スタンピード

避難勧告を受けて、周辺の村に住んでいた村人達が次々に王都に避難してくる。

スタンピードは王都に向かって来るというのに、なぜ王都に避難させるのかというと、地下都市があるからだ。

今から約800年前。

まだ王都リオネルとも呼ばれていなかった、ただの人口密集地のこの場所に、初めてのスタンピードが起こった。

住民たちは為す術なく蹂躙されたが、わずかに生き残った人間は深い傷を負いながらも立ち上がり街を復興させたのだ。

そしてこれから産まれてくる人間には自分たちのような経験をさせないため、街を囲むように大きな外壁を建て、戦えるものを育てた。

騎士団と冒険者の誕生だ。

そして、周辺の村人達も一緒に救うために地下に大多数の人間を守るための避難場所を作り、それを今も大金を掛けて維持し続けている。


━━━━━「苦しむ人を減らす為ならば、なんでもやる」━━━━━


その言葉を胸に、激動の時代を手を取り合いながら生き残り、巨大な地下都市を完成させた。


「おっと....大丈夫か?ばあさん」


「ごめんねぇ、ありがとう....」


「いや、気にしなくていい。地下まで歩けるか?」


「大丈夫よ、ありがとうねぇ」


C級冒険者であるルーナは避難誘導をしていた。

ユリスは別行動をしている。


(母さんと父さんも避難できてんのかな)


避難誘導をしていれば、顔を見ることができるとルーナは思っていたが、いかんせん避難してくる人が多いため見つけることが出来ずにいた。


「ルーナ、そっちの調子はどうだ?」


「ギザさん....避難は順調だ。今のところ混乱も起きていない」


「ユリスは、勇者パーティと一緒か?」


「そうらしい」


スタンピードを迎え撃つため、一時的にユリスは勇者パーティと行動を共にすることになった。

3年間一緒に旅をしていたのだから、連携も問題無いだろうと判断されたらしい。


「説得には骨が折れた」


「せっかく苦労して抜けたのにこれじゃ意味ないじゃないって、家に帰ってからも言ってたからな」


「勇者パーティはこの国の希望だからな....その一角が居なくなったとなれば、他国からも舐められる事もあるかもしれんからな....国民を安心させる為にも、こういう機会に希望はまだ消えていないと示す必要があるんだろ」


どうやら勇者パーティに参加させたのは、そういう政治的な理由もあるようだ。

魔王を討伐した今、本格的に人間同士の関わり合いが多くなるから仕方ないのだろう。


「これで勇者パーティは一時的に復活、それに加えて龍の翼も帰還しているからな....人外的な強さを持ったS級が居るというのは心強いな」


「ギザさんも人外なのか?」


「馬鹿言え、俺が現役の頃とは魔法のレベルも格段に違う。開発されている魔法もかなり多いしな。それに、今のS級は例外なくオリジナルの魔法を開発している」


すると、王都に警告の鐘が鳴り響く。

そして遠くから声が聞こえてくる。


「来たぞ!!スタンピードだぁ!!!」


幸いなことに、周辺の村人達の避難はあらかた完了している。

ひとつの不安材料は消えた。

だが、外壁の外から聞こえてくる叫び声はその僅かな安心感も掻き消す。


「大丈夫だ。お前は、もしもの時のため外壁の中で待機しておけ。万が一の撃ち漏らしのためにな」


「分かった」


そして舞台は壁外。


「うぉっ、結構多いな」


「でも、私たちの相手じゃない」


「そうだ、僕たちはここに居る住民を守るために立ち上がったんだ!」


「はぁ....相変わらず暑苦しいわね」


フリードは不安の欠片も感じさせずに目に見えているモンスターの数を数え、ユリアとソーマは自信に満ち溢れた表情で立っている。

ユリスはその様子を、いつもの事だと溜息を吐きながら魔法の準備をする。


「よし!戦えるものは前に出るんだ!遠距離班はその援護を頼む!」


ズイシャの声はその場にいる冒険者全員に届き、士気は上々だった。


「行くぞぉ!!!」


「おぉぉぉ!!!」


冒険者は各々武器を振り、迫り来るモンスター達に立ち向かっていく。


「はぁ!!」


ソーマも聖剣を振り、モンスターを次から次へと斬り伏せていく。

フリードも持ち前のパワーを活かし、破壊力抜群の技で敵を叩き潰す。


「っ!!フリード!!」


フリードの背中からキングゴブリンが襲いかかるが


「.....」


ユリアが弓で頭を貫いた。

キングゴブリンはそのまま眠るように倒れる。

弓は綺麗に刺さっており、血も出ないという訳の分からない状態になっていた。


「悪い!ユリア!」


「気にしなくていい....」


今ここにいるモンスター達は、危険度がC級以下のモンスター。

ソーマ達の敵ではない。


「ブルーウルフだ!!」


名前の通り、青色のウルフ。

通常のウルフとは違い、水の魔法を操ることが出来る。

危険度はC級。

基本群れで行動して狩りをする。

今回はスタンピードということもあって、通常の群れの倍近く50匹ほどの大群だった。


「あの数、少し面倒だな....よし!焼くか!」


「いや、でもあれブルーウルフですよ?火属性の姐さんの魔法じゃ相性悪いんじゃないですか?」


「お前ら!!下がってろ!!」


そう言ってブルーウルフの大群に対して、ズイシャ1人が前線に立つ。

ブルーウルフは雄叫びを上げながら、ズイシャに目掛けて水の弾丸を口から放つ。


「一気に行くぜ....火属性魔法 炎の高波フレイムウェイブ !!」


高く、うねる炎の波。

その炎の波は、ブルーウルフの水を一瞬で蒸発させ、50匹の大群全てを飲み込んでいく。

断末魔も聞こえない、熱さを感じる間もなくブルーウルフは焼き尽くされた。


「水遊びには付き合ってらんねぇんだよ」


「おぉ!!姐さんすげぇ!!」


龍の翼のクランメンバー達がズイシャの活躍に歓声を上げる。

それも束の間、今度は空高くをワイバーンが飛んできていた。

ブルーウルフを倒したとはいえ、まだ地上には数多くのモンスターが居る。

加えて、例に漏れずワイバーンも群れになっていた。

その数、約25匹。


「くそっ!あの高さじゃ僕の聖剣でも届かない!」


まるでワイバーンは図っていたかのように、高い場所を飛んでいる。

そんな状況でも、大聖女は表情一つ変えない。

ただ杖を構えた。


「....異空間魔法 空間遮絶シャットダウン


25匹もなるワイバーン全ての胴体を異空間に引きずり込み、頭だけを残して空間を遮断する。

ピンチにも思えた空からの刺客は呆気なく潰えてしまった。

ワイバーンは何が起きたかも分からないまま、頭だけ地上に引きずり下ろされる。

恐らくワイバーンは初めての経験だろう、背丈の小さい人間から見下されるという屈辱。


「頭が高いわ、私を見下ろすなんて100年早いのよ」





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