必殺技を叫ばないと死ぬ。だが、断る。そう言いたい。
藤咲 みつき
第1話 不幸な死と理不尽な現実
世の中とは不条理である。
近年、人手不足から基本的に今の若い俺たちのような人間は引く手あまたであり仕事など選び放題である。
しかし、俺の親世代は違ったらしく、就職氷河期なとどいわれ、倍率は1以下だったと聞くし、人を解雇するのもその人の意思とは無関係に行われていたというそんな時代だ。
しかし、時代は違う。
望めばどんな職でもとは言わないがある程度は優遇されるし、そのための知識も企業側でカリキュラムが組まれているほど人を大切にしている。
娯楽も物もそうだ。
スマホ一台あれば様々なゲームや動画、ドラマ、アニメなどに触れることができ、それらすべてがほぼ無償で提供されている。
そんな良き時代だが、なぜか自殺者というのは後を絶たず、それどころか年々増加の一途をただ追っていた。
「(ただいまぁ、踏切内にて問題が起きたためぇ、現在確認作業ぉ~」
通学時電車を使えばこういうことはまれに起きる、こうしてまた遅刻が増えるのだろう。
周囲からは「またかよぉ」「まぁしゃねぇなぁ」「今の日本の上ゴミだし」などなど、言い出したらきりがないぐらいの話なのだろうが、そう口々に言い、そして冷めた目で外を眺めている。
ある人物に至って死んだ魚のような眼をして外を見つめ一言「今夜も残業が確定した」まだ出社もしていないにも関わず、この件だけでそれが確定した。と断言するものまでいる。
俺、周防 育人18歳高校生には関係のない話だが、社会人は大変そうである。
電車が動き出し、お詫びと謝罪のテンプレアナウンスが流れ、今日も一日ろくでもない日が始まると思いながら学校へと向かった。
学校に着けば「おい、昨日のあれ見たか。マジ作画パネェよなぁ」「おう、見たぞ、あそこでのアノ必殺技が!」などという声が聞こえてきた。
どうやら昨日深夜やっていたアニメの話でもしているらしい。
育人は顔をしかめながら(高3にもなって何言ってんだあいつら・・・・)と男子たちを横目に席へと向かうと今度は女子の会話が聞こえてきた。
「ねぇ、昨日のあのドラマだけど・・・・この不倫関係やばいよねぇ」「そうそう、あそこから燃え上がってもぉ最高だよねぇ」
などという声が聞こえてきた。
昨今、ドロドロの不倫ドラマや、一触即発な恋愛系のドラマが増え、それもまた最近での流行らしく、9時や10時ごろからやっているのが増えている。
昔はお昼過ぎに30分程度やっていたんだよと、父親が何とも言えない顔でそのドラマを母親と一緒に見ていたのを見て、内心嫌なんだろうなぁと思った。
そして、アニメが原作のドラマ度も増え、そのたびに謎の意味の分からんセリフや、中二病全開の展開が繰り広げられていたりと、見ているこっちが恥ずかしくなるようなものもある。
そして何より、SNSでも少し開けば無料アプリゲームの広告や、そのゲームのセリフの一部だろうか、臭いものが目に付くことがある。
好きな人は非常に良いのだろうし、原作の世界観や雰囲気を味わいたい人には最高の広告なのだろうが、関係のない人にとっては迷惑だろうし、ゲーム、漫画、アニメが嫌いな人からしたら嫌悪感を抱くことだろう。
来年大学生か社会人という2択の育人にとって、この中二病あふれる感じは正直苦手である。
傍目に見ていて楽しそうだなぁとは思うが・・・・何を隠そう、彼はボッチである。
別にいじめられているとか、ハブられているとかではなく、単純に話が合わないのだ。
話が合わないのに話の輪の中にいて、「それ、何が面白いんだ?」といったことは何度もあるし、そのたびに向けられる白い目や、稀有のまなざしに耐えられなくなり、次第に付き合いが減っていった。
今の時代、スマホゲーの一つもしていないやつは(何が楽しいんだお前?)と言われるぐらいには娯楽物があふれかえっていた。
しかしまぁ、人それぞれ趣味嗜好がある、育人にとってはそれらを見て楽しむよりも自分を鍛えることに特化しており、筋トレが彼の趣味だった。
なので、いきなり最強だとか、技名を高らかに叫べばド派手な技が出て強敵を倒したぁ、などという話は彼からしたら邪道であるし、そんな楽に勝てたら苦労しないだろ?
というのが彼の見解だった。
そんな娯楽物あふれ、豊かに見える世の中でも、なぜか昔よりも自殺者が多いのは、単純に生活は豊かだが、心は満たされていないということなのだろう。
こんなことを漠然と思いながら育人は生活をしていた。この日までは。
不幸や不運というのは本人の意思とは別のことでよく起こる。
育人はクラスメイトの楽しそうな日常会話を横目にガッコをお後にし、皆がカラオケやスタバでお茶などを楽しんでいる中一人で帰っていた。
育人自身が中二病や娯楽というものに全く興味をいただかないため、同年代とはそりが合わず、いわゆるボッチの学生生活という形になっていた。
本人はそれで全く問題なかったし、別に嫌でもなかった。
いじめもなく、平穏無事に終わる。
そんな当たり前だけど、退屈な毎日。
彼の唯一の趣味と言えば体を鍛えることで、体が頑丈で何があっても大丈夫というのが彼のもっとうだった。
しかしこの日、駅前を歩いていた彼は学ぶことになる、人間どうにもならないこともあるのだということと、いくら鍛えてもダメな時はダメなのだと。
「ねみぃ~、さっさと帰って一度ね・・・」
大きくあくびをし、背伸びをしたところで、頭に強烈な何か衝撃なものを受けた。
瞬間、視界が真っ暗なになり、何も見えなくなる。
雑踏は遠くに聞こえ、耳鳴りが酷い。
暗闇の中、何が起きているのかわかるわけもなく、育人の式はどこかへと飛んで行ったのだった。
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