第8話

支度を終えた私は、外で待機していたキュルネの元へと向かう。


「行こうか、キュルネ。」

「…うん」


----第八話 帰還----


キュルネは少し不安そうな顔をしていた。エルドの安否が分からない今、悲惨な現場を見るくらいなら、いっその事知らないままがよかったのだろう。


羽ばたいてからしばらく経った頃、エルドの街が見えてくる。

そこには、崩れた中心の時計塔、所々が燃えている家、場所によっては屋根まで崩れ落ちていた。


「…ほんとに来たんだね。敵国が。」

「…フルミネ、あれ」


キュルネが見ている先に目を凝らすと、そこには、少し煤がついているだけの私の家があった。


「無事なんだ…!」

「早く向かおう、フルミネ」

「うん、分かった!」


家の扉を開くと、そこには変わらない光景が広がっていた。


「でも、お母さんは居ないみたい。」

「逃げたんじゃないかな。中心部からは離れてるけど、街の人の騒ぎは聞こえるはずだよ」

「それもそっか。あれ…」


リビングを見渡していると、机の上に書き置きがあるのに気づく。

私があの日置いていったものでは無い、別の紙だ。


「【おかえり、フルミネ、キュルネ。私は今から街の外へと逃げます。どうにか生きてみせるから、安心してね。】だって…良かった。助かってるといいな…」

「フルミネ、そろそろ戻ろう。軍から逃げたと思われたら、大変だよ」

「そうだね、戻ろう。」


「あ…お母さん、ただいま。」


私は家を背に、ユーリアへと戻る。


ユーリアに入った瞬間、遠くから爆発音が聞こえる。


「なに!?」

「早くユーリアに向かおう!」


キュルネは時速100kmほどまでスピードを上げ、すぐにユーリアが見えてきた。

幸い、爆発魔法が当たったのは、ユーリアではなく、街の外にある岩だったようだ。

ユーリア軍の本部前には、兵士の皆が集まり、隊長を中心に列をなしている。

更にユーリアに近づくと、遠くに敵国の魔術師の姿が見えた。


「キュルネ、急いでみんなのところに。」

「わかった」


キュルネに更に加速してもらい、一瞬で本部前へと降り立つ。


「すみません!遅れました!」

「兵士フルミネよ!列に並べ!」

「はい!」


隊長は私を責めている場合では無いと思ったのか、私はすぐに列に並べられた。


「突然の事態に、即座に準備を整えてくれたこと、誠に感謝する!今から敵国の軍を迎え撃つ!私が指示を出すが、時によっては自己判断も許すこととする!準備はいいか、兵士たちよ!」

『は!!』

「では、出撃!!」


私もキュルネと共に、兵士たちに並び出撃する。


「キュルネ、効率を考えて、それぞれで戦おう。お願いしていい?」

「分かった」

「何かあったら叫んで、じゃあ、また後で!」

「うん!」


私はキュルネから降り、飛行魔法を発動する。

最前線に配置された魔術師をまとめて電撃魔法で撃ち落とし、そのままの勢いで後列へと向かう。


(真ん中の魔術師は他の兵士に任せよう。おそらく援護係は後列にいるはず。まずはそっちを叩こう。)


案の定、後列には最前線や中心部と比べ、厚い装備の魔術師が並んでいた。

威力向上のために水魔法を撃ち込むと、魔術師が少し姿勢を崩す。

その隙に電撃を撃ち込み、魔術師を一斉に落とす。

だが、援護係は数が多く、私一人では到底、対処出来るとは思えなかった。


(一度、退こう。他の兵士と合流して…っ!?)


引き返そうとしたその時、私の右足が何者かの氷魔法によって固められる。


(大丈夫、足を固められたくらい、飛行魔法なら問題ない…)


一瞬の焦りはあったものの、すぐに気持ちを落ち着かせ、左足を使って飛行魔法を加速させる。自軍の列へと戻り、後列の兵士に話しかける。


「今の状況は!?」

「全員無事です!このまま状況が変わらなければ、問題は無いかと!それより、貴方、その右足は…?」

「敵軍の後列の援護兵に氷魔法を当てられてしまって…ただ問題はありません。すぐに戦闘に復帰します!」


私がもう一度加速し直そうとすると、その兵士に引き止められる。


「待って!僕、炎魔法が使えます。そんなにレベルが高いものじゃないけど、氷を溶かすくらいなら出来ます!」

「分かりました、お願いします!」


私は兵士へと右足を差し出し、氷が熔けていく様を見つめる。

幸い、その氷は3秒ほどで溶けてなくなった。


「ありがとう、この恩はどこかで。」

「そんなの要らないよ。ほら、早く行ってきな!」

「はい!」


兵士に送り出され、再度加速し直し、前線へと戻る。


(他の兵士と一緒に中心部隊を倒しつつ、もう一度、敵軍後列に行こう。)


私は味方兵士を巻き込まぬよう、繊細なコントロールで敵軍兵士を一人ずつ撃ち落としていく。


(集団戦だと、効率が悪い気がしてならない…後列に向かおう。)


この時の私はかなり早とちりをしてしまった。だが、それといって問題はなかった。


もう一度後列へと辿り着いた私は、援護兵を先程と同じ要領で落としていく。

10秒ほど経った頃、気づけば敵軍の援護兵は居なくなっていた。


(よし、これで後は中心部隊だけ…)


既に中心部隊には10人ほどしか残っておらず、私が手を貸すまでもなく戦闘は終わった。

我が軍の慈悲で、敵軍の兵士は一人も死亡者は居なかった。ただ、このまま争っても意味が無いと思ったのか、そのまま自国へと逃げ去っていった。


「兵士たちよ!列をなせ!」

『は!!』


隊長の声が響き渡り、兵士たちが本部前へと集合する。


「今回は敵軍兵士も少なく、すぐに追い返すことに成功した!だが、敵国は更に大きな作戦を練っていると思われる!より一層訓練に励み、どんな状況においても対応できるように準備しておけ!」

『は!!』

「よし、本日は解散!」


兵士たちは一斉に列を崩し、寮へと帰っていく。すると、エルドからの避難者とみられる人達が門からぞろぞろと入ってくる。

すると、キュルネが口を開く。


「フルミネ、あれ…」

「ん?…あ」

「「お母さん…?」」


次回 再会


----第八話 終----

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