第6話 邂逅。闇の貴公子ジュドと少女勇者アリューシャ。

「ふはははは! 遠路はるばるようこそ! その小さな肩に、人類の希望を託されし太陽のような少女! 勇者アリューシャを筆頭とする王国最強の呼び声高き、栄えある勇者パーティーの諸君! お初にお目にかかる! 我が名は闇の貴公子ジュド! 魔王麾下きか直属四天王が一人! 此度は主君たる魔王デスニア陛下より、こうして諸君らを迎え撃つ栄えある先陣を任されたこの俺の名! 短い付き合いとなるかもしれないが、どうぞ以後お見知りおき願おう!」


 広間の中。


 そして、高らかな口上の終わりとともに、俺は大仰に腕を振り、夜の闇を写した藍色の片側留めのマントをバサリとなびかせ、粛々と頭を下げる。


 ――もし前世のプレイヤーであった頃の俺が行ったならば、間違いなく失笑ものの極めて芝居がかった慇懃無礼とも言える口上と、恭しさを超えた極めて大仰な身振りの挨拶。


 だが、いまのこの洗練された容姿を持つ闇の貴公子ジュドとしての俺ならば、それなりに見栄えのするものだから実に不思議なものだ。


 その証拠に勇者アリューシャを筆頭とする勇者パーティーもやや呆気にとられつつも失笑する気配はない。


 ……いや、むしろやや圧倒されているとさえ言えようか。


 まあ何にせよ、魔王麾下直属四天王としての礼はこれで尽くした。


 相手方より何も反応がないのであれば、予定どおりに全員等しくく蹂躙させてもらおう……!


「闇の貴公子ジュドー! 戦う前にー! あなたに聞きたいことがあーる!」


 と、俺が臨戦態勢を整えかけた途端。少女勇者アリューシャがその赤く長い髪と軽鎧のミニスカート、豊かな胸を揺らし、一歩前へと出た。


 ともすれば、場にそぐわない気の抜けたようなその独特な口調と物言いに、思わず「ふはっ!」と吹き出しかけてしまい、俺は口もとを抑える。


 もちろんプレイヤーとしての記憶があるいまの俺は、あれで真剣だと知っているがそれでもだ。


 ……本当に変わらないな。アリューシャ。


 そのまま俺は、かつての最推し、ゲーム世界またプレイヤー間においても、太陽の少女ともあだ名される勇者アリューシャの口上に耳を傾けた。


「どーしてあなたたち魔族や魔物は、あたしたち人間を先にいじめよーとするのー! みんな平和に仲よく暮らしたいだけなんだよー! 先にいじめてこなければ、魔族や魔物とだって、もしかしたら仲よくできるかもしれないのにー! それが無理でも、たとえば魔物はダンジョンで人間は街に住むって共存だってできるかもしれないのにー! なのに、なんでー!」


 その独特の所々が間延びした口調とは裏腹の、切なる叫びとも言える主張と、真剣に見つめる青い瞳。


 それを聞き、そして目にした俺は――


「……ぷっ! くくっ! ふふ、ふはははっ! ふははははははっ! ふはーはっはっは!」


 ――今度こそこらえきれず、大仰に天を仰ぎ口もとを抑え、思うさまに高笑いを上げた。


「むぅー! なんで笑うのー! ジュドー!」


 ――くくっ! その語尾を伸ばす癖のある独特の名前の呼び方、そういう意味ではないと知っていても、まるで親しい友人に対し呼びかけているかのように勘違いしそうになるな……!


「ぷっ、くく……いや、すまないな。勇者アリューシャ。この俺としたことが、少々礼を失したようだ。だが魔族として生を受けた俺の誇りにかけて誓って言うが、いまのは決して貴女の言葉を嘲笑ったわけではない。むしろ逆だ。とても似ていると思ってな」


「え…………?」


「そう。勇者アリューシャ。貴女はとても似ている。この俺と。闇の貴公子ジュドと。何故ならば、いまの我が大願、野望もまた同じ。魔族と魔物、そして人間。この世界に生きる全てのものたちが共存共栄する。そう……! 真に平和な世界なのだから……!」


 俺のその本心からのに目に見えるほどの体の震えと動揺を見せ、太陽のような少女、勇者アリューシャはその穢れのない美しい青い瞳を激しく瞬いた。

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