地味で陰キャの俺が偶然出した親切心の結果。助けた少女になぜか猛烈に懐かれてしまう新たな日常

こまの ととと

第1話

 俺という男には友達というものがない。


 高校に進学してもう一年の時間がたった。

 今や高校二年生。しかし一緒に遊ぶような人間がいない。

 夏なら一年前にデビューに失敗しているから。


 人付き合いがもともと苦手で、あれこれと戸惑っている内に周りにはグループが形成されていた。

 当然、その中に俺はいない。


 入っていく勇気もなく、今日までずるずると勉強や趣味を免罪符にして明るい高校生活から逃げ続けてきた。


 俺のような人間は一度つまずくと立ち直ることができない。

 それを自覚しているからこそ、高校生活では大人しく目立たないように生きることを決めたのも一年前。



 今は放課後の帰り道、当然俺一人。


 いわゆる陽キャと呼ばれる連中は、この時間もどう楽しく有意義に過ごすとかみんなで言い合いながらあっちこち寄り道しながら帰るんだろう。


 俺はこういう人生を歩んできたんだからもう慣れてる。

 幸いにも、陰キャでありながら中高とイジメとは無縁の生活を送れているのだから不満の言える立場じゃない。


 遠くから陽キャたちの会話が聞こえてくる。


「今日どうする?」


「カラオケ行こうよ」


「え~昨日も行ったじゃん。うちお金なーい」


「じゃ~さ、最近駅前にできたスイーツに行こうよ」


「あ~いいね、今流行りのヤツじゃん。女子ウケいいもんね」


 そんな男女入り混じった嫌に楽しそうな会話に気が引けて、全然関係ないのに俺は足早に立ち去る。


 最近だとああいう会話を聞くだけで気が滅入るようになってしまった。

 自分と同じ年のはずなのに、自分とは違う世界に住んでいるような。


 もし自分がああいうのに関わって生きていけたら、という妄想をする事もあるし、でもあまり関わりたくないという気持ちも持ってる。

 我ながらどこか矛盾だ。


「はぁ……」


 そして、ああいう連中を見た後はなぜか溜息をつく。

 これはもう癖になってしまった。


 そんな風にとぼとぼと帰宅路。


 だが、今日は妙なものを見てしまった。


 ランドセルを背負った活発そうな少女が鼻歌交じりで歩いていた。

 それはいい、今は時間帯的にも何もおかしなところはない。


 ただ、その少女の後ろに怪しい動きを見せる眼鏡の太った男が様子を伺うように、距離を取りつつピッタリと張り付いていたのだ。


 道の向かい側という事でその表情は分からないが、明らかに普通の様子じゃない、俺は思わず息をのんだ。


(なんだアレ? まさか不審者か!?)


 まさか、もしそうだとしたらこんな出来事が現実に起きるとは思わなかった。


 けどどうする? 警察に通報するか? 

 だけどあまり目立ちたくはないし、そもそも言ったところで信じてくれるかも怪しい。


 いやでも、きっとイケメンな男が出てきて女の子を助けるだろう。それがお約束というヤツだ。


 俺はモブ。そう思い、知らない振りをした。


 周りに人はいないと思ったんだろう、その男は慎重に近づくと女の子を背後から襲おうとしていて……。



「おい!! お前何してるんだ!!!?」



 気が付くと俺は、今まで出したこともないような大声を出していた。

 何故そんな事をしてしまったのか、本当に分からない。

 次の瞬間にはもう叫んでいた。


 俺の方を振り向いてきょとんとした女の子、それと同時にこっちを向く男。


 途端挙動不審になる少年と目が合う女の子。


「う、うあああ!?」


 計画が失敗したことを悟り、少年は逃げようと車道へと飛び出してしまい……。


 キキィ!!


 そのまま通りがかったトラックに撥ねられて――はいないが、危ないギリギリだったようだ。


「危ねえだろうが!!!」


 強面のおじさんが、突然前に飛び出して来た男に怒鳴りつける。


「ひ、ひぃ!!?」


 男は情けない声を上げて走って逃げてしまった。


 その光景を見て俺は思わずその場を離れた。出来るだけ早く。




 走ったわけじゃないが息も切れるくらいには、あの事故? 現場から離れたはず。


「まさかあんなことになるなんて……いや、忘れよう。どう考えても俺のせいじゃない、俺は何の関係もない」


 悪いのは幼い女の子を襲おうとしたあの少年であって、俺はただ注意したに過ぎない。

 女の子も無事だったし、これ以上気にするのは精神衛生上全く良くない、はず。


「俺の人生にも人助けをした瞬間があった。そう思って生きてこう」


 そしてまた、いつもの日常に戻るんだ。


 そう思っていたんだが……。



「兄ちゃん、やっと見つけたで」

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