1ミリも知らないゲームのラスボスに転生した最強の傭兵。圧倒的な力を使って、最高の癒し空間である猫カフェを作るために全力を尽くす。魔王城じゃないから勇者は帰れ!
第6話 拷問したらエルフの王国に同行することになりました。
第6話 拷問したらエルフの王国に同行することになりました。
「まずは自己紹介からですわね。私はユーリカ・シャイニーウッド。シャイニーウッド大森林王国の第三王女ですわ」
ユーリカは微笑みながら挨拶をする。高貴な身分に相応しい整ったお辞儀だ。
「俺は、シャティアだ。こんな格好で悪いな……」
「気にしないでくださいませ。シャティア様は私たちの命の恩人なのですから」
「姫様! なぜ、こんな奴らを気にかけるのですか!」
護衛が苦言を呈すると、先ほどまで柔和に微笑んでいた彼女の表情がわずかに歪む。
「そんなこと言っている暇があったら、そこに倒れている男たちを縛り上げてきなさい」
その声は、先ほどの鈴の鳴るようなきれいな声とは違い、地の底から響いてくるような声だった。それを聞いた護衛たちが竦み上がって散開する。護衛たちを見送って、振り返ると、先ほどまでのことが嘘のような笑顔になっていた。
「見苦しいところをお見せして申し訳ありません。私はたしかに王族ですが、エルフの王族は精霊への祭祀を司る役目があるというだけなのです」
「エルフ?」
「はい、シャイニーウッド大森林の中に国があるのです。普段は『シャイニーウッド』とだけ呼ばれていますわ。私たちは、森全体の守護者でもあるのです」
ユーリカはシャティアにあれやこれやと説明してきたが、理解が追い付かないまま、生き残った盗賊たちを縛り上げた護衛たちが戻ってきた。
「縛り上げて一カ所にまとめておきました!」
「ご苦労様でした。目を覚まし次第、尋問を行います!」
そう言いながら、護衛の一人が鞭をしならせる。
「その鞭は?」
「これは尋問で喋らなかったときに、これで打って吐かせるのです」
「甘すぎるな」
護衛の説明に、シャティアはため息まじりに声を漏らす。
「相手に喋らせるなら、痛みだけを与えるようなやり方は適切じゃない。効果が薄くなるからな。俺に任せておけ。すぐに吐かせてやる」
「な、何を……」
シャティアは残忍な笑みを浮かべると、護衛の持っている鞭をひったくる。いまだ意識の戻らないボスの縄を掴み、うつぶせに寝かせる。
「まだ、意識が……」
「問題ない、すぐに戻るだろ」
そう言いながらズボンを下ろし、鞭の柄を思いっきり突っ込んだ。
「アーーーーッ!」
「ほらな。あとは、こうしてグリグリと動かしていくだけだ。どうだ、吐く気になったか?」
「だぁ、誰がいうがぁ!」
その凄惨な光景に護衛たちは言葉を失う。それとは逆にユーリカはなぜか興味津々で、その光景を見ていた。
「姫様! 姫様はコチラに!」
「いいえ、尋問に立ち会うのも、王族の義務です!」
護衛の一人が、彼女を馬車へ連れ戻そうとするも『王族の義務』を盾に残ることを決意する。その間も拷問は続けられ、ボスの声も悲鳴から嬌声に変わっていく。
「アッ、アッ、アッ……」
ユーリカはともかくとして、シャティアにはアッチの趣味はない。ボスの嬌声を聞いて、耳まで真っ赤にしながら見ているユーリカとは対照的に、シャティアはげんなりとした表情で拷問を続ける。
「とまあ、こんな感じで続けていけば、そのうち吐くでしょう。すみませんけど、どなたか代わっていただけますか?」
「では、俺が……」
手を挙げた護衛と交代し、ユーリカの手を引いて馬車へと向かおうとする。
「私は王族として――」
「それより、もっと面白い話をしよう!」
予想通り、「王族として――」と断ろうとするユーリカに、シャティアは耳打ちをする。
「それで、どんな話を……」
「こことは別の世界。異世界とでも言ったらいいのかな? そこで語られるエッチな話なんだけど――」
マジメな表情のユーリカに圧倒されながらも、シャティアはBL、いわゆる男同士が愛し合うような話を始めた。
「あのぉ、尋問終わりました……」
申し訳なさそうに口を開く護衛の様子にシャティアは気まずそうな雰囲気になる。一方、さすが王族というべきか、冷静沈着な面持ちで口を開く。この辺りの切り替えを瞬時に行えることが、彼女が王族たるゆえんなのだろう。
「それで、首尾はどうでしたか?」
「はっ、どうやら彼らはただの盗賊ではなく、グランディールの差し金で我々を狙ったようです。姫様を誘拐して奴隷にするつもりだったようで……」
「奴隷?! くそ、グランディールめ。奴隷解放の交渉をした直後に私たちを奴隷にしようというのか……」
奴隷、という言葉を聞いたユーリカはまなじりを吊り上げ、歯ぎしりする。彼女は先ほどまでグランディール王国でエルフの奴隷解放についての交渉をしてきたところだ。それを反故にするようなことをしてきたのだから、彼女が怒るのも当然だ。
「それを言ったら、俺も奴隷だったんだがな」
「そんな、シャティア様まで……。これは一刻も早く戻って対策を立てなければなりませんわ」
シャティアも奴隷であったことを聞いて、ユーリカは危機感を強く持ったようで、善は急げとばかりに指示を出す。一気に周囲が慌ただしくなってきたところで、シャティアは頃合いと見て彼女に切り出す。
「それじゃあ、俺はここでお別れだな」
「わうん?(一緒に行けばいいじゃないか?)」
「せっかくですし、シャティア様も一緒に参りましょう」
そんなシャティアの言葉を聞いたユーリカは、一緒に行くことを提案する。だが、その提案に彼女は浮かない表情になった。
「その提案は正直ありがたいのだが、俺にはやらなきゃいけないことがある。それに、シャドウもお別れを言っていたじゃないか」
その言葉にユーリカは首を傾げる。唇に手を当てながら、慎重に言葉を紡いでいく。
「うーん? シャドウって、この犬ですよね? 別に一緒に行けばいいと言っていましたけど……?」
「なんだと、本当か? おい、シャドウ。さっきは『残念だがお別れだな』って言ったんだよな?」
「ワウンワウン!(全然違うぞ! というか、お前まともに意思が通じたことないじゃねえか!)」
「えっと……。全然違う、意思が通じたことはない。そう言ってるように思いますが……」
ユーリカの言葉に、シャティアの表情が抜け落ちる。なぜなら、彼女とシャドウは完全に意思疎通ができていると思い込んでいたからだ。意気消沈するシャティアの肩に、ユーリカが手を乗せる。
「シャドウのためにも、ぜひ私と一緒に行きましょう。そうすれば少しは思いを通わせられるかもしれません」
「ワウンワウン!(そうだそうだ! 俺もそっちの方が断然いいぜ!)」
「ほらシャドウも、こう言ってますし……」
「わからねえ、わからねえよ……。こう言ってる、って言われてもな……。わかったよ、シャドウもユーリカも……。そう言うなら、俺も一緒に行くよ……」
意気消沈したシャティアが復活したのは、シャドウがイヤイヤながらモフられた後だった。
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