第12話 視点2-2
夏休みなのにどこにも行ってない。青春期なのに誰のことも思ってない。図書館ボランティアで書架に埋もれ、現実逃避。クーラーが効いてるのだけは良いね。税金で出来た冷えた空気。サボりがいがある。
くだんの彼はずっと来ない。もう五日連続くらいで欠席。そりゃまあ告白は断っちゃったけど、これだけ露骨に避けられると割とまあ傷つくな。これまでは割と親しくやって来たのに、サボり仲間として。わたしは話し相手もいないし普通に暇で、何とかやってる感を如何にして出すかに注力していた。将来は大企業の窓際族か地方公務員とかになりたいなあ。もちろん事務系でお願いしたい。楽そうだから。
ここ最近、わたしたちの家にはお父さんの会社の株主だか債権者だか融資先だか取引先なのか知らないが沢山の人間が次々と押し寄せてきては、怒鳴ったり擦り寄ったり懇願したりしている。手を変え品を変え、これが彼ら彼女らのやり口なのかもしれなかった。毎日のように演目が変わるショーを観ているみたいだ。その父は目下行方知れずで、お兄ちゃんが専ら対応をしている。わたしは部屋に閉じこもって吹きすさぶ嵐が止むのを待ったりお客さんにお茶を出したりして、お母さんはリビングの片隅で「ほえ?」みたいな表情して突っ立っていた。事業やお金のことには関わってないし、家計のやりくりはお兄ちゃんがやってるから状況を把握していない、というか何が起きているのかさえ分かってないんだろう。お金のことをゲームのアイテムくらいにしか思ってなさそうだ。役所の袋に書かれた「出納」を読めないくらいだから。
「あのね、加奈。お母さんね、どうしたらいいのかな?」
どうしようもないんじゃないんですか。
「さあ、わかんないよ。お父さんとは連絡取れないの?」
「それがね、電話もつながらないしメッセージも届かないの。もうどうしたらいいかわからない」
子供が子供と喋っているみたいだった。じっさい学生結婚して一度もまともに働いたこともないし、子供なんだろう。たまに姉妹と間違えられるし。
「お兄ちゃんに聞いてみる。早く寝な」
「うん。おやすみ! 加奈も早く寝て」
こんな状況で寝られるわけねーだろ。
電話の合唱の中お兄ちゃんの部屋に呼ばれ、
「父親さ、あいつ。佐伯さんといるみたい。神奈川の方に」
佐伯さんと言うのは父親の秘書みたいな人だ。
「なんでそんなことわかるの」
「あーそろそろ逃亡するかなあって思ってたからあいつの社用スマホに位置情報アプリ仕込んどいたんだよね。ずっと位置情報切ってたけど最近入れたみたい。バカだな。俺専門家じゃないし
お兄ちゃんの眼は笑ってなかった。
「取り敢えず匿名性高いメッセアプリで結構強めに言っといたから、近々なんかあるんじゃね。あるといいよな。俺やお母さんは良いけど、加奈はこれからだもんな人生」
わたしは形だけ頷いた。
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