番犬VSルーナ
ケルベロス。
危険度SS級。
体長は20mを越える、3つの頭を持った犬の怪物。
魔族の領土にしか生息していない。
かつて初代魔王に飼い慣らされていたが、それ以降の魔王には一切懐かず、このままでは危険と判断され、 封印されていたと言われる伝説の魔犬。
「なぜ....ケルベロスは封印されていたはずじゃ....」
「俺たちが魔王を討伐したから封印が解けたとか?」
「ありえない....」
ソーマ、フリード、ユリアも信じられないといった様子だ。
B級冒険者は腰を抜かし、A級冒険者は恐怖のあまり動けない。
S級冒険者は何とか冷静に状況を把握して、ケルベロスの動きに目を離さなかった。
だが、それしか出来ない。
もうソーマ達の魔力は残っていない。
強化魔法によって得た強大な代償が襲い始めてきていた。
「流石に私も足止めするくらいの魔力しか残ってないわ」
S級上位の危険度を誇るブラックドラゴンをも越える、ケルベロス。
万全な状態ならば、恐らく倒せる可能性は十分にあった。
だがブラックドラゴンとの戦闘によって消費した魔力は甚大。
今のこの状況では、足止めでは意味がない。
討伐が絶対条件。
だが、何もやらない訳にもいかない。
そう思い、ユリスは魔力を振り絞り戦闘態勢に入った。
「ま、待てユリス....ぐっ!!」
「無理すんな!ソーマ!...俺達で何とかする!」
「ソーマは休んでて」
無理に動くソーマを静止させ、フリードとユリアも大聖女に続く。
そして、ズイシャも立ち上がる。
「おい、あんた」
「.....」
「おい!!」
「っ!!な、なんだ?」
「この人、医務室まで運んでおいてくれないか?」
「あ、あぁ....」
ルーナはこの絶望的状況で、歩き出した。
勇者に感化されたか。
ケルベロスを目の当たりにして動けずにいる冒険者たちの間を、ルーナはただ1人歩いていた。
「お、おいお前!何してるんだ!?」
「戦うんだよ」
「ばかか!?知ってるぞ!?お前C級だろ!!期待の新人とか言われてるけど、それでもC級なんだろ!!敵うわけない!!」
「だからなんだ?」
敵うわけない。
お前には無理だ。
昔から言われ慣れているネガティブな言葉達。
この時のルーナは、その言葉に珍しく怒りを覚えていた。
それはルーナが傷付いたからではない。
「お前たちはさっきの勇者の言葉、ちゃんと理解できてんのか?俺たちが逃げたら、ここに居る意味が無くなるだろ....あんなにボロボロになってまで立ち上がるS級冒険者たちを見て何も思わないのか??」
そう、勇者ソーマは見せてくれた。
力を持つものの責任を。
それを踏みにじるかのように、戦うことから逃げようとしている事に怒りを覚えたのだ。
(こう言ってるが、逃げ出したくなる気持ちは分かる....俺もお前たちの立場なら諦めていたかもしれない)
後ろから歩いてきたルーナに、ユリスが最初に気付く。
そして続いてフリード、ユリア、ズイシャ。
「お前....ルーナ....か?」
「期待の新人が何しに来たんだ?ここはお前の出る幕じゃないだろ」
ズイシャが怒りの声を上げる。
だがその言葉の奥底には、心配の気持ちが込められていた。
こんな所で正義感に駆られて犠牲になるなと。
「妻に守られてばかりの男なんて格好がつかないだろ」
「ルーナ....」
「ふっ....ははっ....はははっ!!こんな状況でプロポーズかよ....でも知ってるか?そういうのフラグって言うんだぜ?」
「ユリスを置いて先立つなんて有り得ねぇよ」
絶望的状況で響くズイシャの笑い声。
動けずにいるソーマがルーナの姿を捉えて、力を振り絞って声を出す。
「....ル、ルーナ君....なに、してるんだ....」
「勇者ソーマ....さっきの一撃、鳥肌が立った....俺の憧れた勇者そのものだった。俺を認めろとは言わん。だが、俺にも守りたいものを守らせてくれ」
そう言いながら、唸り声を上げるケルベロスと完全に相対する。
殺気に満ち溢れた視線がぶつかり合った。
「そろそろどこの誰かも分からんやつに小言を言われるのは飽きてきた。ユリス達は休むことに専念してくれ....この犬は俺がやる」
「分かったわ....でも、無理だと思ったらちゃんと言って....私達はいつでも援護の準備はできているから」
「あぁ」
(流石に異能を使わずにってのは無理そうだな....)
大衆の目前で初めてお披露目。
ルーナの異能。
VS地獄の番犬。
「....
異能解放と共に、ルーナの周囲に氷が発現しルーナを取り囲む。
今回発動されたのは氷属性の異能。
取り囲まれた氷の中から現れたルーナは、氷の手甲を身につけていた。
「....あれは....一体何だ....」
「異能....古代魔法の一種よ」
「異能!?....マジか、何かあるとは思っていたが....こんなに寒いと感じる空気は初めてだ」
思わず目を奪われる青白い氷を纏ったルーナから、冷たい空気が流れ、ユリスたちの口から吐き出される息は白くなっている。
「さぁ、やろうか....犬っころ」
先に仕掛けたのはルーナ。
攻撃は至ってシンプル。
ケルベロスに飛び掛かり、ただ拳を振るだけ。
俊敏な動きで避けるが....
殴り付けられた地面から、剣のように尖った巨大な氷山が突き出される。
左の頭に突き刺さり、そのまま吹き飛ばされた。
「グルルルルル.....」
まさかの初手で負わされた深手。
だが、冷静に再生。
「ほう....再生するのか」
失った左の頭が再生する。
だがそれでは怒りは収まらず、大きな咆哮を上げる。
本来ならその咆哮に威圧されるため、動ける人間は居ない。
そう、本来ならば....
「さすが単細胞、隙だらけだ」
今度は右の頭に向かって強力な蹴りを見舞う。
例に漏れず、氷山も蹴りと同時に現れ、ケルベロスは右の頭を失った。
今ルーナが繰り出しているものに、技名は無い。
ルーナにとってはただ殴り、蹴るだけの物理攻撃でしかないからだ。
つまり、まだ本気を出していない。
言葉は理解できなくても、肌でルーナの強さを感じたケルベロスは、更に怒りを増幅させた。
自分が負けるわけない。
初代魔王以外に、負けるわけが無い。
そのプライドがケルベロスの表情に滲み出ている。
「すげぇ.....完全に押してる」
その姿にフリードとユリアは言葉を失い、ズイシャは驚きの声を小さく上げた。
ユリスはルーナなら当然だと胸を張っている。
この状況、地獄の番犬のプライドが許さない。
即座に失った右の頭を再生させ、真ん中の頭が大きく口を開けた。
黒い炎と雷を禍々しく混ぜ合わせ、放つ。
ブラックドラゴンの青い炎のブレスの数倍の威力。
「まずい!!伏せろ!!」
これを逸らせば街どころか、そこにある森、川、全ての生命の危機。
頭を伏せたところで意味は無いが、フリードの大きな声で冒険者全員が頭を伏せた。
ルーナを除いて....
「
ルーナの眼前に現れた、巨大な氷の壁。
ケルベロスの攻撃が着弾し、大きな爆発が起きる。
だがそれによる爆風はルーナ達には流れてこない、全ての爆風はケルベロスに跳ね返る。
爆発が収まり、ルーナが氷の壁を解いたその先に見えたのは凄惨なものだった。
地面は抉られ、周辺の森の殆どが無に返されていた。
僅かに生き残っていたモンスターたちの存在も許されない。
「な....なんてやつだ....全部吹っ飛んでやがる」
「いや....あんな馬鹿げた攻撃を防ぐルーナも化け物だろ....」
ズイシャとフリードは状況を整理できずに言い合っている。
それほど目の前で起きていることの次元が違っていた。
「俺の氷はな、メインは攻撃じゃない....最大の持ち味は防御だ」
先程も言ったように頭2つを吹き飛ばしたあれには、技名は無い。
ただの物理攻撃に氷が勝手に出てくるだけでしかない。
「周りの雑魚も片付けてくれてありがとな、手間が省けた」
「ぐぁぁぁぁ!!!」
怒りに我を忘れ、前足に強烈な雷を纏い踏み潰そうと飛びかかるが....
「無駄だ....ったく、躾のなってないやつだな。飼い主にはどんだけ甘やかされてたんだ?」
再び現れた氷の壁により、届かない。
そして氷の壁に触れた前足から凍り、離れなくなった。
「
絶対零度の冷気を放ち、敵を凍結させる。
ケルベロスは必死に離れようとするものの、体はどんどん凍結し自由が奪われていく。
咆哮も虚しく、身体の全てが凍結する。
誰も見た事がないケルベロスの氷像は美しく陽の光が反射させるが、ルーナの意思で崩壊を迎えた。
束の間の芸術作品。
「やはり体の芯まで凍らせてから壊せば、再生は出来ないみたいだな」
SS級 地獄の番犬 ケルベロス 崩壊。
スタンピードはこれにて終息。
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