第6話 ゴブリンカーニバル
「あーもう、キリが無いッ!! どんだけ湧いてくるんだよ! それに
側面から斬りかかってくるゴブリンの剣を弾き、3方向から同時に飛んでくる矢をしゃがんで避け、周囲を囲むゴブリンを足払いで転ばし、倒れたゴブリンの首をすかさず貫く。
そんな流れるような動作でゴブリン達を次々に仕留めていくが、全く、これっぽっちも、終わりが見えてこない。
なんせ、どこを見渡してもゴブリンゴブリンゴブリン。 さっきからユーナ達と離れすぎないように退き気味に戦っているのだが、倒しても倒しても何処からともなくおかわりがやってくる。
(まさにゴブリンのバーゲンセールだ。 もう……むさ苦しくて吐きそう……おぇ)
しかも殆どがハイゴブリンでジョブ持ちの完全武装と来たもんだ。
ジョブとは本来、その分野における卓越した戦闘技術を持つ者が就く役職であり、またその者の実力を証明する肩書きでもある。
一般的には、それぞれの
漂う風格というか気配の質がジョブ持ちか、そうでないかでまるで違うのだ。
だから歪で不完全であろうとコイツらの多くがジョブ持ちだとすぐに分かった。
それにゴブリンの上位種やリザードマンなどの人に近い魔物が希にジョブを持っているというのも知識として知っていたしな。 実際に遭遇したのは初めてだが。
(一箇所にこんなに大勢居るなんて聞いたことないけどな! っと)
伸びてきた槍先を寸前で体を反らして避け、ガラ空きとなった喉笛を刃を通す。
直後に吹き上げる血しぶきが相手の絶命を告げていた。
それにしても、
ただ、
(今のところ、一撃必殺の要領で戦えてるけど、相手にヒーラーが居る居ないで打てる手や余裕が雲泥の差になるからな。 それに……)
――強くはあるが、思った程では無い。
現に俺が知る本職のジョブ持ちの方々と比べると遙かに拙い練度、連携のお陰で俺一人でも対応出来ている。
これが冒険者の先輩方と同程度の実力を持っていたら俺なんてとっくに死んでるだろう。
(まあそれでも油断したら即殺されるくらいには強いんだよなー。 動きは人のそれだから、ゴブリンというより小人族やドワーフと戦ってる気分になる。 いや、ドワーフは無いな。 あの人達、腕力えげつないし)
こんなのが大勢で束になってかかってくるのだからフラン達駆け出し冒険者パーティが負けたのも無理もない。
「チッ!! しつこい! どんだけ背後狙ってくるんだよ! そんなに俺の背中がカッコよくて妬ましいか?」
俺は左手のダガーを逆手に持ち替え、後ろに振るって暗殺者ゴブリンの喉元に刃を突き立て、背後の攻撃を未然に防いだ。
(ああもう、さっきから事ある毎に不意打ちを仕掛けられて一瞬たりとも気が休まらない。 しんどい!)
まあそれはやたらと暗殺者のジョブ持ちが多いのだから当然かもしれないが……ん? いやいやいや、ここまで明らかに暗殺者のジョブ持ちに偏ってるのは変だ。
そもそも暗殺者は人気ジョブではない。
むしろ、今でこそ冒険者のジョブの一つとして大々的に認められているが、犯罪者のジョブという昔からのイメージが未だに尾を引いて不人気である。 適正が高くて止むなく選ぶならまだしも、好きで選ぶのは物好きか無法者くらいと言われているくらいのジョブである。
(だとすると……この場所は……!?)
脳喰らい、ハイゴブリン、やけに多いジョブ持ちとやたら多い暗殺者……。
巡る思考が情報をつなぎ合わせ、俺はある仮説に辿り着いた。
「どうやったのかは知らないが、――お前達、ここに住んでた山賊、喰ったな?」
肯定、とばかりにゴブリン達の耳障りな笑い声が辺り一帯に鳴り響く。
「道理で動きも装備も良いわけだ」
俺がこの仮説に至った根拠はもう一つある。
この洞窟、自然に出来た物に人の手が加えられ、無骨ながらも度々整備がされていた痕跡がある。
フラン達が捕まっていた独房もそうだが、いくらハイゴブリンとはいえどそこまでちゃんとした巣作りをするとは到底思えない。
となると、元から在った場所を奪って再利用したと考えるのが自然。
また、それはゴブリン達の潤沢な装備の数々を見ても明らかだ。 金属加工の技術を持たないゴブリンがあれだけ多くの金属製の武器を持っているのはおかしい。 まず間違いなく盗品。 此処をアジトにしていた山賊から奪ったものだろう。
(そういえば聞いた事があったな。 ……たしか
半年ほど前、隣国で散々暴れて本格的に討伐されそうになり、ここいらに流れてきた傭兵崩れの山賊の一団がそう呼ばれ噂になっていた覚えがある。
最初はそれなりに大きな騒ぎとなって冒険者ギルドが高額の討伐依頼を発行。
その金額を前に血眼になった冒険者達が散々探し回ったものの見つけられず、また、被害も依頼発行以降は皆無にだったこともあって、冒険者を恐れて逃げ出したと噂が立ち、騒動が徐々に収まり、そのまま放置されていた……はず。
さりとてこの状況を見るに、逃げ出したのではなくゴブリンにやられたんだろうな。
だがそうなると更に、ゴブリン達がどうやって有名な山賊の一団を壊滅させたのかという疑問が湧いてくる。
(――まさかこのハイゴブリン達より上位の魔物が居るのか?)
ソイツがこのゴブリン達の親玉だとしたら厄介だ。
相手にどれだけの知性や強さがあるのか分からない以上、このまま一人で戦い続けて消耗するのは避けたい。
「そんなわけで、そろそろお暇したいんだけど……さて、どうしよう?」
それに今頃はユーナ達が洞窟の外に出た頃合いだ。
離脱するタイミングとしては今がベストだろう。
「うーん、この熱烈歓迎具合。 ったく、ゴブリンにモテてもしょうがないんだけど、なッ!」
俺の顔目掛けて振り下ろされた剣を片手のダガーで受け止め、もう一方の手で逆にゴブリンの顔を切り裂く。
武器を落とし、自らの顔を両手で押さえるゴブリンの脳天をすかさず刃で穿った。
俺は息つく暇無く襲いかかってくるゴブリンを返し刀で相手し続けた。
――そうやって全身をフルに使い戦い続けること五分。 ゴブリン達に動揺と焦りの色が見え始めてきた。 今はもう初めより相当血走った目で俺を睨んでいる。
逃げる隙なぞ与えるものかと鬼の形相で絶え間なく襲いかかってくるもんだから、とても困っている。
どうやら、どうあっても俺を逃がすつもりはないらしい。
ゴブリン達の猛攻は俺をここで仕留めようとどんどん苛烈になり、同士討ちも厭わない乱暴な攻撃も増えてきた。
――よし、搦め手を使うなら今が最適だ。
「ここらでパーティはお開きだ。 求めるは閃光、生み出すは光。 ――輝け、
俺は右手を上に掲げて魔法を行使した。
それは強い光を発するだけの魔法。 攻撃力は微塵も無いが、されどしばしの目潰しにはなる。
そのうえココは暗がり、急に目映い閃光に晒されれば普段以上に効果覿面になるのも道理だろう。
なんせ魔法を撃つ瞬間に目を閉じた俺ですら眩しかったくらいだからな。
「生憎と逃げるのだけは昔から得意なんでな。 では、さらばだ諸君!」
両目を押さえて苦しみ、その場で身動きの取れないゴブリン達。
俺はそんなヤツらに対して、身体強化によって某有名な赤いオーバーオールの配管工並みに増強された跳躍力を活かし、ヤツらの頭部を足場として踏みつけながらひょいひょいと跳び移っていく。
そうして俺はアスレチック感覚で分厚い包囲網を抜けてみせた。
――そこから歩いて幾ばくか。 俺は足を止めざるをえなかった。
「もう出口は目の前なんだけどな……」
まっすぐの一本道の先、外から陽の光が差し込み輝いて見える。
故に、ここ通り抜ければ長い洞窟から外に出られるのは一目瞭然。
さりとてこの先を容易く通るに能わず!
あそこで大柄な門番が仁王立ちで道を塞いでいる。
逆光のせいでまだその姿はハッキリとは視認出来ていないが、まるで仁王像のようなマッシブで筋肉質な肉体を持っている事は遠目からでも見て取れた。
(あれはオークか……?)
…………オークにしてはマッチョ過ぎるような……顔のシルエットもごこか違う気もするけど……。
「――は?」
ハッキリ見える距離まで近付くと、その正体を見て俺は気付けば間の抜けた声を漏らしていた。
だってそうだろう? あれは反則だ。 見たことが無い。
しかしながら、共通する多くの特徴からして目の前の魔物の正体は――。
「こ、これが
体長二メートル越え、ボディビルダーのように鍛え抜かれた緑色の筋肉がテラテラと光沢を放っている。 ああ、あれはマッチョだ。 マッスルだ。
「ま、お前が何であれ、簡単には通してくれないんだろうな」
大きさと筋肉だけじゃない。 滲み出ている覇気がさっきまでのゴブリンとはまるで違う。
俺は威圧的にポージングを決めるムッキムキなゴブリンに強者の風格を感じ、静かに武器を握り直した。
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