闇堕ち魔法少女と一緒にやり直す

伊藤テル

【01 スマホゲーム】

・【01 スマホゲーム】


 大学も留年して、一人暮らししている暗い部屋でワイドショーを見ながらスマホRPGを周回する。

 こんなはずじゃなかったという気持ちと、もう人生なんてどうでもいいという気持ちがクロスしまくっている。クロスチョップしまくっている。大型犬のクロスチョップ。いや大型犬なら噛みついたほうが強いぞ、腕だるんだるんだろ、犬は……ダメだ、こんな意味の無いことを考えてしまう人間なんて。もう終わってる。

 思考が次の思考を呼び覚まし、連鎖反応していく。自分の現状を思考してしまった末路は当然昔のことを思い出すわけで。

 俺は正義感の強い高校生だったと思う。

 誰かがイジメられていたら即助けたし、困っている通行人にも果敢に話し掛けていって、まずまずの成果を上げていた。

 さらには大学に推薦で入るために描いていた美術部での絵もかなりの出来で、正直そんな絵とかもあんまり関係無く内定しているような教師たちの口ぶりだった。

 絵に描いたような品行方正、描いていたのはちゃんと自分、自分で全てを行ない、自分で全ての責任を負っていた。

 そんな俺を気に食わない連中がいたことも理解していたが、まさかあんなことが起こるなんて。

 集団イジメ、イジメられていたヤツを助けたら今度は俺がイジメられるようになった。

 多少のことは耐えられるが、今までイジメを助けたヤツらからもイジメられるようになったのはさすがに堪えた。

 でもまだ耐えられた、まだ耐えられたんだけども、描いていた絵をビリビリに破られた時、スッと電源が切れたような気がした。

 俺は転校することにしたが、担任が変にギリギリまで「この高校で卒業したほうがいい!」と粘ったせいで、転校願書を提出できる期間だが何だかが通り過ぎてしまい、転校した上で留年扱いとなった。

 四年間高校を通わないといけなくなった俺は完全に人生を諦めた。

 両親はそんな俺に同情しているので、両親の金で一人暮らしできているし、両親の金で若干の課金ガチャもできている。最低な息子だと思う、なんて思考をしたって気分が落ち込むだけなのに思考が止まらない止まらないもう死にたい。

 いや死なないで、死なないで、もう少し、もう少しだけ、ワイドショーを見ながらスマホRPGを周回しよう。

 俺はワイドショーが好きだ。正直スマホRPGより好きだ。

 特に朝のワイドショーはクズの宝庫でつい笑ってしまう。

 最近のお気に入りは闇バイト。

 闇バイトに手を染めて逮捕される大学生を見ては鼻で笑っている。

 勿論自分でも底辺な楽しみ方だということは分かっているが、誰かに迷惑を掛けている、という、自分より下の人間を笑うことは痛快で。

 さらに最後にワイドショーのコメンテーターが、

《闇バイトは絶対逮捕されます》

 とお決まりのように言うところで爆笑してしまう。

 その中には、闇バイトやるようなヤツは朝のワイドショー見てないだろという笑いもある。

 まあとにかく闇バイトのニュースの時は俺にとって確変なのだ。

 俺の正しかった正義感が今歪んだ形で発露しているなぁ、とは思う。

 正義感、正義感と言えば、困っている通行人を助けた時、目の色を変えて俺へ勧誘してきたヤツがそう言えばいたなぁ。

 目の色を変えたというか、元々瞳がエメラルドグリーンで、日本人離れしていて、そうそう、魔法少女だ、魔法少女と名乗っていたんだ。

 確かに日曜日の朝の時間帯にやっているようなアニメの魔法少女みたいな恰好していたし、瞳も相まって魔法少女には見えた。

 そんなヤツが俺に「一緒に世界を救ってほしいね!」と手を取ってきた。無邪気な笑顔で。

 でも俺はそんなはずないだろと思ったし、その子がただの電波な少女である可能性のほうが高いし、俺はその手を払ってしまった。

 その時のあの魔法少女を名乗る女子の顔と言ったら絶望的としか形容できない顔で、でも当たり前だろとは思ったけども。

 いや、よくよく思い出すと、何か不可解な技というか魔法なのか? 魔法みたいなモノを俺の目の前で見せたような気がする。

 自分がイジメられた日々の記憶は克明に思い出せるのに、この魔法少女との思い出はあんまり思い出せないけど、何か、不思議なモノを見たような気がする。

 もしあの時、俺があの女子の手を取っていたら、どうなっていたんだろうな。

 こんな現役クズが世界を救っていたのかもしれない、なんてな、スマホRPGのし過ぎかな、周回周回と思いながら、ワイドショーのほうを見たその時だった。

《闇バイトの主犯格を逮捕しました》

 ワイドショーの司会者がそう言った。

 おっ、ちょうど闇バイトのニュースじゃん、最高じゃん、と、どす黒く心が躍ると、なんと! 画面に映った連行されている女性があの時の魔法少女だったのだ!

 うなだれて、こんなはずじゃなかったといった表情のあの時の魔法少女。

 ちょっと時間が経過して大人の女性になったといった感じだが、そうかもしれない、と思って呆然と見ていると、画面がその子のアップの静止画になった時、俺はつい、

「わっ!」

 と声を上げてしまった!

 何故なら瞳は綺麗なエメラルドグリーンで、まさしくその魔法少女だったからだ!

 ワイドショーの司会者は続ける。

《主犯格の女は『もう訳が分からないね』と供述しています》

《関係者によりますと『彼女の周りでは不可解なことが起きる。慎重に調査する必要がある』と語っています。今後の真相究明が待たれます》

 間違いない、間違いなくあの時の魔法少女だと確信した時、俺がもしあの子と世界を救う道に行っていれば、あの子は闇バイトになんて手を染めなかったのか? と、ふと考えた時、やり直したいと思ってしまった。

 それは今の自分を顧みてなのか、それとも小さな正義感からあの子を救いたいと思ったからなのか、それは分からないけども、強く強くやり直したいと思った。

 その時だった。

 どこからともなく、テレビ以外から声が聞こえてきた。

「今、完全一致したね!」

 俺はその声がしたほうをバッと見ると、なんとそこにはあの魔法少女が突然出現していたのだ!

 俺と出会った頃の魔法少女じゃなくて、ちゃんと、ちゃんとと言うか、今、連行されていたその子の姿で。

 何が起きたのか理解できず、震えていると、その魔法少女は立て板に水といった感じにペラペラ早口で喋り出した。

「貴方の戻りたいという気持ちと、私の戻りたいという気持ちが完全一致している今だからこそ、あの頃に戻ることができるんだね! そういう特大のね! 一世一代の移動魔法なんだね! 早く! 気が変わらないうちにね!」

 そう言って布団の上で座っている俺の手をグイグイ引っ張ってきた魔法少女。

 急に女子に手を握られてドギマギしてしまい、引っ張られるまま立ち上がって、魔法少女の後方に何だかあるような気がする空間のトンネルみたいな入り口に一緒に入ると、何だか視界が歪んだ。

 これどうなってんの? 何か上も下も分からないように感覚がシェイクされている……と思いながら、つい怖くなって目を瞑ってしまった。

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