異世界は寮生活で乗りきろう

徳田新之介

第1話 そしてそれは唐突に始まった

俺は一ノ瀬 仁(イチノセ ジン)私立賢旺学園高校の2年生だ。

東京郊外に位置する私立賢旺学園は幼稚舎から大学までの一環教育を行っており、一般的にはエリート排出機関として名高いらしい。

まぁそれなりの人材がゴロゴロいることは疑いようが無いとも言える。

しかし俺はと言うと、そうした奴らとは縁遠い存在かもしれない。


そんな私立賢旺学園には小さいながらも学生寮がある。主に入寮するのは中高校生だけど地方の推薦組とか特待生とかで家庭事情のある奴が暮らしてる。

かくゆう俺も両親が海外赴任してて東京に親戚もない事でここに放り込まれた。

まぁ一人1室が確保されてるんでプライバシーは守れてる。シャワーブースとトイレは室内にあるし、朝夕の食事も用意されるから特段不便は無い、いやむしろ快適。大学に進学すると出されてしまうようで、それは困るかもとか最近思い始めている。


寮の事をもう少し詳しく言うと、男子寮と女子寮の2棟があって「コ」の字の形で小さい中庭に面して建っている。2つの棟を繋ぐ部分はエントランスがあって食堂やら大浴場やらライブラリーやら保管庫やらがある。施設的には案外充実してる。

寮の部屋は男女とも10室ほどなんだけど現在入寮しているのは全部で8人と少し寂しい状態。まぁ自宅組や親戚居候組、自主的にアパートやマンションに暮らすモノも多いし、今どき寮生活とかは面倒なのかもしれないとも思ってる。

実際この寮に入っているのは変わり者が多い。


寮生活と言えば、なんかワイワイ楽しげな状況をイメージするかもしれないけど、ここは至って静か、みんな適当な距離感を保っている。ただ朝夕の食事の時間帯は案外顔を合わせることが多いんで、他愛ない無駄話をすることもある。

今夜も期末試験真っ最中ということもあって全員がこの食堂に顔をそろえている。

右端のテーブルで談笑しながら食事をしているのが、十朱 芽久(トアケ メグ)と億谷 雄気(オクタニ ユウキ)。2人ともスポーツ特待で入ってきた高校2年だけど、十朱芽久はトラック中距離のオリンピック強化選手、億谷雄気はフェンシングのオリンピック強化選手だ。十朱芽久はショートカットでスレンダーなんとなくクールな印象だけど時々見せる笑顔が抜群に可愛いので少しドキドキすることがあるのは内緒。億谷雄気は高身長で端正な顔立ち、髪色が少し銀色っぽいのは1/4ほどヨーロッパの血が入ってるんだと、リーチも長いんでフェンシングには有利らしい。

長テーブルでかたまって食事しているのは推薦組の3年の百田 太一(モモタ タイチ)、千石 優美(センゴク ユウミ)、兆元 桜(チョウゲン サクラ)と2年の万代 右近(バンダイ ウコン)だ。百田太一は経済学部志望のチョイポチャ眼鏡、何度か部屋にも行ったけど政治/経済/歴史/軍事関係の本が山積みでその知識は半端ない。千石優美は両親とも医者らしく医学部志望、ロングヘアで結構出るとこは出てて妙に色っぽいのが困ったモノ。兆元桜は理工系特に化学系を志望しているちっちゃいメガネっ娘、どこか小動物系。万代右近は工学部志望のメカ大好きでいたずら好きな陽気な奴、今は小型ロボットの製作にはまっている。

そして俺の前で美味そうにカレーをパクついてるのが京山 博人(キョウヤマ ヒロト)唯一の1年生。北海道の牧場の息子なんだけどそのせいもあって獣医志望らしい。


「ねぇねぇ仁さん、ご飯の後また部屋に遊びに行っても良い?」


博人はお目々がキラキラしている。

「博人、勉強は良いのかよ試験中だぞ」

「試験なんて楽勝楽勝」

「(いや、俺が不味いんだが)」と脳内に鳴り響く。

どうせお目当ては俺が大量に所蔵しているコミックなんだろうけど・・・


かくゆう俺はと言えば、一応文学部志望としているがアニメ・コミック・ラノベ大好きのどっちかというと優柔不断でこの中では落ちこぼれ系なわけ。なにか特技が有るわけでもなし、将来に対して明確の願望も持ってない。趣味でDTMとかもやってるけど突き進むほどの情熱も無い。

「まぁ良いや、後で部屋に来い博人。好きなコミック持って行けばいいさ」

「ホント?ありがとう!」


―――――――――  夜  ―――――――――――


ふと目が覚めた。

違和感というか、ゾワゾワする皮膚感覚がある。

時計に目をやると午前3時。でも窓の外が妙に明るい・・・

俺は弾かれるように立ち上がって窓を開けた。

見上げた空には巨大な金色の魔方陣があった。

「これって・・・まさか・・・だよね」

魔方陣からは建物を包むように金色の光が降り注ぎ、辺りの景色をかき消している。

「マジかよ・・・・」

すーっと気が遠のいて行くのが分かる、頭の中に何やら声と音が湧いてくる、それが何を言っているのかわからないけど。

その現象が一瞬だったのか永遠の時間だったのか分からなかった。浮遊感と共に自分がバラバラになってまた再構成しているような奇妙な感覚がする。


ハッと我に返ると部屋もあたりも真っ暗だった。あの魔方陣はもう無い。

俺は唖然として窓の外を見ていた。

だんだん感覚が戻ってきた、深い緑の匂い、遠く聞こえる水の流れの音、見上げた空の星の多さ、何かの動物らしき鳴き声・・・そして低く流れる多数による詠唱の声!


「お約束過ぎる・・・」

俺はそうつぶやいた。

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