君はまったく無礼だ。しかし、確かに僕はクラスメイトたちからそのように呼ばれている。」
お、おぉ!ぼっち仲間じゃないか。俺が陰キャぼっちだとしたら、大庭は変人ぼっちだ。ぼっち同士なら仲良くできるかも。
「俺は、
自己紹介したのになんもかえってこない。あれ?まだ俺のターン?
「……?それだけかい?」
絵に描いたように首を傾げ、こちらの反応をうかがっている。
どうしよう、何も話すことない。
「あの、ゾンビから一緒に逃げませんか?」
俺は詰まりながら、勇気を出して言った。すると、彼は笑いながら。
「分かったよ。君が言うゾンビという存在にも興味が湧いてきたところだったんだ。しかし、敬語はやめてくれ。僕は誰かに敬われるほど立派な人間じゃないんだ。」
よし!仲間を手に入れたぞ!!
っと、屋上のドアあけっぱで話してたわ。もしゾンビ来た面倒だし、ドア閉めよう。
「……って、ギャルだぁぁぁあああ!!!!!」
「なんだい?大きな声を出して。」
ギャルだ。ギャルがいる。化粧が濃いから、多分ギャルだ。顔が真っ白で、ぶかぶかの制服を着ている。あぁ、驚いた。ただのギャルじゃないか。こっちに危害を加える様子もない。ただただ、そこに佇んでいる。……?ギャルが静かにしているなんてことあるか?いや、何かがおかしい。と考えていると大庭がボソッといった。
「あれが、落葉の言っていたゾンビ、というやつか。」
あ゛ぁ゛ぁ゛
バタン!とドアを閉めた。ちょっと勢いつけすぎたかも。
「やべぇ、ギャルはメイク濃すぎてゾンビかわかんないわ。」
「君はやっぱり無礼だな。」
くそ、これからどうしよう。ゾンビの性質を誰かがまとめてネットにあげるまで屋上で隠れて絶対に逃げきってやる!
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