第18話 裁きの雷電 洛陽を絶つ
「生み出すは
俺は
魔力のみで
例えるなら、
その点、こうして属性を保持できる物体を使うと、問題点は解決される。
マッチ棒の例えを続けるなら、マッチで起こした火をアルコールや油に浸した布に移すといった感じだろう。
だから魔力が必要なのも点火時だけ、後は魔力ではなく、実際の事象としてしばらく残り続ける。
今回はそれを結構な
(……赤字確定の出血大サービスだ! ちゃんと効果あってくれよ!!)
「――行くぞ!」
「コロスコロスコロスッ!!!」
稲妻を纏った刀と暗黒を纏った巨剣がかち合う。
相手の剣は、魔力によって物理的に形成した黒紫の刃で、折れた箇所を補うどころか、むしろ刃渡りを大きく増している。
一方、こちらは電気を纏っているだけ。
直接、肌に、鎧に接しなければカッコいいだけの飾りでしかない。
(――だけど、カッコいいのは大事だよなぁっ!!)
爆上がったテンションと勢いで騎士ゴブリンとのつばぜり合いを制し、巨剣を弾いて一太刀浴びせる。
鎧は貫けないものの、刀に纏った稲妻が鎧を通して騎士ゴブリンを感電させた。
「グアァァァァァ!?!? カ、カラダガ、シビレル!?!? ナ、ナゼ、マホウガトオル!?」
俺はその疑問には答えず淡々と
「――遅い!」
体に回る毒と電流によって次第に動きが緩慢となっていく騎士ゴブリンへ俺は追撃を重ねていいく。
最初の方は何回か大盾で防いできた騎士ゴブリンも、何度も体を内側から稲妻で焼かれ、もはや大盾を振るう余裕はなく、大盾は体をかろうじて支える杖と化していた。
「……ハァ……ハァ……ク、クソガ! イイカゲン……キエロォォォォォォッ!!!!」
息も絶え絶えに大きく振り下ろされた巨剣が、既に俺の居ない地面を空しく斬りつけた
直前に軽く
「――――シマッ――!!!!!」
騎士ゴブリンが、タと口にした時には、俺はもう、その肩にまで登り切っていた。
「お前は後だ」
俺は騎士ゴブリンの右肩をジャンプ台にして大きく跳躍した。
「ユーナ、さっきの借りは返すぞ」
俺は、近くでユーナと戦闘中の戦士ゴブリンの肩に背後から飛び乗ると、振り落とされるより先に戦士ゴブリンの右目に刀を突き刺した。
「――――グァァァァァァッ!?!?1? メガ、オレノ、メガァァァァァァ!!!!!――」
左手で眼を押さえて絶叫をあげる戦士ゴブリン。
噴き出していた深緑の鮮血は、刀身が纏う纏う雷が、傷口どころか眼球、視神経ごと焼いたようで、絶叫と違いすぐ止んだ。
「ヨクモォォォッ!!!! ヨクモ、オレノ、メォォォッ!!!! イマスグ、コロシテヤ――」
「その大っきな斧、貰うね!」
戦士ゴブリンが右目を失い死角となった空間を通り、ユーナは怒りと激痛で注意力が散漫となっていた戦士ゴブリンの隙を突き、両刃の大斧の柄を掴んで、――
「私にピッタリだと思ってたんだよねー。 だって、これ丈夫そうじゃない?」
三メートル以上の
「…………街には到底持ち込めないその大きさに目を瞑ればお似合いかもな」
「そっかー、残念。 ならここで使い切っちゃおうかな」
(俺がこう言わなかったら、誰がどう考えても持ち運びに適さないと分かる馬鹿デカさなのに、ユーナは本気で街の中まで持って帰るつもりだったのか…………?
――いや、そもそもユーナはもうすぐスタミナ切れでぶっ倒れるから持ち運ぶの俺になるじゃん。 無理無理、そもそも持って帰れません)
でもでも、勿体ないなー、と言わんばかりのユーナの表情と視線に、俺は首を横に振る。
ユーナがはぁ……と、ため息をついたタイミングで怒鳴り声が響く。
「オレノォ! オノヲォ! カエセェェェェェェーーーッ!!!!!」
「どうせ盗んだものでしょ、これ? ちゃんと了承を得て貰ったわけでも、買ったわけでも、自分で作ったわけでも無さそうだし、責められる立場じゃないんじゃない?」
「――――ウルサイ!! ダマレェェェェェーーッ!!!!」
「もうっ、うるさいのはそっちでしょ!」
ユーナはもう怒ったんだから! と、ぷんぷんと形容されそうなその可愛らしい怒り方とは裏腹に、三メートルを越える大斧を片手でブンブンとぶん回し、掴みかからんとした戦士ゴブリンの両腕を華麗に切断してみせた。
「――ギヤァァァ――――――」
「――はい、これでやっと静かになった」
どさり、と地面に切断された戦士ゴブリンの
「ユーナ、それ……」
メキッ、という音に引かれ、俺は視線を移すと、ユーナが握る大斧の刃に入っている大きな亀裂を目撃した。
「うーん……後一振りくらいは何とかなったり――あっ…………!?」
「…………駄目みたいだな」
俺達の目の前で、亀裂がみるみる斧全体にまで広がると、大斧は力尽きように砕け散った。 ……南無三。
「はぁ……私が思いっきり振っても壊れない武器……どこかにないかなぁ……」
「俺も一緒に探すよ。 だから元気出してくれ」
軽いため息を零すユーナに声を掛けてから、俺は残していた
「コロスのならバ……ハヤク殺せ……オレではキサマラに勝てん……」
確実に仕留められるタイミングで見逃され、戦士ゴブリンもあっさりと殺されて心が折れてしまったようだ。
(心は偽物でも、プライドは本物だった……ということかもしれないな……)
油断を誘っての不意打ちの可能性も考慮しながら、俺は正座のような体勢で項垂れる騎士ゴブリンへ近付いた。
「その前に聞きたいことがある}
「…………なンだ?」
「ゾルバを殺したのは誰だ? お前じゃないだろ」
ゾルバはBランク冒険者。
それに鉄壁の二つ名まで持つ優秀な冒険者だ。
たとえ毒を盛られようとゴブリンに遅れを取るような実力じゃない。
だというのに、Dランクの俺でも倒せる相手、しかもゾルバを喰う前の弱い状態で倒したとは、俺には到底思えなかった。
「イキタままクッタから……コロシタのはオレダ……」
「…………俺の聞き方が悪かったな。 誰がお前にゾルバを渡した?
……いや、こう聞いた方が良いか。 ――ゾルバは誰に負けた?」
俺は騎士ゴブリンの眼を見て真剣に聞いた。
数秒の間が経って、騎士ゴブリンが重い口を開く。
「オレヲ、エランデ、クレタノハ、オウ、ダ…………。
ダが……俺を、仲間を……死に追いやったのは…………――――魔女だ!
あの紫紺の眼をした狂った女がダンジョン内で俺達を嵌めたんだッ!!」
嘘ではないのだろう。
後悔を思い超しているようなその瞳が、無念に打ち震えるようなその声が、まるで殺された本人が今だけ乗り移ったが如く、魂すら揺らしそうな叫びで罪人を告発しているのだから。
(……にしても、魔女かー…………出来れば悪い魔女とは関わり合いになりたくないな……)
魔女とは魔素と完全に適応した生物のことを指す。
ただ、悉くヒトの女性の姿をしているため、その定義を知る人は少ない。
魔女は膨大な魔力をその身に有すだけでなく、周囲の魔素すら意のままに操り、その果てしない魔力を用いて、森羅万象を揺るがす大魔法を使える。
しかも、その尋常ならざる超常の魔法を思い描くだけで意図も簡単に行使してしまう。
まさに究極の魔法使い。
更に、魔女は不老不死らしい。
そんな相手と事を構えても損しかしないだろう。
(……魔女に見えただけってという例え話の可能性もゼロではないけど……ただでさえ状態異常に耐性の高いタンクジョブ、しかもその中で一番高いとされるジョブが騎士だ。
そのジョブ持ち高ランク冒険者に効く毒なんてよっぽどだし、それを用意して対象を捕らえるなんて、それこそ魔女と言われた方が納得する……。
……これは帰ったらギルドに報告しないとな)
「……話は分かった。 ギルドに報告しておく。 後、俺の方でも調べ――」
「見つけたら私がとっ捕まえて、ソルッパさんのお墓の前で謝らせるよ。 約束!」
俺の話に割り込み勝手に約束してしまう女神様。
だけど、その優しい目を見たら異を唱える気になんてなりようがない。
「…………だ、そうだ。 でも、見つかったら、だからな! ……その代わり、事の顛末の報告と注意喚起はしっかりすると約束するよ……アンタの思い……俺がちゃんと伝えるから」
「――ありがとう……。 これで……少し……眠れるよ……。 後……そこの太陽のような|お嬢さん……俺の……名前は……ゾルバだy……――――」
最後まで言い終えることなく安らかな表情で鉄壁のゾルバは穏やかに目を閉じた。
――しかし、
「――イイキニ、ナルナ、エサゴトキ、ガ! イマスグ、オマエヲ、コロ……シ……テ――――」
今にも立ち上がり俺に襲いかからんと怨嗟の声を漏らすゴブリンだったが、その声も動作もすぐに止んだ。
「…………
――俺が一息で刎ねたゴブリンの首が地面へ落ちる。
「…………私がやっても良かったんだよ……?」
俺が少しばかり俯いていると心配そうな口調でユーナが言葉をかけてきた。
俺はふぅーと一度大きく息を吐くと、顔をあげてユーナの顔を見る。
「そんなかっこ悪いことしないって。 これは俺がやると決めたことだ」
(見透かされちゃったか……人では無く魔物だと言っても、思っても……人の言葉を話す相手を殺すのはどうもな……)
もちろん、経験が無い訳ではない。
どうしようもない状況で、どうしようもない悪党を、――
この世界では当たり前で……むしろ褒められることであっても……気持ちの良いものではない。
(そのうえ脳喰らい……だもんな……。 違いはあるが……どうも転生前の地獄を思い出しちまう……つくづく嫌な相手だ。
――だが、だからこそここであのゴブリン共の蛮行を終わりにする!)
俺は決意を新たに、既に遠ざかろうとしている
「――頼りの二体がやられて怖くなったのか? 部下と違って臆病なんだな!」
「そーだそーだ! 卑怯者ー! 悔しかったらここまで来ーい!」
ユーナが挑発に加勢してくれたお陰か、神輿玉座ごと背を向けていたゴブリンが、こちらを振り返り、こめかみをピキピキと筋立てて抗議を始めた。
「――――ムギギギーッ!! コレハ、センリャク、テキ、ヘンタイ、トイウ、ヤツダ!!
クサッタニク、ドモ、ニハ、ワカルマイッ!!」
どこで知ったのかは知らないが、あのゴブリンはどうやらダサい覚え間違いをしているらしい。
「戦略的撤退じゃなくて戦略的変態かー、それはお前にピッタリかもなー。 いや、たかだか二人相手に負けて逃げてるようじゃ、戦略的とも言えないなー。 それだと只の変態かー?」
ピキっと、ゴブリンのこめかみの皺がより深くなった。
「トーヤ、それだと街行く変態さんに失礼だよ。 あんなのと比べられることすら駄目だと思う!」
ピキピキっと、更にゴブリンのこめかみに皺が増えた。
「そうだな! それは俺が間違っていた!
すまーん、変態と比べることすらおこがましい奴ー」
メキメキと、ゴブリンは額全体に青筋を立て始めた。
「これだけ言ってもお尻振って逃げるんだー。 根性無しー! バカー! アホー! お間抜けー! 後えっと……うんちー!」
ガリガリと歯ぎしりをして耐えていたゴブリンだったが、うんちと罵られた瞬間――。
「――ギギィーーーッ!!!! ダレガ、ウンチダ!!!! イマスグ、ココデ、ブッコロシテ、ヤルッ!!!!」
(……ブチ切れる所、そこなんだな)
本来は緑の顔を真っ赤に染め、
(こんな安い挑発に乗ってくれて実に助かるぜ。
……ここで万が一にでも取り逃がし、雲隠れされるわけにはいかないからな……
ここで逃げる方針を取られると厄介極まりなかった)
だがしかし、糞王は逃げる選択より今すぐ俺達をぶっ殺すという選択を選んだ。
(後悔させてやるぜ、その選択を!!)
「ユーナ、あと何秒やれそうだ?」
「20秒!」
「それだけあれば十分だ! ここぞというタイミングまでなるべく温存しておいてくれ」
「うん! まっかせて!」
「――行くぞクソッタレな王様! お前の天下もここまでだ!!」
「――ヤツラ、ヲォッ!! コロセェェェェェッ――――!!!!」
そうやって怒り心頭の
俺達はそんな群がるゴブリン軍勢をかき分け糞王の元へ駆けるのだった――――。
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