【打ち切り】冒険者ギルド職員のオーク ~そりゃオークだって真面目に働きますよ~
薊野きい
0:傷だらけ(ナルベ)
そこにいた誰もが最初、そのオークの全身に刻まれた数え切れない程の傷に目を奪われた。
大小種類様々な傷達は少し小柄なオークのこれまでを痛々しく物語っている。
森の中をさまよっていたオークが偶然辿り着いた開けた場所。
そこには、不運にも野盗に襲われている最中の馬車とその護衛らしい男二人女一人の騎士がいた。
馬車の中には貴族らしい身なりをした女性と彼女に抱かれた少女が身を縮めている。
そして、これまた偶然、オークが茂みから出た場所が丁度馬車の目の前だった。
「な、なんだよオークか」
「先にこいつからだ!」
貴族達からオークに狙いを定め、陣形を変える野党。
対して、護衛の三人は即座にオークへ斬り掛かった。
何の合図もなく繰り出されたにも関わらず、完璧なコンビネーションの攻撃は、オークらしからぬ軽い動きでいとも容易く躱されてしまう。
「なんだよこのオーク?!しかも、こんなタイミングで!!」
「口より先ず奥様とお嬢様を御守りしろ!!」
「言われずとも」
怒声を上げながら女性と少女を背にオークへと武器を構え直した三人を見たオークは、次に後ろの野盗をチラリと見る。
そして、再び貴族達の方に向き直るとゆっくりと両手を挙げた。
何をするつもりだ、と警戒していた三人の内、中央の白髪頭の中年男シィルが最初に気づく。
それが人の文化に浸透している降伏の意を示す動きだと。
「待て、様子が変だ」
中年が左右二人を制止した時、オークの口がゆっくりと開かれる。
「——ワ、ワダシ、……テ、テキ、チ、チガウ」
強弱や上がり下がりの調子は変だが、オークが発した声は確かに人が使う言葉だった。
「おい、コイツ今……」
「……嘘でしょ」
これには三人よりも野盗の方が食い付いた。
「おいおいおい!!あっちの女三人よりこっちのオークの方が高く売れそうだぞ?!」
「それじゃあ、女は新品じゃなくても構わなさそうだな」
「まずはあのオークを生け捕りにしろ!!」
野盗の中央、リーダーが発した号令を機に彼らはオークへ攻撃を開始する。
先頭の大男が振り上げた大斧。
彼の横で犬系の獣人が身体の軸に引き寄せた刺突剣。
後方で女が引き絞った弓。
彼女の更に後方で唱えられる呪文の数々。
「おい!!後ろ?!」
「——▇▃▇▃▇▇▇▇▆▅▇▃▇」
——そのどれよりも早くオークは呪文を完成させた。
オークが手を着くと同時に地面は生きているかのように滑らかな動きで盛り上がり、分厚い壁を形成する。
壁はオークだけでなく貴族達まで取り囲み、野盗達の攻撃を全て防いで見せた。
貴族達は驚きのあまり声が出ない。オークが呪文を使うことに、その呪文の完成度に。
「益々生け捕り確定だ!!」
野盗の攻撃が激しさを増したことが壁越しに音と振動で伝わってくる。
——いくらこの壁が頑丈と言えど、限界は必ずくる。それでも……
三人が覚悟を決め、壁の向こうへ飛び出そうとした時、猫系の獣人が素早い動きで壁の向こうから回り込んできた。
「行くぞ!!」
シィルの号令と共に三人が一歩踏み出した時には既にオークが獣人の顔面を鷲掴みにし、地面に叩きつけていた。
「……は?」
出鼻をくじかれ三人の動きが停止すると、次にオークは自ら壁を殴り砕いてしまう。
「ちょっ?!」
初めはなんてことを、と困惑したが、すぐにオークの意図を察した。
砕かれた壁は礫となり野盗達を襲った。更に、土煙を成し視界を奪ったのだ。
オークはこの隙を見逃さずに飛び出すと、最初に遠距離攻撃手段を持つ者達から攻撃し始めた。
攻撃はするものの殺すことなく、確実に行動不能にしていく。
これまでのオークの行動は、どれもその場にいる皆の知る魔物のものではなかった。
理性と知恵が感じられ、人の動きと遜色ない。
「……ベ」
「え?」
そこでようやく泣きもせず、悲鳴を上げもせず、ただじっと様子を見ていた少女が口を開いた。
母親が腕の中の我が子に聞き返すと彼女はもう一度——、
「
これは後に誰もが畏怖する逸脱せし冒険者『赤染め』リリル・ヴィオレットと後に冒険者ギルドの職員となるオークのナルベの出会い。
そして、世界を救う物語の始まりである。
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