お腹がすいたら帰ろうね
野鴨 なえこ
前編
雲一つない寒空の下、一人の男が横断歩道の前で佇んでいた。遠くの山や田畑には、どっさりと雪が積もっている。歩道はかろうじて、人が通りそうなところだけは除雪されている。
「帰れねぇ……」
洋平は自らの住む市の中央から、市の端の方の山間部に近いところまで来ていた。知り合いから、雪掻きを手伝ってほしいと呼ばれたのだ。せっかくの休日ではあったが、洋平は二つ返事で引き受けた。
知り合いの家の近くには、彼の友人である
知り合いの家から報酬の暖かい缶コーヒーを貰い、洋平は山瀬家へ帰る。山瀬家は寺をやっているため、慣れない土地でもわかりやすい。洋平は滑らないようにゆっくり歩きながら、人の少ない歩道を歩いていた。空は突き抜けるように、淡く、透き通った青色をしている。
缶コーヒーで手を温めながら、洋平は何の変哲もない横断歩道に差し掛かった。ここを渡った向こうを、道なりに歩けば山瀬家に付く。
歩行者用信号機の青が点滅した。それを確認して、洋平は何も考えずに立ち止まった。スマホを起動しメッセージアプリを開いて、連絡を確認する。ちらりと信号を見て、まだ赤信号であることを確認し、またスマホに目を落とす。メッセージの確認が終わったら、次はニュースアプリを開く。洋平の指がすいすいと動き、それに合わせてニュースが流れていく。
洋平はまた信号を見る。
「……ん?」
歩行者用信号機の灯りが消えていた。
洋平の頭は瞬時に切り替わった。自動車側の信号が点灯しているのを確認。その後周りを見渡して、停電で騒いでいる様子がないことも確認した。歩行者用の信号機だけなのかもしれない、と結論付け、上司に連絡を入れようとする。
それと同時に、もうひとつ山瀬家に近い方の横断歩道を目指した。歩きながら、メッセージアプリに連絡を入れようとする。しかし。
「圏外……?おかしいな」
先ほどまでは入っていた電波がない。メッセージアプリは、もちろん開かなくなっている。試しに電話を掛けるも、やはり繋がらない。
洋平は歩きながら考えた。信号機の故障、停電、気象の条件により電波が入らない。スマホの故障もあり得る。それか、科学的に証明のできない「何か」のせいか。
山瀬家の寺が遠くに見え始めた。歩行者用信号機が赤から青に変わるところを見て、洋平は無意識のうちに走っていた。
先程変わったばかりにも関わらず、洋平が近づくとまた青い灯りが点滅し始めた。彼は信号が変わるのを待つ。見逃さないように、信号をじっと確認して待つ。しかし、待てども待てども信号は変わらない。空は青く、風もない。気持ちの悪いほどの晴天と、それに相反するような厳しい寒さがそこにはある。そうして、先程のような状況になってしまった。
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