光降る彼方へ
大根初華
前編
魔法新聞の大見出しに、勇者が魔王を討伐したというニュースが踊っていた。動く写真には、赤い光沢の鎧に身を包んだ勇者が勝利を語っている。その姿を見ながら、オレはふと昔の彼を思い出していた――頼りなさそうな少年だった頃を。
同じくこの世界に呼ばれたものとして、偉業を達した彼のことを嬉しく思う自分がいた。
異世界に呼ばれる時、何かしらの魔法を授かるのが普通らしい。でもオレは何も得られなかった。その瞬間から、つまりこの世界では社会不適合者になったのだ。それを気の毒に思ったのか、王様はこの城で働くことを提案してくれたのだ。
この世界に来た時点で、元の世界に戻れるとは思っていなかったし、元の世界に執着するようなものは残していないつもりだった。だから、この世界で生きていくためにも、その提案をオレは受け入れたのだった。
※※※
今日も仕事場である王城の角部屋に出勤をする。ドアを開けるが、ここはいつ来ても暗い。元々は陽の入らない物置として使われている場所だと聞いた。
王の一言によってオレの働く場所を確保しなければいけなくなった。慌てて用意されたのがここ、という訳だ。その名残か、部屋の隅には魔法で使用されるのであろう箒や杖が散乱している。
サラリーマンとして生きてきたオレが、異世界でも同じような仕事をしている。それがなんだかおかしくて、少しだけ笑ってしまう。
魔法を使えないオレにできるのは、手探りでランタンを手に取り、マッチで火を灯すことだけだった。ランタンの弱々しい光が、机の上に広がった古びた紙束を照らしている。光の中で、小さな埃が浮かぶ。
椅子を座るとギイと軋む音が聞こえる。そんな時、大きな声が耳に入る。
「センパイ、今日も書類に向かってますね。でも、ちょっとくらい休みましょうよ!」
オレの仕事を手伝ってくれる少女だ。ショートカットの髪が揺れる。
部屋に飛び込んできた彼女は、短い髪を指先でいじりながら笑った。まるで忙しいのは自分じゃないと言いたげな、余裕たっぷりの態度だ。
「お前な……」と呆れるフリをするが、実際はその明るさに助けられているのだ。
もともとこの王城にメイドとして勤めていたが、俺が来たことにより、俺の部下となった。とは言っても、部下とは名ばかりで、言葉やこの世界の常識など色々教えてくれる先生みたいなものだった。
その代わり、向こうの世界のことを色々教えてあげていたのだが、その途中で、〖センパイ〗などの破裂音が気に入ったらしく、その名で呼んでくれる。どうも気恥ずかしい気持ちになるが、同時に嬉しくもなる。
「オレがサボると仕事がたまるんだぞ」
照れ隠しもありながら言うと、「それでも、倒れるよりはマシですから!」とストレートに返されてしまった。こういうところが好感持てる。
そんな時、トントンとドアがノックされる。
彼女が機嫌よく対応してくれている声が聞こえてくるので、オレは昨日やり残した書類のまとめに取り掛かっていた。しかし、それはすぐに中断されることになった。
どうやら王様が呼んでいるらしい。
王様もすごい気さくな方なのだが、明らかにオレいらないよね、という案件でも呼んでくれるのだ。気を遣ってくれてるだろう。
ため息をつきつつ、王の間へと向かうことにした。
※※※
どうやら現実は厳しいらしい。
オレは仕事場に戻ると頭を抱えた。
異世界人のオレに王は何を求めているのか。
こんな言葉で逃げたくなった。
それでも、とりあえずもうすぐ――側近の預言者曰くしばらくかかるらしいが――降ってくる隕石を何とかしなければならない。この都市が崩壊してしまうぐらいの大きさがあるらしい。
何とかして欲しい、と言われても、魔法を使えないオレにどうしろと言うのか。それで頭を抱えてしまったのだ。
机を左手の人差し指で叩く。一つ二つと何回か叩いてから人差し指、中指、薬指、小指を叩いてから今度は逆から戻すというのを繰り返す。それがやがてリズムを刻むようになる。
昔友人から指摘された癖で、考えてる時にこれが出てきてしまうらしい。多分これは以前左手を動かすと右脳を働かせることができると聞いた事があるからだと思う。右脳のひらめきを司る機能に刺激を与えて少しでも良い案を出したいのだ。
何回から繰り返すと、アイデアがなんとなく形になる。
この部屋にある資料から過去に近い事がなかったのかそれを調べる事良いのだ。せっかく編纂室にいるのだ。これを活かさない手は無い。
とりあえず近くの本棚から以前まとめた資料を取り出す。表題を天候などに絞ってだ。
もちろんまとめきれてない書類も山のようにある。それはあとで探すしかない。
※※※
しばらくは書類とにらめっこする日々が続いた。いつも手伝ってくれる彼女にはこの事はさすがに言えない。王様から言われた仕事をしている、だけを伝えていた。
まとめていた書類を一通り探し終え、まとめ切れていない書類を探している所だった。
書類の一部が虫食いだったり滲んでいて、きちんとは読めない。だが、とある文字の羅列が目に留まった。
オレは資料をひたすら探した。その中で、ようやく【隕石】【魔法】と書かれた記述を見つけた。だが、それが犠牲を伴う禁術であることを知り、愕然とした。
それは隕石を呼び寄せてある程度コントロールはできる魔法らしい。過去にそれを行って崩壊を防いだこともある。
誰もが持っている生命力を無理やり魔法力に変換して行使する魔法で、その性質上魔法を使えない人間でも使えるが、術者を犠牲にしなければならない。
当時は罪人を使ってその魔法を行使したらしい。
もちろん今回も罪人を使えば全てを解決するだろう。だけど、本当にそれで良いのか。
罪人と言えどもこの世界に生まれ落ちた大切な住民だ。オレのこの手で判断しても良いのだろうか。
しばらく考えたが、考えが、わからなくなってしまったので、そのまま部屋を飛び出した。
この王城の三階。角部屋に皇太子の部屋がある。皇太子の方が少し年上なのだが、気さくに話しかけてくれる。知り合いがいないオレにとっては凄くありがい存在だった。
そこに逃げ込むようにノックをする。
※※※
内容が無いような部分も多く半分ぐらい愚痴みたいになってしまったけれど、色々話を聞いてもらうと結局報告した方が良いという結論に達した。そこからは早く、皇太子は王に会えるようにセッティングをしてくれ、その機会は直ぐに来た。
王は私服とはいえ豪華な服のまま対応してくれた。
方法はそれしかないのであれば、それを使用するが、他に手がないか探して欲しい。また、犠牲を出さずこの魔法を使える方法も併せて探して欲しい、旨を告げられた。
すぐに彼女にも伝えられ、手伝って貰うことになった。
前見たはずの資料ももしかするとオレが見逃してる可能性、あるいは、前に見た資料の中にある魔法を応用することによって解決する可能性もあることを考慮して、そちらは魔法を使える彼女に任せることにした。
それからしばらくはまた資料とにらめっこしていた。
それからまた数日経った日の深夜。
彼女は書類の中に頭を突っ込んでもう寝てしまっていた。毛布を掛け、書類も少し片付ける。
と言ってもほぼ自分のためだ。
書類を探し続けてると頭をよぎるのは犠牲を出すが隕石を降らせるあの魔法。
英雄願望も自己犠牲願望もオレにはない(と思っている)。
王様も皇太子も俺がやらなくても良いんだよと言ってくれている。だから、オレが使用しなくても良いのだ。
それは分かっている。分かっているのに。
どうしても考えがそこに――――あの魔法について意識がいってしまう。あれであれば魔法を使えないオレでも使える。だとすれば――――。
世界を守りたいとかこの王城を守りたいとか、そんな高尚な理由は無い。ただ単にオレしか出来ないんじゃないかという考えが頭をもたげる。
ああ、そうか。
もしかしたら、恩返しなのかもしれない。
犠牲は『ぎせい』であり『いけにえ』でもあるけど、結果的には救いなのだ。一宿一飯の恩義なのだ。
いや、それもあるかもしれない。
あるかもしれないが……。
そんな時、ぐわと彼女の声がする。
起こしてしまったかと見るが、むにゃむにゃと寝返りをしただけだ。
その瞬間気づいてしまった。
ああ、そうか。そうなのか。オレはきっと彼女が――――。
彼女を起こさないように行動を開始する事にした。
※※※
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