転移と鎖と召喚と

閃光のヒジ

第1話


関西地方の雑多な街並みを足取り軽やかに

どこにでも居そうな三十代後半の男が歩いてる。

くたびれた暖簾をくぐると十人入る程度の立ち飲み屋に男の声が響く


「ちわー、おっちゃーん取り敢えずビールよろしくぅー」

 

店の中には、まばらに人が入ってる

席に陣取ると隣にはくたびれたおっさんがチビチビ酒を飲んでる。


まぁ……俺もおっさんなのだが。


「へい!おまち!」


目の前に出されたビールに口をつけ適当につまみを注文し横のおっさんに


「どう? 儲かってる?」


標準装備で備わってる知らん人にもすぐに声かけるが発動する。


「んーまぁボチボチやなぁー」


テンプレ返答を右耳から左耳に通過させ軽く相槌うちながら、ビール、グビーなのだ。

興味無いなら聞かなきゃ良いじゃん、みたいな風に思われがちだが、これは自分の話しをしたいが為のジャブ、ボクシングで言う所の牽制なのだ。


「へーそーなんやー」


「そーゆー自分はどーなん?えらいご機嫌な様子やけども」


fish on 爆釣であーる。


「おっ!実はなー今日お馬さんがパカパカがんばって走るやつで儲かってん!」


そう、何を隠そうこの男、手持ちのお金が六倍、三十諭吉まで増えてご機嫌だった。


「ほんまはなー最後まで全ツして大きな夢を買うんじゃい! とかおもーてんけど、なんか嫌な予感したからやめて帰ってきたんよ」


「へー偉いやん」


「引き際って大切やん、ほなマスター! いや?ますたぁー! んーどっちでもええか!皆んなに一杯づつ出したってよ、一杯やで、いっぱいちゃうで! 」


店内大爆笑……言い過ぎた。凍えそうや。


その後一時間ちょっと生産性の欠片もない話しを店内の客として


「ほな、おあいそしてーそろそろ帰るわー

ごっそーさん、またくるわー」


「またきてやー」「おつかれぃ」


知らんおっさん共と別れて、ほろ酔い気分でさらに繁華街の方へ歩みを進めながら、我ふと思ふ。


「さて、可愛いねーちゃんおる店で飲み直すか、はたまたグラマラスなねーちゃんの方に行くか、うーん迷う」


大か小か、顔か体か、うーん。


うぅ……飲み過ぎて、もよおした。コンビニコンビニ。無ーい。


仕方なくビルの間に体を滑り込ませてちょっと進んで地面に目を落とすと、視界の端になんか見える


「んー? なんやこれ。なんぞ赤くてスパークしとるの? 線香花火みたいにパチパチして黒と赤のコラボレーションでんねんってバカ」


見上げてみても


「電線の類が切れても無いし、マジなんなんやろ? 不思議現象か? どー見ても不思議現象やな」


自己完結させたが好奇心が顔を出す。


「ちょっとくらいイケるかな? 靴底ゴムやし、なんかで聞いたけど電気はゴム通さんみたいな。ちょっとダケ……イケるッ! 」


軽く酔った勢いも伴って、恐る恐る靴底で踏んだ瞬間……意識を失った。


目を射す光に意識が覚醒しだして


「うぅ、なんやねん。クサッ! なんでこんなに土の匂いするねん。あぁ、地べたで寝転んでたんか。ん? んん? あれ? 俺、繁華街居ったのになんで森? 林? 割とコンクリートジャングルやとおもってたけど、近場にこんな所あるんか? 」



「ハッ! 財布財布、ある! 中身も、ある! スマホ、ある!

なんや、誰かにドツかれたんかおもーたけど……お金も取られてない、体どこも異常なーし、痛みもなーし。どーゆー事や」


「えぇ……何処ここ。なんか良く見たら木、太ない? こんな太い木あるんか? 大人五人位で、手繋いで一回りみたいな太さやん。メートルで言うと……まぁ太い木やな」


風が吹き抜け木々の枝葉が揺れる音が聞こえる


「見渡す限り木、隙間からビルとかも見えへん。ビル見えへん事なんかあり得へんのやけど、富士山の麓とかか? いや時間的に……スマホスマホ、二十一時過ぎ、取り敢えずおかんに電話や、なんかの異常事態かもしれへんし、圏外やんけ! あかん落ち着いて深呼吸や……メッチャ空気ウマイ! こんだけ緑ばっかりやもんな! いや、そんな場合ちゃう。ほんで、どーみても昼間、

えぇ……マジ何処なんよ」


「なるほど、なるほど、なるほど、よくわからん事がわかった、取り敢えず繁華街っぽくは無いわな。はぁ、どないしよ。はぁ、喉かわいた様な気がするんすけど。自販機無いかな」


「誰やねん、俺にこんな嫌がらせするん、喉潤すために、とっとっと自販機か店探して家帰ろ。現金あるし余裕で帰れるやろーしな。スマホっと、まだ圏外なんかい。バリ四カモン! はぁ……歩くか」


此処に留まって考えていても何かが好転しそうにもないので 重い腰を上げる


「ねぇ。一時間位歩いてるのに景色変わらん、足痛くなってきた。道すら無いとかどんな田舎やねん、人類への挑戦かよ。

インドア派の俺に対する挑戦なんかよ。

文明の匂いに飢えてるんよ。

せめてアスファルト位出てこいや。めちゃ歩きにくいねん、あれかテレビでやってた世界遺産の森かよ、木の根っこみたいなんボコボコ出てて歩きにくいねん」


兎に角グチグチ言いながらも歩を進めてると


「はぁ……あ! 川やん小川やん、大人五人縦に並んだ位の川やん、メートルで言うと、俺の見立てでは、まぁ渡れそうではあるやな。

はぁーすっごい綺麗な川よのぉー、変化の兆しがみえたのはええんやけど、鍋も火もないから煮沸もできんし飲まれへんやん。直で飲んだらあかんでな? イケちゃう? イケるんか! 」


「イヤやめとこ。お腹痛くなったら困るし、つーか川沿い下って行ったら文明に近づくはずや! 我慢しよーっと、川沿い歩いてるんやからヤバくなったらチャレンジしたらええだけやし。いよいよ見えて来たな……文明の光がよ! 努力の甲斐あったわ」


「ふんふーんふふんふーんふふふーん快調快調ゥ、そろそろかなーそろそろかなーイヤー風呂入りたいわ、心の声も出てくるで、ふふふふーん鼻歌にも勢い出てきたな」


「ガサガサ」


ん? 人か? 川向こうから音聞こえたよーな、川沿いどっちも森やけどこんな所に第一村人おるんか?

初っ端は、カマして行かなあかんし先制攻撃の挨拶やな


「こんちゃーす俺やでぇー」


「グォグォ」


「は? 野生の動物? 人ちゃうの? 野生動物とか見た事ないんやけど? 」


「グォォォォン」


「デカッ! 何あれ、え? デカすぎへん?

……熊や。熊おるんかーーい!

あかん、どないせぇゆーねん、イヤ待って、手四本に見えるんやけど。

え……最近の熊って、手四本に増えたん?

そっかー最近動物園とか行く機会も無いしな……って、そんなわけ無くね? 」


あかん、すんごい勢いでこっち突進してきとる。

あ、これ位の川ならすぐ渡れそうですね。

ヤバ、フルダッシュかまして逃げるしか無い!

四十近いおっさんのフルダッシュで逃げ切れるんか。

とにかくダッシュや振り向くんじゃねーぞ。

チラッと後ろ見たらメチャクチャ追っかけてきとる!

遮蔽物の無い川沿いより、森の方がまだマシな気がする!

緊急左折! ダッシュダッシュ、クソっ、根っこメチャクチャボコボコ出とるねんウザいわー

ドヤ? チラッと後ろみたらまだ全力で追っかけてきとる。速攻で追いつかれそうや。

あかん、つーか熊って人食うんか?

四本も腕あったら食いそうやな。納得。


よくわからん感想抱きつつ逃げるが、後ろ確認した瞬間、熊の腕が振るわれる。何番目の腕かは見てないが。上半身に振るわれそうになったその時


「緊急回避! 」


ただ単に前につんのめって前転っぽく転がっただけの技だった。


一回分の幸運で命は繋がったが、立ち上がって熊の方見て後ずさると背中に太い木で逃げ道が無くなる。

前門の熊、後門の太い木


「終わったわ」


目を閉じ、あーあ安っすい飲み屋や無くグラマラスなねーちゃん居る店行って胸に顔埋めながら、ドリンク? 三杯位飲んだらんかーい、とか言いながらお大尽ムーブキメてたらよかったわ。あぁ不幸な無傷の二十五諭吉さん。とか不毛な事考えてるのに攻撃が来ない事に気付く。


「あれ? なんかメチャ、ニヤついてると言うかこれ甚振って遊んだろかい。みたいな感じで見られてるよーな。

コイツ……俺よりワンランク下がる獣の分際で舐めたまねしくさって……人間様舐めんなよ。

もう、後が無いんで前に出るしかねぇ、

俺が昔ボクシングマンガ見て鍛えたレバーブローお見舞いしてやんよ! 」


「食らえオラッッ」


ポスッ


「グゥ? 」


無傷。

なんの痛みも与えられず終わる。

考えれば当然の話しで

相手は食物連鎖のトップ付近っぽい風貌の熊、

方や、もうすぐ四十になりそうなインドア派のおっさん、そのコブシがダメージ与えれるまでの力があるわけ無いですよね。無力。


「あかん。やっぱあかんか、と見せかけて

緊急回避! うおおお! 」


レバーブローを打った方向に前転で転がる様に走り込む

その時、熊も飽きたのか、腕を俺が転がる方に振り抜く


「あかーん。死んだわ……」


いつまで経っても衝撃が来ない。


「あれ? 生きてる? 」


よく見ると熊の振り抜いた腕が、服こそ破れてるが、肌一枚、上半身で止まってる。痛みは無い。


「チャンス! よくわからんがチャンス!

ぬおおお! 」


さらに歩を前に進めて逃げようとするが、熊が無慈悲な一撃を振り抜く


「やっぱダメかね? 」


と思いながら衝撃に備えるが、当たってるのにダメージが来ない


「おっ、おおお! これ服は、破けてるけどダメージ肌一枚の所から通ってへんやん!

よし! なんでかわからんが無敵っぽい。

奇跡、素敵、マジ感謝。勝ったな」


怒った熊はブンブン腕振り回して攻撃してくるが傷一つ付かない事にさらに怒りのゲージ上がる熊。

無敵状態のおっさん。


「さて。痛くは無いが恐怖はある。

そして服が酷い事になっとる。

熊よ、そろそろ這いつくばって俺に許しを乞う時間なんちゃうか?

とはいえ、攻撃手段が無い。困っちゃったなぁ」


生命の危機は何故か回避されたがこのままじゃジリ貧やし、この幸運、時間制限とかあるとめちゃピンチやでな。大丈夫なんか、不安や。

逃げるしか無いな。


「熊公、楽しい時間は終了や。もっとお前とデスコミニュケーションしたいところだが。

さよならするわ。さらば! 」


一目散に逃走を決め込むがランニング程度の速度しか出ない、体力が無いのだ。

兎に角走るひたすら走るその歩みを止めることなく振り返らず、ただひたすら目的地もなく川下の方へと走って行く。


その途中で登れそうな木をみつけたので休憩ついでに登り大分高く登ってしまった。怖いわ。

この熊四本も腕あんのに木登り、できねーでやんの。ぷぷぷ。

木上から言葉のみで熊公煽ること一時間、小休憩はさんで二時間もすると

グォグォ聞こえてた声も聞こえなくなり、木の下確認したら、四本腕からの解放が確認できた。


「やったったぞ! 熊に勝った! ふふん、人類の可能性を舐めた、唯の獣が身の程をしれッ!

よーしよし。さてさてどーすっかなー

取り敢えず無敵っぽいけどあんな眼前で攻撃されるんは、心臓に悪い。

で、や。ここマジ何処なん。あんなん日本にってか地球上におるんか? 俺どこに来たん」


「ま、良いか、取り敢えず逃げ始めの最初の方に頭に噛みつき攻撃されたから、頭ベトベトなんよななんか臭いし。

川にダイブキメて洗おっと」


バシャバシャうひょー冷たいわー


はぁ。綺麗になったしボチボチ行こか。


「つーかこれ、深夜アニメでやってる、違う世界に召喚された。とか言うやつちゃうんか。

なんとかの勇者みたいな。赤ん坊に知識もって生まれ変わるとか。最近の流行りやろ。

スマホっと、圏外かよ! あかんか。

やっぱ怪しいのぉ。こんなに圏外の地域ってあるんか? 送電線も見えんとか日本で、ありえるんか? 」


「イヤ、まだわからんか、けどなー腕四本やろ。うーん。

ゴホン、えーえーあーあー、よし」


「ステータスオープン!」


……


「鑑定! 」


……


「ふーん。誰も見てへんけど、

メチャメチャ恥ずかしいやん?

て、事はー、ちゃうんかなー

いやーけど無敵とかあるんか?

まさかの上流階級にはこんな裏技持ちの人類居るとかそんなんなんか?

それより結局これなんの能力なんやろ」


ぐだぐだ答えの見えない自問自答しながら歩いてたら、橋が見えた。


「おーーまさに橋、けど木造建築。丸太渡して縛ったような橋、文明の香りがあんませーへんな。

道にはなってるけど、土ってか、あぜ道? みたいな舗装されて無い道。幅はそこそこあるけど、なぜか街灯一つも見当たらへん。

まっええか。さて、右か左かどっちにしよーかなー。左にしよか。何故って? なんと無くだわ。ぶははは」


「よしよし。森に比べたら歩きやすいわい。

割と腹減ったんよなー

さっき森歩いてた時も木の実っぽいのとかあったけど、流石に森の達人な訳や無いから口にせんかったけど、はぁ……よー考えたら水も飲んでへんし」 


ぶつぶつ言いながらも二時間ほど歩いていたら森の切れ間が見えた。

森から出ると見渡す限り草原になっててやっとの思いで森脱出


さらに道は続いてるので、また歩き出す、さらに一時間また一時間、正確な時間ではないが日が暮れそうになるのをみて思う


「何時間歩いとんねん! いや、もーこの草原でもスマホ使われへんねんから、日本ちゃうやろ! ほんま……ありえへんわ」


草原にゴロンと寝転んで

空を見上げれば月二つ。

地球ではあり得ない光景に暫く動けなくなっていた。

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