第6話 逃げた先には狼
羽立野家も広大な敷地の屋敷を所有していたが、その比ではない。
邸内に入ると、その荘厳さにただ圧倒されてしまう。二階まで吹き抜けのホールに、美しいカーブを描く彫刻を施された階段。
床には絨毯が敷かれていて、草履を履いた足先が沈みそうだ。
三葉の通っている女学校も西洋建築を取り入れているが、ここまで素晴らしい造りではない。
「こちらでお待ちください。お飲み物は、紅茶でよろしいですか?」
「お気遣いなく!」
一階の客間に通された三葉が所在なげにソファに座ると、燕尾服を着た初老の男性が入ってきて紅茶を淹れテーブルに置く。
緊張で喉がからからだけれど、とても飲む気になれない。
(女中として働くのに、優雅に紅茶なんて飲んでいられないよ)
「執事の
「?……すみません。私これから女中として……」
言い終わる前に、勢いよく扉が開いて、一人の青年が入ってくる。
「やあ、よく来てくれたね」
ぽかんとする三葉に構わず、入ってきた青年はまるで長年の友人だったかのように笑顔で近づいて来た。
(誰?)
「迎えに行こうかと思っていた所だったんだよ。君から来てくれて助かった」
いきなり手を握られ、三葉は顔を真っ赤にして俯いた。
基本的に女学校では家族以外の男性と会話することは禁止されている。正式な婚約者以外の異性と手を繋ぐなど以ての外だ。
「
「ああ、そうだった。まだ君は学生だものね。すまない」
水崎に咎められ、弘城がぱっと手を離し謝罪する。
「いえ……こちらこそすみません」
良家の子女であれば十五歳には社交会デビューをするので、どうしても異性と関わる機会が増える。その関係で、異性に関しての禁止事項は、あくまで表向きのものだ。
しかし三葉は、これまで一度もそんな華やかな場に出してもらったことがなかった。なので、男性に対しての距離感が今ひとつ分からない。
気まずい空気を何とかしたくて、三葉はずっと握りしめていた懐紙を弘城に渡す。
「あの、これを……蛇頭様からの、紹介状です」
握っていたせいでくしゃくしゃになっていたけれど、弘城は何も言わず受け取りそれを広げて目を通す。
「ああ、江奈さんと会ったのか。彼女は判断が速くて助かる。これで君は正式に私の預かりとなったから、安心していいよ」
「預かりって……私、こちらで女中として働くのでは?」
書いて貰ったのは女中としての紹介状のはずだ。
「これには、君をよろしくと書かれているけど?」
「え?」
懐紙を見せられた三葉はその内容に仰天する。
要約すれば三葉を「大神弘城に託します」と言うような文言が書かれていたのだ。
「……
「自己紹介がまだだったね。私は大神弘城、この家の次期当主さ。とはいえ、実質全てを任されているようなものだけれどね」
ここでやっと、三葉は自分が対峙している相手がとんでもなく身分違いの人物だと理解した。
「これからよろしく、三葉さん」
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