第20話 級友達の視線
ふと三葉は視線を感じて、そっと周囲を見回す。
するとこちらを窺う数名の級友と目が合う。
(噂になってるわよね……)
ホテルでの騒ぎから数日しか過ぎていない。
彼女たち自身は宴席に呼ばれていなくとも、親からあれこれ聞かされている筈だ。
そもそも神排思想はこの数年で表面化してきたものだから、信じていると公言した兄の発言は良くも悪くも注目された事だろう。
(色々と聞きたいのは分かるけど)
三葉が妾腹だというのは、別に秘密でもなんでもなかった。ただ表向きは羽立野家の一員として平等に扱われていると両親は周囲に信じ込ませていたので、今回の騒ぎがどのような経緯で起こったのか、三葉も知ってると思われていても仕方ない。
警戒と好奇心が半々の様子で、級友が近づいてくる。
「まあお二人でなにをお話しているの?」
「内緒話?」
意を決した様子で近づいて来た級友達の興味を惹かないように、吹雪をそっと鞄の中へと戻す。
「皆さん、聞いてください」
徐に歌子が立ちあがると、教室内を見回す。
「三葉さんは神排には関わっていないそうですわ。ですからこれまで通りに接してくださいな」
にこやかに、でも凜とした声で告げると緊張が一気にほどける。
この組には神を奉る家の子女しか通っていないので、「神排」に抵抗があるのは当然だ。だから河菜家の次期当主である歌子の口から宣言することで、三葉への警戒心は解けたようだ。
「三葉さん。お兄様のこと、父から聞きましたわ」
「蛇頭様との件は、あまり考えすぎないことですわ」
口々に三葉を慰める彼女たちは、本心から三葉を案じてくれている。
基本的に、この女学校に通う生徒は華族か士族に属する。総じて彼女たちは文字通りの箱入り娘で、女学校へ来る以外に出歩くことなどまずない。
優しい家族に囲まれ蝶よ花よと育てられれば、無垢な娘が出来上がる。たとえ父親が、いずれは自身の野望のため従順に育てているとしても、彼女たちは知らないし、知ってもにこにこと笑っているだろう。
三葉も数日前まで同じだったので、彼女たちの思考はなんとなく分かる。
稀に三葉のような成金の娘がいるけれど、この歳になれば悪目立ちをしても良いことはないと理解しているので大人しくしている。
「でも悪い事ばかりではないのでしょう? お兄様が婚約者をお披露目なさったんですって?」
「え、ええ……」
「高貴なお方だと噂だけれど、三葉さんご存じ?」
級友に彩愛のことを持ち出され、三葉は背筋が冷たくなった。
何をされたわけでもないのに、今でも名前を聞くだけで鳥肌が立つ。
「でも、神排なのでしょう?」
一人がその言葉を口にすると、少し空気が重たくなる。
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