第2話 バック・トゥ・ザ・異世界っちゃー異世界?

「で?」


 私は、この侍仕草しぐさの処遇に悩み一周回って客間に通してた。なんか妙に他人じゃない気がして、おにぎりまで食べさせてる。私ってダメ男生成の才能あるのかも。


「どっからきたの?」


 奴は私の親切をミリも疑わず、鶏の餌さっきと同じ熱量パッションで口いっぱい頬張ってる。待てど暮らせど返事がない。


「おい、聞け?」


 奴の首根っこを掴む。朝食まで用意したんだ。主導権は私にある。私ってヒモ男調教の才能あるのかも。


「いほはらはっ」

「え、なんて?」


 奴は最後のひとつを喉を大きく鳴らして飲み込む。


「井戸からだ」


 待って、井戸からとか成仏キャンセル界隈の方……? 思わず奴の胸元を見る。……死装束ゆうれいじゃないっぽい。深まる謎。何をされてる方なの?


「食った食った死ぬかと思った。ありがとう。俺リョーマ!」


 圧倒的感謝に紛れる雑な自己紹介。


「カゲローの奴、俺が食おうとしてた隠しやがってよ」

「カゲロー? ふりもみこがし?」


 ふんころがしの話してる? 食べんの?


「菓子のことだ。まだ城下には出回ってねえのか」


 ダメ。日本語なのに何も伝わってこない。検索したら出てくるかな。


「カゲローってのは殺し屋で、ここらじゃ“蟻地獄ありじごく”って呼ばれてる。俺の悪友だ」

「……殺し屋、悪友?」


 私の脳は語彙やばいやばい、力を失ってるこいつやばい


「それなりに名の通った奴なんだけどなー。ま、いっか」


 ぜんぜん良くない。殺し屋がそれなりに有名であられちゃ困る。やっぱ警察呼ぶのが正解だわ……。検索しかけた指で、画面を長押しする。


「んで探してたら、うっかり井戸に落ちちまってよ。戻ったら俺のしろ消えてた」


 いつ本性を現す? 気が気じゃない。心ここにあらずな返事しかできない。……てか井戸ってうっかり落ちるもの? 緊張しすぎて逆に冷静さを取り戻す。


「待って」


 慌ててスマホを閉じる。


異世界転移タイムスリップしてきたとか言わないよね?」


 いつから私は冷静だと錯覚してた?


「いや井戸からきたぞ俺は」


 意識高いアホみたいな質問も真顔で答えるリョーマ。異世界転移とか意味わかってないだろ。


「それより傘ねえか?」


 リョーマの表情が露骨に曇る。


「傘? こんなにいい天気なのに?」

「俺の傘、井戸に立てかけといたんだけどよ、どっかいっちまってさー」


 私は窓から古井戸の方角を見やり、ふと気づく。


 こいつ、RPなりきり強めのレイヤーなのでは?


 ここは曲がりなりにも城趾じょうし。休日になるとごく稀に撮影スポットとして、特異点みたいなコスプレした人たちが集結アッセンブルする。そしていまは夏休み。……謎、解けちゃったな。

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