【19 拘束完了】

・【19 拘束完了】


 不死身の男を魔法手錠で拘束し、ホログラム地図の連絡ボタンというヤツを押すと、待機している隊員と連絡できた。

 これで終わりかなと思っていると、急にその会話していた隊員が声を上げた。

「どうしました?」

 と聞いたところで連絡が途切れた。

 何か不慮の事態か、と思っていると、この不死身の男が倒れている部屋の窓から黒づくめの怪しい男が入ってきた。

「オマエらが奈良輪とエメラルだな、何の私怨も無いがここで死んでもらう」

「オマエ! 隊員たちに何かしたのか!」

「ちょっと召喚獣が襲っているだけだ、あれくらい大丈夫だろ、手負いじゃなければな?」

 そう言ってニヤリと笑った怪しい男は黒いローブをめくると、包帯に巻かれた腕が出てきた。

 何かやりそうだと思ったその時、エメラルが叫んだ。

「これは10カラットのダイヤモンドの指輪ね!」

「そんなものに何の価値も無い。そもそもエメラルの魔法は聞いている。己が価値を感じなければ喰らわないってな。小生は圧倒的な精神力でそんなものは無にできるのだ」

「うるさいね、価値勝ち」

 一応放ったのであろうエメラルの波動はくしゃくしゃのわら半紙のような波動で、怪しい男に当たってもなんともないって感じだった。

「うるさいのはエメラル、オマエだ。ここから小生が圧倒的に蹂躙するターンだ、第三の目を開け!」

 と言うと、怪しい男の足元から泥人形のようなモノが出現し、それがゆっくりこっちへ向かって歩き出した。

 スピードは遅いので、普通に近付いて課金しようとしたのだが、どうやら無機物という判定にならず課金できなかった。

 それにしても、さっき言った第三の目って何なんだ。

 額に目でも出現するのかと思えば特にそんなことはなく、出てきた召喚獣とやらも何か微妙だ。

 だからって油断はできないので、泥人形には触れず、怪しい男のほうへ攻撃することにした。

 俺が怪しい男へ飛び蹴りをかますと、その怪しい男は手からべっこう飴のような色したバリアを張ってガードした。

 怪しい男は何か焦りながら、

「まず泥人形から倒せよ!」

「いや触れたらくっついて取れないとかだったら嫌だろ」

「何で分かるんだよ!」

 そう言うと怪しい男は泥人形に手をかざすと、泥人形は消えて、今度は銃を背負ったウサギのようなモノが出現した。

 ウサギはピョンピョン、俺とエメラルの周りを飛び跳ねて回り始めた。

 するとエメラルが、

「これはできるね!」

 と言ってウサギが背負っていた銃を移動させたので、俺はすぐさまその銃を課金ガチャした。

 俺の頭上にガチャガチャが出現すると、怪しい男が、

「くっ! 闇の力め!」

 と声を荒らげた。

 まあ確かに闇堕ち能力らしいけども、と思っていると、早速ガチャガチャがいっぱい出始めた。

《爆竹!》

《爆竹!》

《マッチ!》

《爆竹!》

《鉄の玉!》

《爆竹!》

《マッチ!》

《鉄の玉!》

《鉄の玉!》

《鉄筒!》

 鉄筒って何だろうと思いつつ、エメラルに視線を送ると、すぐさま鉄の玉を怪しい男に向かって高速移動させた。

「危ねぇ!」

 またバリアで守った怪しい男は、同時にウサギもまた取り下げた。

 ただバリアはエメラルの鉄の玉側しか出していなかったみたいで俺は急いで、敵の後ろに移動して火を付けた爆竹を足元に投げ、それとほぼ同時に空中カカト落としした。

 案の定、怪しい男はすぐさま下を見ながら足元にバリアを張ったが、俺が上に飛んだことには分からなかったみたいで、俺のカカト落としが脳天に直撃した。

「あがぁぁぁああ!」

 ふらつく怪しい男にラッシュをかける。

 パンチやキックのコンビネーションアタックを喰らわせて、最後は鳩尾を強く蹴って吹っ飛ばした。

 だがすぐに怪しい男は立ち上がり、

「このくらいなら回復魔法ですぐ治るんだよ! バーカ!」

 と言っているが、明らかに痛がっている顔をしている。

 苦痛で顔面を歪ませている。

 どうやらケガは治るけども、痛みの余韻は残っているといった感じだ。いやケガも治っているのか? やせ我慢かも。

 俺が達磨屋に頭を治してもらった時は痛みがすぐ引いたけども、どうやらこういうのは個人差なのか個人の魔法の種類によるのか。

 実際まだ動きづらいといった顔をしているので、ここは畳みかけようと思って、また殴り掛かると、それはバリアで阻まれて、そのバリアに触れると電撃が拳に走って、つい距離をとってしまった。

 すると、怪しい男は全身を守るバリアを出して、その場にうずくまった。

 効いてはいるんだなぁ、といった感じ。

 さて、相手が止まっている間に金髪の剣士の時と同様、何かを仕掛けたい。

 言動だ、コイツの言動を整理しよう。

 何か服装とか包帯巻いているところから、厨二病みたいなんだよな。

 第三の目を開けとか言って、特に何も開いていないし。

 これなら金髪の剣士と同じような作戦でどうにかなるかもしれない。

 ただし、金髪の剣士の時よりも、もっと楽だがな。

「よしっ! エメラル! 俺は次の攻撃は溜め攻撃を行ない、一発で殴り倒すぞ!」

 エメラルは疑問符を頭に浮かべている。

 当たり前だ、俺にそんな攻撃は無い。

 でも邪魔するような言葉は特に発しない。

 きっと何かあると踏んでくれているんだ。

 対する敵の怪しい男は、俺の動向を気にして、チラチラこっちを見てきている。

 思った通りだ。

 なんせ相手の行動を観察することはバトルの基本だからな。

 この見ることが、見せることが価値の確認に繋がる。

 俺は持っていたエメラルの手紙で指の皮を切って血を出した。

 エメラルはビックリしているが、同時に何かするんだなと思って、ゆっくりこっちに近付いてきた。

 俺はエメラルの手紙の裏を出して、血で魔法陣を描いた。

 勿論とびっきりカッコイイヤツだ。

 美術部時代に学んだ、西洋の絵画に描かれているような本格的な魔法陣だ。

 それを見た怪しい男は案の定、興奮するように目を輝かせた。

 厨二病の男を喜ばせるなら、血で魔法陣を描くに限るだろ!

「これね! 価値勝ち!」

 血の魔法陣からは闇の渦のような波動が飛び出して、バリアを突き破って怪しい男に直撃した。

「うわぁぁぁああああああ! あんな魔法陣描かれたらおしまいだぁぁぁあああああ!」

 そう叫びながら気絶した怪しい男。

 いや普通に価値勝ちなんだけどな。

 怪しい男もついでに魔法手錠で拘束したが、この怪しい男は魔法警察の裏切り者ではなかったという話を支部に戻って来てから聞かされた。

 それにしても今日は疲れた。

 エメラルも手紙書かないんじゃないかなと思いながら、自室のベッドの上で横になっていると、ポストに手紙が入る音がして、エメラルは真面目だなと思いつつ、俺は郵便受けを見ると、案の定エメラルからの手紙が入っていたので、早速読むことにした。

 疲れているとはいえ、エメラルの手紙は読める。なんせ楽しみなことで、疲れも吹き飛ぶから。

《最近私は思うことがありますね。やっぱり私は間違っているんじゃないかなということね》

 ……急にどうしたんだろう、階段で話している時もそうだったし、疲れるとネガティブな一面が顔を出すのかな?

《全ての罪を償うべきなんじゃないかなと思うね》

 何を今さら。

 それに今、償っている最中なんじゃないのか?

《私は間違いを繰り返し、今も間違いを繰り返しているのでは、そんな不安を感じるね》

 今は何も間違っていないだろ。

 裏切り者の支部も全員拘束したし、雪深い街も救った。

 それ以外にも、俺の街にいた時もいろいろやったじゃないか。

《奈良輪くんは大丈夫ね? 奈良輪くんも本当はつらいんじゃないかね?》

 そんなこと改めて考えると……いや別につらくないわ、エメラルと一緒だし。

 というかむしろエメラルがそんなことを書くほうがつらい。

 せっかくエメラルとの日々がもっと楽しくなってきたところなのに。

《私はつらいね、最近ずっとつらいね》

 ……何か変だな、まあ最後に出自不明の謎の敵が俺とエメラルを名指しで襲ってきたから不安になっているんだろうけども。

 俺は手紙を机の上に折りたたんで置いて、部屋を出て、隣のエメラルの部屋のチャイムを鳴らした。

 多分いると思うはずなのに、声がしないので、ノックをしながら、

「エメラル、何か疲れているなら俺が愚痴を聞くよ」

 と声を掛けると、やけにキンキンと耳に響くような高い声で、

「今はいいねっ!」

 と言ってきた。

 まるで断末魔のような甲高い声、いつものエメラルとは全然違う。

 いやどう考えてもおかしいだろ、と思い、もう一回ノックしたところで、

「今は一人にしてほしいねっ!」

 と妙に早口にそう言ったので、俺は戻ることにした。

 何でこんなヒステリックになっているのか。

 せっかく距離が近くなったと思ったのに、また何か遠くなっちゃったな、と思って、俺は肩を落とした。

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