1ミリも知らないゲームのラスボスに転生した最強の傭兵。圧倒的な力を使って、最高の癒し空間である猫カフェを作るために全力を尽くす。魔王城じゃないから勇者は帰れ!
第9話 結婚したら領地が付いてきたので、猫カフェ建設に一歩前進しました!
第9話 結婚したら領地が付いてきたので、猫カフェ建設に一歩前進しました!
晩餐会が終わった後、シャティアが部屋で寛いでいると、扉がノックされた。
「シャティア様。ユーリカです」
「はい、どうぞ」
「失礼いたします」
ユーリカが部屋に入ってきて、シャティアが寛いでいる向かい側のソファに腰かけた。シャティアがポットから紅茶を注いで、彼女に差し出す。
「あ、ありがとうございます。先ほどはお見苦しいところをお見せしてしまいまして……」
「そんなことはどうでもいい。それより、なんで結婚することになったんだ?」
「シャティア様は気付いていないかもしれませんが、魔力が尋常じゃないんですよ」
「うーん、確かに身体能力は高いとは思ったけど、魔力?」
シャティアは腕を組んで首をかしげる。前世では魔力とか魔法といったものがないせいもあって、いまいちピンとこない。
「あの時、私のアドバイスだけで魔法を使ったじゃないですか。あんなことシャティア様くらい魔力がないとできないんですよ」
「えぇ、でもボスも魔法使っていたじゃない」
「この世界の法則に従った魔法は簡単なんです。六大精霊に由来するものが有名ですが。でも、シャティア様が使ったのは、この世界の法則に従っていない魔法。しかも実体化させていましたよね?」
ユーリカのアドバイスで使った閃光手榴弾の魔法。たしかに前世の法則によるもの。それに実体化もしていたのは、使ったシャティアにははっきりとわかる。
「たしかに、どちらかというと異世界の武器を召喚したような感じになるのか?」
「いえ、使用後の残骸がなかったので、魔力で構築されていました」
「なるほど……。ごり押しできるだけの魔力があった。そういうことか?」
「はい。それで、エルフは精霊の血を引いている影響で、高い魔力に惹かれやすいのです」
その言葉の意味を理解したシャティアが顔面蒼白になる。
「それって、もしかして……。他のエルフにも?」
「はい、シャティア様ならエルフにモテモテですよ。でも、下手すると襲われて、子供を作らされるかもしれません。もちろん犯罪ではあるんですけどね」
「でも、男性って少ないんじゃなかったっけ?」
「そうですね。そもそも男性は、そこまで凶暴ではないので……。やばいのは女性の方です」
「マジかよ……」
にわかに信じがたい話だったが、よくよく考えてみれば、ユーリカも大概だったことに気付く。
「むむむ……。何か失礼なことを考えてますよね?」
「あ、いや、そんなことは……」
「まあいいです。私も結構強引でしたからね。そういうこともあって、早々に自分のモノ――じゃなくて、結婚して既成事実――じゃなくて、王族に組み込んでおきたかったのです」
ちょくちょく本音が漏れるユーリカの言葉を笑顔でスルーしながら、続きをうながす。
「もちろん、メリットもありますよ。いくら魔力が高くて魅力的だと言っても、王族にはさすがに強引には手を出しません。誘惑はされると思いますが」
「なるほど、身の安全のためか……」
「もちろん、それだけじゃありません。私と結婚すると領地が手に入ります」
「領地かぁ。めんどくさそうなんだけど……」
気だるげな反応にユーリカも一瞬だけ怯むが、シャティアをキッと見据えて、ゆっくりと口を開く。
「この領地は、私が一から作っていく予定でした。もし、私と結婚すれば、シャティア様が自由に領地を作っていけるんです。もちろん、猫カフェを作るのも自由です!」
「ね、猫カフェ?!」
「ええ、いっそのこと、領主の城を猫カフェにしてしまいましょう!」
「ま、マジか。そんなことが許されるのか……」
ユーリカの提案にシャティアの両手が震える。夢への大きな一歩を提示されては、シャティアも前向きに検討せざるを得ない。
「わ、わかった。結婚を認める。だが、猫カフェは絶対だからな!」
「ワウンワウン!(これ以上、犠牲者を増やすんじゃねえぞ!)」
「当たり前だろ。お前は猫カフェのスタッフ一号だからな!」
「ワオンワウン?!(勝手に決めるなよ! っていうか、俺は猫じゃねえぞ?!)」
相変わらずかみ合わないシャティアとシャドウの会話に、ユーリカも苦笑いを浮かべている。
「結婚式の日取りは最短の日程でやりましょう。と言っても一週間以内ってことはないでしょうし、その間に領地の下見でもしておきますか?」
「いいな。よし、さっそく明日から下見に行こうか。それと、もう一つ。俺の話がエルフの光になるって、どういう意味だ?」
シャティアの質問にユーリカが戸惑いまじりに視線を逸らす。そして、大きく深呼吸をしてから顔を近づける。
「これは、国家機密なんですが……」
「国家機密?! そんなこと話していいのか?」
国家機密という言葉に、シャティアは警戒心をあらわにする。だが、ユーリカはニッコリと微笑みながら話を続ける。
「はい、シャティア様はすぐに王族になられますから……。それで、先ほど我が国では女性同士も結婚が認められていると申しましたよね?」
「ああ、女性の方が多いという問題を解決するために、だろ?」
「はい、その結果、男性が結婚できなくなる。という問題が発生したのです」
「でも、国王は結婚しているじゃないか」
シャティアの指摘に、ユーリカは悲しそうに首を振る。
「父は、王族の権威を使って、強引に結婚したんです。何しろ父以外の跡継ぎがいませんでしたから。ですが、権威を使えないような男性は……」
「マジかよ。それじゃあ、エルフの国は両親が女という家ばかりなのか?」
「はい、さらには子供も女が多いですから。三代女だけという家も珍しくありません」
シャティアはエルフの国の現実を聞いて唖然とするが、ふと、あることに気付いて首を傾げる。
「でも、それと俺の話がどう関係するんだ?」
「はい、今は両親の一方が女性である必要があるんです。魔法で子供を作れると言っても、女性にしか作れませんから……。ですが、シャティア様の叡智によって、男性同士の結婚が可能になるんです!」
「どういうことだよ! 男は魔法を使っても子供を作れないんだろ?」
ユーリカの飛躍した理論は、シャティアの理解を大きく飛び越えていた。それをよそに彼女は自信満々に話を続ける。
「ええ、今のところは、です。しかし叡智によれば、男性同士でも出産は可能なはずなんです!」
「よく意味がわからないんだけど。男が出産するような話ってしたっけ?」
「はい、受けの男性が『孕んじゃうぅぅぅぅ!』って叫んでいたじゃないですか」
たしかに、そういうセリフはあった。だが、それはユーリカの考えているような意味ではない。だが、いまさら違うとも言えないシャティアは一度大きく深呼吸すると、ユーリカの肩を掴んだ。
「まあ、頑張れ……」
無駄だとは思うが、確率が0%でないなら可能性はあるだろう。シャティアは、未来の魔法の可能性に全てを託すことにした。
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