ダンジョン内遺品・痕跡回収人レミー=アリアードの回収記録

雨蕗空何(あまぶき・くうか)

第1話

 冒険者として、今までそこそこうまくやってきた方だと、剣士リト=ボロディアは思う。


「はぁーっ……はぁーっ……チクショウ、カッコつけすぎたな……」


 荒い息を吐いて、岩肌の壁の凹凸の中に、なんとか身を隠そうとちぢこまっている。

 十六歳。冒険者になって一年半。死ぬには若いが、冒険者の享年としてはありふれているし、死なない保障があるほど甘い生き方でないことも熟知してきたつもりだ。


「あいつら、ちゃんと逃げれたかな……へへ……せめて俺がおとりになった甲斐は、あってくれよ……」


 誰に聞かせるでもなく、独りごちた。口を動かすと、ケガの痛みと死への恐怖が少しはまぎれるものだ。

 そしてそれは、魔物に位置を気付かれるリスクと抱き合わせでもある。


 醜悪な魔物の息遣いを、リトは岩陰の向こうに聞いた。

 来たか。リトは身をこわばらせた。

 限界まで抵抗する。せめて一矢報いる。いくつかの行動方針のどれを取るかを決めかねたまま、それでもリトは剣を握り直し、正面を強くにらんだ。

 その視界に、魔物がぬうっと顔を出し――そしてその間に、何者かの姿が割り込んだ。


 一瞬の交錯だった。割り込んだ人物は、攻撃しようとする魔物の鼻先に手のひらを叩きつけ、ひるんだ魔物の背後に回り込み――このときリトには判別できなかったが、その人物は魔物の首にひも状の武器をかけていた――絶命させた。


 一連の流れを、リトはぼうぜんとながめていた。そんなリトに、魔物を絶命させた人物は顔を向けた。


「生きてる? すぐ手当てするから、じっとしてて」

「いっ……つ」


 言うやいなや、その人物はリトのそばにかがんで、手早く傷の手当てをした。リトは痛みに顔をしかめながら、その段になってやっと、その人物の様相を観察することができた。

 女性だ。リトより十は歳上の女性。軽装で、地味な色合いの服の上に、急所を守る程度のシンプルなプロテクターと手甲をつけている。あとは大きめのリュック。

 顔。眼鏡をかけている。その奥の瞳が虹色。それに乱雑に切りそろえられた黒髪にも、虹色の髪がところどころ混じっていた。

 その特徴に、リトは覚えがあった。


「魔王討伐隊の、レミー=アリアード……?」

「もう違う。魔王を倒してもう十年以上も経ってる」


 手当てを終えて女性は立ち上がり、リトは見上げる形になった。

 女性は――レミーは張りつめたような無表情でリトを見下ろして、名乗った。


「ダンジョン内遺品・痕跡回収人のレミー=アリアード。今のわたしは、そう名乗ってる」

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