【08 また依頼】

・【08 また依頼】


 お嬢様の件で依頼をしてくれた女子たちからは大層喜ばれた。

 男子たちも少しは記憶があるみたいで、女子たちへ謝罪したり、謝罪のバッグを買ってくれたりしたらしい。

 また操られていた男子たちからも感謝の言葉をもらった。

 まあ好きじゃないお嬢様の取り巻きさせられていて、人生棒に振っていただけだから、そうだろうけども。

 そんなある日、また依頼を受けた。

 まだ朝のホームルーム前の時間帯だった。

 ボコボコにされた彼氏とその彼氏のことを保健室から借りた救急グッズで看病している彼女の二人組。

 どうやらボクサーくずれみたいなヤツに喧嘩を吹っ掛けられて、彼氏は殴られるわ、残った彼女はおっぱいを軽く揉まれた挙句「もっと大きくなれよ!」とか言われて最悪だったらしい。

 前回は女子たちから安いチョコレートをもらっただけで終わったけども、今回はちゃんとこのカップルからお金も払われるという話だ。

 まあお金は何か当分大丈夫なんだけども、もらえるのならということで頂くことにした。

 もらわないと逆に何か変だし。

 商店街から少し外れた普通のアパートが多い通りでやられたという話。

 そのボクサーは強く、また電光石火といった感じに、一気にやられてしまったので、時間としては短時間らしい。

 普通に奥の道路に人が歩いている時にやられたので、人通りが無い時を狙っているわけでもない、と。

 早く殴って早く揉み去る、まさに猿だったらしい。

 そんなカス野郎いるんだ、と思いつつ、出没した場所を詳しく教えてもらって、朝のチャイムが鳴った。

 普通に授業を受けて、SNSでエメラルに連絡しつつ、放課後、校門を出ると案の定エメラルがいた。

 エメラルは複数の生徒から声援を浴びていて、それに手を振って答えていた。

 いよいよちゃんした街のヒーローになっている。

 やっぱりエメラルの情報戦略みたいなことはすごいと思う。

 お嬢様を倒したあと、その倒したことをSNSで周知させ、さらに『何かあればエメラルにお任せあれ!』と宣伝していた。

 まあエメラルがそうやってくれるおかげで、俺は魔法少女と一緒に行動する痛いヤツといったことを言われなくて済んでいるわけだけども。

 でももし魔法少女として公的な機関があるのなら、そこと連携したほうがいいと思うんだけどな。

 そもそも魔法少女ってどうやってなるの? なることができるのならきっと公的な機関もあって。

 そのことをSNSで聞くと、何かゆるっと無視されるんだよなぁ。

 何か公的な機関との軋轢とかあんのかな?

 まあそんなことを仕事前に聞いて嫌な雰囲気になったら最悪なので、今日はもうしっかり仕事モードに移ろう。

 出没した地点へ行くと、空気は妙に湿り気を帯びていて、風通しの悪い地区だった。

 六月ながらじっとりと暑さのある、いやまあそれは今日の天気のせいか。

 でもそういうヤツがいると知っていると、やっぱり不快な気持ちになって。

 エメラルが俺に対して、

「じゃあここからはカップルみたいに接していくね」

「何でそうなるんだよ」

「だってカップルが狙われたからね」

「いやそれでいけるかな、だってエメラルは広報活動しているからもう俺たちが解決する存在だと知れ渡っているんじゃないのか?」

 するとエメラルはクスクス笑ってから、こう言った。

「それは傲慢ね、このくらいの広報活動じゃ有名になれるのは奈良輪くんが高校内で有名になるくらいね。私もそこまで遠くまで届くようにはやっていないね」

「何で遠くには届かないようにしているんだ? もっといろんな人に知ってもらったほうがいいんじゃないか?」

 エメラルは一瞬口をもごもごしてから、

「ま! まあ! とりあえず奈良輪くんの生きている範囲くらいでいいね!」

 何か急に焦っている感じになったけども、俺、地雷でも踏んだのかな。

 大勢に知らせないように加減しているような言い方だったけども、何か、今の活動を誰かに知られたらマズイとかあるのかな、無いはずだよな、だって世界を救うという話なんだから。

 それにしても世界を救うって名目なのに、こんなちまちました活動で大丈夫なのかな?

 まあまずは地に足をつけて、ということなのかもしれないけどさ。

 エメラルは急に俺と腕を組んできたと思ったら、

「じゃあこっからはカップルのイチャイチャタイムね!」

「いやそれ本当にする気なのかよ」

「あくまでフリね! まず私が飴舐めるから口移しするね!」

「そんなフリ無いだろ! というか普通のカップルもそんなことしねぇわ! 路上で!」

「カップルって全てのことを路上で行なうんじゃないのね」

 そう言ってちょっと驚いているようなエメラル。

 いやいや、

「路上で行なうのは自信家カップルだけだよ、政治家同士のW不倫とかじゃないと路上でやらないから」

「そっかぁ、でもエメラルは自信があるね、自分の可愛さに」

「そういうこと自分で言うか?」

 とツッコミつつも、まあ確かにエメラルは可愛いとは思う。

 背中まで伸びた長い茶髪を揺らして、おしとやかに笑っていればの話だけども。

 緑色の瞳もミステリアスで、可愛いというかクールビューティー系だ。

 でもぶっ飛んだことを言って、さらにはSNSはメンヘラときたら、どう考えても地雷系だ。

 まあ地雷系は可愛くないと成立しないところあるから、全くもって基本に忠実といった感じだが。

「奈良輪くんだってイケメンなんだから自信家カップルと名乗っていいね」

「いや俺はフツメンだよ」

「フツメンの高身長はイケメンね」

「いやフツメンってハッキリ言っちゃってるけども」

「いや私はイケメンだと思ってるね、奈良輪くんと一緒にやり直せて私はすごく嬉しいね、勿論顔だけじゃないね!」

 そう優しく微笑んだエメラルに俺はドギマギしてしまった。地雷系なのに。

 あと闇堕ち過ぎるのに。公的な機関もはぐらかすのに。

 なのに、なのに、可愛いだけで胸が躍ってしまうって、やっぱり見た目が良いって凶器だよな、狂喜乱舞してしまう。

 と思っていると、目の前からシャドーボクシングをしているフードを被った怪しい男が近付いてきた。

 直感ですぐ分かった、コイツが例のアレだと。

 ピンクに近い紫色のフードを被っているなんて、リトルマックか変態くらいだろう。

 そのシャドーボクシング男と五メートルくらいの距離になった刹那、ソイツは一気に俺へ向かって殴り掛かってきたのだ。

「危ねっ」

 反射的にそう言った俺はなんとかかわして、前キックを繰り出して、押し出すように蹴って距離を取った。

 するとシャドーボクシング男はフードを外してからこう言った。

「やるじゃん、変態男のくせにさ」

 いやオマエに言われたくないわ、でも魔法少女と一緒に居ることに対してそう言っているんだとしたら、そう思われても仕方ないか、と俺が思考している間に、エメラルは間髪入れずにこう言った。

「この人差し指の宝石は10カラットのダイヤモンドの指輪ね!」

 するとシャドーボクシング男は小首を傾げながら、

「テンカラット……? からあげじゃないじゃん」

 と言ってダメだコイツと思った。

 いやマジでダメ過ぎる。

 効かないということじゃん、と思っていると、エメラルは俺のほうを強い眼差しで見てきたので、アイコンタクト? でも何だろうと思っていると、

「こういう変態男にはこれが効くね!」

 と言ってエメラルが見当違いの方向へ手をかざした。

 具体的に言うと、シャドーボクシング男のほうではなくて、物干しをしているアパートのほうだった。

「何しているんだ、エメラル」

「移動魔法ね!」

「そう言えば移動魔法が使えるなんてこと言っていたな」

「基本的に無機物を移動できるね!」

 高い位置の物干し竿を拝借して、重力も使って突き刺すみたいなことか? いやちょっと発想がグロテスク過ぎたか。

 でも実際どの程度のモノを動かせるのかと思って、ちょっとワクワクしていると、なんと! 干されていた女性モノのパンツを動かし始めたのだ!

「そういうの良くないだろ!」

 と叫ぶと、急に叫んだ俺にシャドーボクシング男がビックリして、数歩退いた。

 その隙に、干されていたパンツがエメラルの手元にいった時、シャドーボクシング男が声を荒らげた。

「パ! パンティ! パンティだ!」

 うわぁ、パンツをパンティって言うヤツは最悪のヤツだからなぁ……。

 そう結構ヒいてしまっている間に、エメラルがそのパンツをシャドーボクシング男に向けて、こう言った。

「パンティ波動の価値勝ちね!」

 えっ、と思った瞬間、パンツから波動というか、若干スカートめくり感のある強い風が巻き起きて、シャドーボクシング男をぶっ飛ばした。

 コイツ、パンツにすごい価値を感じていた……。

 エメラルと俺は横たわるシャドーボクシング男に歩いて近付き、

「二度と変なことしちゃダメね、変なことしたらまた私が退治しに来るね」

 するとシャドーボクシング男はゆっくりと目を開けてこう言った。

「魔法少女のパンティも、いいなぁ」

「見るんじゃないね!」

 そう言ってもう一発強風を鳩尾に喰らわせると、シャドーボクシング男は口からヨダレを垂らしながら、気絶した。

 エメラルは笑顔でこちらを振り返ってこう言った。

「すごい汚いヤツだったね!」

「エメラルの手口もな!」

「これは仕方ないね」

 と言いながらパンツをポイっと捨てたので、俺は目を丸くして、

「いやちゃんと持ち主に返せよ!」

「どう言えばいいね……」

 そう言って困った顔をしながら、捨てたパンツをとりあえず拾ったエメラル。

「目の前で風に吹かれていまして拾いましたとかでいいだろ」

「すごいね、奈良輪くんは手慣れた言い訳ね」

「いやあとで返すけどもパンツの手触りだけ確かめたい変態じゃぁないんだよ」

 エメラルがちゃんと返したことを見届けて、俺とエメラルの今日の仕事は終了した。

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