婚約破棄された令嬢のささやかな幸福
香木陽灯
第1話
「違うんだアリシア……こ、これは!」
(一体何が違うというのでしょうか)
目の前に広がる光景に、アリシア・ローデンはため息をついた。
ここはローデン伯爵家の別邸。
今日はここに婚約者であるロベルトを招いて、お茶会をするはずだった。
アリシアは準備をしようと約束の時間より早くに到着したのだが、使用人たちの様子がおかしかった。
嫌な予感がしたアリシアが使用人の制止を振り切って寝室の扉を開けると、男女が二人、ベッドでくつろいでいたのだ。
「えーっと、随分と早いんだね。きょ、今日のお茶会は夕方だって聞いたけど……」
婚約者であるロベルトがベッドの上で狼狽えている。
その後ろには見覚えのある金髪。
「お姉様、私はロベルト様の相談を聞いていただけなのです。結婚を前に不安を感じていらっしゃったので、励ましていただけですの」
妹のリリアナが目を潤ませながら訴えている。
励ましていただけと言う割には髪が乱れているし、胸元がやけに開いている。
(それはナニを励ましていたのかしら?)
アリシアは喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
その代わり淑女らしく背筋を伸ばして二人を見つめる。
「どんな事情であれ、これは不貞行為ですわ。互いの両親に報告させていただきます」
「ちよっ、ちょっと……! アリシア!」
焦るロベルト達を置いて、アリシアは本邸へと帰宅した。
―――
「ロベルト様は私と婚約破棄をして、リリアナと結婚したいようですよ?」
アリシアが事の顛末を両親に告げると、父が眉間にシワを寄せた。
「アリシアよ、リリアナはお前が羨ましいだけなのだ。婚礼の儀が終われば落ち着くはずだ。ロベルトも悪気があったわけではないだろう。だからお前も一度の過ちくらい許してやりなさい」
「そうよアリシア、こんなことで婚約が解消になったら貴女に傷がつくわ。リリアナも私が叱っておくから」
(またリリアナを庇うのね)
アリシアはため息をついた。
リリアナがアリシアの物を奪う。それはいつものことだった。
ドレスもアクセサリーも……婚約者も。
二つ違いのリリアナは、誰が見ても美しかった。
地味なアリシアと違って、きらめく金髪とサファイアのように美しい瞳を持っている。
加えて色白の肌に柔らかい桃色の頬。
誰もが彼女を見ると振り返るほどだった。
「本当に姉妹なの?」
「全体的に暗い方が姉だな。暗い茶髪に灰色の瞳。ははは、似ても似つかない!」
などとよく言われていた。
リリアナ自身、段々と美しさに誇りを持つようになり、優しくされて当然だという態度になっていった。
その上リリアナは生まれつき身体が弱かった。
だから両親はいつも彼女を気にかけていた。
「あの子はいつまで生きられるか分からない。だから満足するまで甘やかしてやろう。アリシア、お前はあの子の姉なのだから、分かるな?」
両親の気持ちも分かっていたからこそ、アリシアは理不尽な扱いにも耐えていたのだ。
ところが、リリアナが元気になってからも両親の扱いは変わらなかった。
リリアナの方が美しいのだから、アリシアが譲るべき。
リリアナは可哀想だから、アリシアは我慢すべき。
それがローデン家の「当たり前」になっていたのだ。
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