4-3 「助けたい相手」が君の手をつかみたがるとは限らないんだよ

スマホに移った「影李さん」の名前を見た際に、日南田の手は止まった。



「ほんとだよ! マジキモかった、あいつ!」



そう彼女が聖正と話していたのを思い出したからだ。

日南田はとっくんに尋ねる。


「ねえ、とっくん? ……僕が影李さんに話をしても……意味ないかな?」

「ああ……はっきりいうけど、お前じゃ影李の『救世主』にはなれねえよ」



そういうと、とっくんは感情をこめずに続ける。



「差し伸べた手を握ってもらうにはな。……『信頼』っていう名の積み重ねがいるんだよ」



「信頼?」

「ああ。日南田、お前はクラスでも『カースト下位』だったからな。……はっきり言うけど、お前ら学生は『クラス内の地位』で強弱が決めるとこあるだろ? ぶっちゃけ『強いこと』以上に弱い奴から信頼を得る方法なんて、そうそうないんだよ」


「確かに……そういう意味じゃ、確かに聖正君は一番『強い人』だったからね……影李さんが頼るのも、無理はないか……」


「だろ? それに影李は『弱そうに見えて、実際にも弱い奴』だろ? ……心が弱い奴はさ。強い奴に守ってもらう代わりに服従することでしか生きられねえんだ。そんな奴が、弱い奴と支え合って強い奴に立ち向かうなんて、出来ると思うのか?」

「…………」


この極論に、反論したい気持ちは日南田には勿論あった。

だが、彼の冷徹で現実的な発言に、思わず日南田は押し黙る。



「あと、はっきり言うぜ。日南田、お前が今影李さんに電話したいのも『下心』があるだろ? けどさ、お前に限った話じゃないけど……みんな勘違いしてんだよ」

「勘違い?」




「集団内で地位を築くことが出来なかった奴に限って、地道に『知り合い』を増やす努力をしないで、一足飛びに『彼女』っていう報酬を欲しがる。……お前もそうだったろ?」




「う……」


それは図星だった。


「そりゃさ。友達が一人も居なくても、彼女さえいれば学生生活は楽しいだろうよ。……けどな。現実に、そんな『友達が一人もいないけど、彼女とイチャラブしている学生』って周りにいるか?」



その発言にも日南田はドキリとした。


日南田は「一緒に学生生活を過ごす彼女が一人いれば、それだけで幸せだ」と思っていたためだ。


……だが、その氷山の下に埋まっている膨大な「他者と築いた人間関係」に眼を向けていなかったことに気づかされた。



「た、確かにいないけど……」

「だろ? 『たった一度の救出イベント』で恋人を作る。そんな一発逆転が許されるのは、小説の中だけだよ。恋愛ってのは積み重ねだからな」


身もふたもない言い方に押し黙った日南田に対して、今度は優しげな表情を見せながら、とっくんは肩を叩いた。


「だからさ。お前は……陽花里との『積み重ね』だけ大事にしてろよ?」

「そ、そうだ……ね……?」


日南田はそれに同意しようとしたが、急に目の前が暗くなり意識が朦朧としてきた。



(あれ、変だな……。今思い出したけど……とっくんと知り合ったのって……『前世』では、大学の時じゃなかったっけ……?)



そんな心の声は、暗くなっていく目の前の光景と、



「……ちゃん、お兄ちゃん!」



という陽花里の声にかき消された。

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