霧神響生とその嫁とは --asaoka

霧神家の跡取り息子、響生様は夏から秋にかけてやたら元気に行動し始める。



7・8月は一週間に一回は海に山に出かけて行った。



学生時代なんて友人たちと夏祭りやらバーベキューやらでマンションに帰らない日のほうが多かった記憶がある。そのたびにどれだけ護衛のシフトと編成を変えたことか。懐かしい記憶である。



そんな人は結婚しようが子供が出来ようが、やっぱりそういうことが大好きらしい。



まだ小さな子供がいるというのに嫁をあらゆるところに引っ張り回している。



夏の間仕事に暇が出来ればすぐに嫁と子供を連れて海やら川やらに行っていた。





そして秋になると、今度は違うことをし始める。



「おい、浅岡」




お昼、枯れて落ちた葉を掃き掃除している使用人と話していたところ、響生様に声をかけられた。




「枯葉庭に集めとけ」


「……今度は何を?」


「サツマイモ焼く」




どうやら先日真夜様の祖母を訪ねたときにもらってきたサツマイモを自分で料理するらしい。



今時こういうことが好きな人間もまた珍しい。まぁ嫁も田舎出身だからそういうことには寛容的だから助かった。




「火事にだけはしないで下さいよ」


「誰に物言ってんだ、てめぇ」


「……真夜様たちは?」


「永苑ともう準備してる」




言い出したら聞かない魔王様であることを良く知っているから反論しない真夜様。


いや、結構都会じゃ出来ないから楽しんでいるかもしれない。




「……すぐ持ってきますから、待っててください」


「おう」




魔王様の背中を見送って、使用人と一緒に同時にため息を吐いてしまった。



響生様のアウトドア活動は午後から始まった。




「真夜、火起こすから莉真連れてくんなよ」


「はいはい」




莉真様を抱っこした真夜様は縁側に座って見守る役らしい。


響生様は永苑様と集めた枯葉の前に座り込んでいる。




「都会で秋にこんなことしてるの、響生様くらいですよ」




ポツリと呟けば。




「まぁ、いいんじゃないですか。響生言い出したら聞かないし」




真夜様は苦笑いしながら庭の夫と子供を見ている。


その顔は本当に、穏やかな母親の顔。



響生様が結婚して嫁のこんな顔を見るとは思っていなかった。


それだけ今の霧神家が平和な証ということだろう。




「パパぁ~!」


「って!いきなり後ろから抱きつくな永苑。危ねぇだろうが」




飽きたらしい永苑様が響生様の背中に飛びついている。


それに慌てている響生様を見るのも面白い。



順調に火が起きてアルミホイルに巻いたさつまいもを放りこんだら、待っている間は縁側でおやつの時間。



使用人がせっせとお茶とお菓子を運んでくる。




「あ、そういえばおばあちゃんからもらった漬物あるよ」


「持ってこい」




響生様の命令に使用人が台所に飛んでいく。



おやつに漬物。なんて渋い。


そう思う自分をそっちのけで、莉真様を真夜様から受け取って抱っこしたまま響生様はボリボリ食べている。



そこに奥様も加わって、本格的なお茶会になった。




真夜様が来てから本当にこの家は平和だ。


あんなに家に帰ってこなかった響生様。呆れて放置だった旦那様と奥様。どうでも良さそうだった使用人。



今は、こうして縁側に集まって穏やかに過ごしている。



それは全て真夜様のおかげで。彼女は本当にすごい。




ただ。




「あ、響生!永苑が火遊びしてる!」


「ったく。おい永苑、いたずらすんのやめろ」




騒がしいのは相変わらずだけれど。



待っている間永苑様がいたずらするのを響生様が慌てて止めたり。


それをハラハラしながら見ていた真夜様の着物に莉真様が暴れてお茶こぼしたり。



お騒がせ家族だけど、見ていてこっちも笑えるくらい幸せそうで。




響生様はいい家族を持ったなと思う。





「響生、永苑にあんま食べさせないでよ。夕飯食べなくなるから」


「おー」



なんて忠告受けたのに止められなくて結局永苑様は夕飯食べないから真夜様が呆れて。



その視線を無視した響生様はどこやらから花火まで引っ張り出してきた。




「夏の残りすっぞ」




あれだけ火遊びしてまだするんですか、っていう文句は飲み込んだ。



もしボヤが起きてもすぐ消化できるように使用人たちが水用意してるからいいですけど。








結局花火して動き回った永苑様が疲れて寝たのを真夜様が抱っこしてつれていく。



それを響生様は縁側に座って見ているだけ。



遊ばせるだけ遊ばせて後は真夜様頼み、っていうのは変わらない。



片付けも結局使用人がする。



響生様は縁側でタバコを吸っていたけど、片付けが終わって見たら戻ってきた真夜様とくっついていた。




真夜様が何か言っているのを、響生様が頷いて聞くだけ。



でも、穏やかなオーラは変わらない。




「響生様、本当に真夜様のことお好きね」




使用人の誰かが言った言葉。嬉しげな笑い声が聞こえてくる。



みんな2人が仲いいのが好きだ。あの人達が喧嘩をしていても微笑ましげに見守っているし。




昔の響生様は、みんなあまり好きでなかった。俺様過ぎて嫌煙されていたから。


でも、この家の住人はみんな今の響生様のことを悪く言わない。




それはあの嫁のおかげだ。






「幸せでなによりです」





それが、今の平穏な霧神家。
















(ただ、2日にいっぺん

喧嘩するのはやめてほしい……by浅岡)



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