死と愛の短編集

つばめいろ

SLOW

 ボタン一つで苦しまず死ねるなら数年前に死んでる。じゃあ、今だったら苦しんでも死ぬことができるだろうか。漠然とした辛さ、苦しさを感じる。それが心の容器に満杯に入っていて、何かの出来事が起きただけで、零れそうになる。


 遺書は、現世への呪いみたいなものだ。一生残り続ける。書かれた言葉は、現世の特定の人に呪いをかける。故人の言ったこと、ということで人々は遺書の通りにする。いない人の言葉が常に生きている人の枷になることもある。そして、身を犠牲にしてかけた呪いはなかなかなくならない。だから、私は君に遺書を残す。君の枷になれるように。


 ただ私のことを想い続けてほしいと書くのはつまらない。君への呪いになるよう、遺書には生きているようなふうに書いた。私にとっては遺書、君にとっては手紙だろう。

 これは君が私のことを探してくれるようにするため。これなら十分な呪いになるだろう。呪いを君の机に忍ばせる。


 さて、誰にも見つからずに死ぬことのできる場所を探しに行こう。絶対に見つけられない遠い場所へ。

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