第26話 同盟 Alliance
エルミシア 街長の家
「誓いをここに。」
「うむ。誓いの結びを」
俺はエルリーフの長に渡された縄の一部を街長に渡す。
「素晴らしい魔具<ガイスト>じゃ。
はるか遠くにいるはずのエルリーフの同胞達を感じられる。」
「それはどうも。長達も喜ぶわ。」
「次はどこへ?」
「次は中心都市へ、帝国軍と合流するつもりです。」
「――あそこは激戦区だろう。
中心都市の西はずれにある赤い屋根の家の男を頼るといい。
紹介状を書いておこう。
何かあれば頼るといい。」
「はい。ありがとうございます。」
「それに時を見て我々も合流する。恐らく転生者達との全面戦争になるだろう。
帝国軍は連邦軍とぶつかるとして、エルリーフだけでは転生者に立ち向かうのは難しかろう。」
「ありがとうございます。街長」
「ははは 礼を言うのはこちらの方だよ。
いつまでも縛りと共にここに住むものだと想っていた、
死ぬ前にこの街を出られる。」
「――街長」
「おいおい 辛気臭ぇな。長生きしろよ じーさん。」
「はは その言葉、そのまま返すよ。
君たちはこれから激戦に身を投じるのだからね。
供にこの戦いを生き抜こう。」
俺は腕に付けた絆の縄を街長の絆の縄とくっつけた。
翌日 早朝
俺達4人は中心都市へと旅立った。
エルミシア、エルミシア旧市街が遠くに見える。
短い間だったが、かなり濃い時間だった。
「――ルシ?」
「あれを」
ルシが空を指さす。すると
「雪と炎?」
雪がさらさらと降っているのに上空に炎が燃えていた。
「――氷炎龍」
ルシがつぶやいた瞬間に
ドッ!!!!!
激しい吹雪が襲い掛かった。
「くっ 何!?」
「ルシ何か知ってるのか?」
吹雪を右手で防ぎながら左手インドラを構える。
どうやらとんでもない相手が来たらしいな。
「くっそが!!!」
ヴィヴが斧を構えて吹雪の方向に突っ込んでいく。
「だめ!」
ルシがヴィヴの前に黒い矢を降らして止める。
「なっ ルシ何して」
バッと雪があちこちに飛び散っていく。
「驚かせちゃった?」
氷のような澄んだ声が辺りに響く。
「っ!」
蒼い豪炎の中から龍が姿を現す。
全身が透明なクリスタルで出来たような透き通った龍。
そして全身の鱗の1つ1つの中に炎のような灯りが灯っている。
「あー そこのお兄さん 私は敵じゃありませんよー。
って龍の姿じゃ無理か。
帝国以外じゃ龍っていないんだよね。
――ってヴェルグもいるんでしょ!
出てきて説明してよー。」
「うるせぇな。」
「ふーん どうせ4人に別れ際にかっこつけたから
出ずらかったとかでしょ。」
「べ 別に ちげーよ。」
ヴェルグが今度はローブを脱いで、軽装で降り立つ。
「ヴェルグ? 我に会いに来たのか?」
「勘違いするな。私はこいつの付き添いだ。
小娘が下らん事に手を突っ込んで怪我をするのはつまらんからな。」
「面倒見が良いのだな。」
「ヴェルグー 人の姿に変身できないー」
氷と炎を纏った龍が気の抜けた声を出す。
「はー そこの全身真っ黒の女に聞けばいい。」
「どうやるのー?」
「我のやり方だと、影に重力子を集中させて質量ごと影にある空間にしまうイメージだが。」
「なるほど。こうかな。」
炎と氷を纏った龍がパァァアアアッと体を影に吸収させていき、
地上に降り立つ。
「ぶっ」
だが降り立った姿は全裸の少女だった。
髪は透き通った水色をして瞳は
「サトーは見ないで」「見るな」
ヴィヴの斧とエルの弓でバッと俺の視界が瞬時に隠される。
「――ともかく何の用なのか教えてくれないか?」
俺達は近くにあった林の木陰に集まり、状況を確認しあった。
「――なるほど
中心都市は既に帝国軍の手に。」
「うん。昨日の夜に見てきたからね。」
「それじゃあ、あたし達の同盟はいらなくねぇか?
首都を奪い返せたなら政治機能は復活するだろうし。」
「その代わりにフォルグランディアは完全に転生者達の手に落ちた。」
「――ちっ」
「ヴィヴ 先にフォルグランディアに」
「別にどうでもいい。あんな街。
作戦が優先だ。まずは帝国の奴らと合流するんだろ。」
言葉とは反対にヴィヴは右拳をぐっと握っていた。
「それで、あなた達はそれを伝えに来てくれたの?」
「うん。そーだよ。そういえば自己紹介がまだだったね。
私はクリスティアだよ。体はちっちゃくても心はおっきいドラゴンです。」
少女がえっへんと胸を張る。ヴェルグが無理やり着せた黒いコートがデカすぎてコートがしゃべってるような感じがあるな。
「いや人からしたら十分でかいからな お前。」
「そ そうかな。えへへ」
「――まぁいい。私達はお前等を中心都市に送り届けに来た。
こいつの育ての親のお使いだ。
エヴァネスとか言ったか。」
「――エヴァネスさんが」
「なんだ知り合いか。まぁだったら都合がいい。
お前等全員こいつの背中に乗れ、送ってやる。」
「えっへん。任せなさい。」
「調子に乗るな。」「ぶへっ」
「ヴェルグだけ乗せてあげない。」
「構わんが、お前方向音痴だろ。ドレイクに帰れるのか。」
「うっ 仕方ないから端っこならいいよ。」
「――何か想像してたのと違いますね。
帝国の七星龍ってもっと威厳の凄い龍だと想ってましたが。」
「残念ながらこいつは七星龍でも何でもない
ただの野良の龍だからな。そりゃ威厳もへったくれもないさ。」
「むー 私の先祖は七星龍でした。」
「何百年前だよ。」
「それにエヴァネスさんの所にお世話になった時は見かけなかったような。」
「あー、うちは忙しいからね。」
「言ったろ こいつは方向音痴でな。
一度飛び出すと国土の端まで行くこともある。」
「て 帝国の国土の端って」
その広さを知らない俺はピンと来ないが、エルは顔を真っ青にしている。
そんなに広いのか。
「無駄話はいい。さっさと龍に戻れ」
ぐーーーぐーっぐーーーとお腹の音が鳴り響く。
「えへ、お腹すいちゃった。」
「てんめぇ。」
ヴェルグがこめかみに血管を浮かび上がらせる。
それをエルとヴィヴがまぁまぁと抑える。
「というわけで食料を分けてくだちぃ。」
「そういわれてもなぁ。あたし達も道中で魔獣狩って食ってるし。」
「は!? そんな手が!!
なら私が狩ってくるから、作って!」
ビュンッと誰も言い終わらない内に人の背中の部分に羽を生やして飛び去った。
「あ――― また迷子探しか。
お前等、火を焚け。もしかしたら気づくかもしれない。」
本当に苦労してるんだな。ヴェルグさん
俺達は3人で薪を集めてインドラでパチパチと火を起こしていると。
「やっほー! 捕まえてきたよ。」
クリスティアが両腕にアル・セヴェルを抱えて戻ってきた。
「――はぁ。ちゃんと戻ってきたか。」
「心配ご無用です。煙が上がってましたので。」
「私があげさせたんだ。
あとアル・セヴェルは角を落としてからもってこい。
爆発物を不用意に人に近づけるな。」
「え? 爆発するの。やば。」
クリスティアがアル・セヴェルを置く。
「角ってどうやって落とせばいい?」
「首からちぎればいいだろ。
ヴィヴだったかあんたがやってくれ。慣れてそうだし。
あいつに刃物を扱わせるとろくなことにならない。」
「あー やっちった。」
ごっとクリスティアのナイフがアル・セヴェルの角に付きたってしまう。
そしてアル・セヴェルの角の分泌液がたらりと垂れ始める。
「ちっ!」
ヴェルグが手元にあった石を投げ飛ばし、クリスティアのナイフごとアル・セヴェルの首をそぎ飛ばす。
「うわっ」
飛んでいったアル・セヴェルの首から上がドッと激しく燃え上がる。
「馬鹿者め!!!お前と私はいいが、人がいる前で危ないことをするな!!」
「――ごめんなさい。」
「それじゃあ、一緒に捌いていきましょうか。」
エルがクリスティアにナイフを渡して捌き方を教えている。
「あたしはこっちのやっとくぞ。」
「俺も手伝います。」
「我は火の番だな。」
2時間後
「ぶはーーーっ 美味しかったー」
クリスティアは腹がぷっくり膨らむほど食べてしまった。
凄いな5人前ぐらい1人で食べたんじゃないか。
逆にヴェルグさんは少ない量をゆっくり味わって食べていた。
「――流石はドヴェルグの肉料理だな。悪くない。」
ヴェルグがうっすら笑ったように見えた。
「そりゃどうも。」
「我も記憶した。いつでも再現してやろう。なぁ サトー」
「はは ルシはそんなことも出来るのか。」
「無論、我に不可能はない。花嫁なら我が良かろうな。」
「そういや サトーだっけ
転生者らしく女を囲ってるのか。
誰が本命だ?」
「いや、そういう訳じゃ。
俺はあくまでエルの使命を手伝っているお手伝いみたいなものですよ。
ヴィヴは俺との勝負でドヴェルグの街を解放するために善意でついてきてくれてるだけですし。
ルシは転生者を倒す目的のために協力してるだけです。」
・・・
「――ふん。転生者だから身を退いているつもりか。」
・・・
「それは。そうですね。俺は転生者で、肉体も人とは違
う。
こちらの世界の人と色恋は無理でしょう。」
ヴェルグの瞳が俺の全てを見透かしているような感じがした。
「――無理かどうかはお前達の問題だ。
そういえば帝国にはある魔女が最愛の者の肉体をほぼ無から再構成したという言い伝えもある。エルとルシの力があればそれも不可能ではあるまい。」
「――えぇ、転生者の肉体じゃなくなったら文句はないのよね? サトー」
「・・・それは 少なくともまだ俺はこの体で戦う必要がありますし。」
「ふん エルはともかくお前はまだ青い。ゆっくりとしっかり考えておけ。」
「ヴェルグさん? 私も わか く あるような? いやないかもしれないけど」
エルの声が小さくなっていく。
「まぁ肉も多少腐ってる方がうまいしな。」
「ヴィヴ フォローになってないから。」
「我が一番、サトーにはふさわしい。
我の体の一部にはサトーの想い人の因子が入っておるからな。」
「――そうなの?」
「えぇ。研究所で見た感じだと元の世界でお世話になった女性が自分の因子の一部をいれているそうです。」
「そう、でも似てないんでしょ。」
「――流石に そうですね。」
アマ姉に目元は少し似ている気がするが、それ以外は完全に別人だ。
「ふん、女は見た目ではない。母性だからな。」
1時間後
俺達はクリスティアの背に捕まり、中央都市へと向かう。
クリスティアがとんでもない速度で飛んでいく。
「びこうぎじゃないとごんななんでずね」
飛行機と違い特に身を守るものがないので、風を全身に受けて必死にしがみつくのがやっとだ。
「サトー 大丈夫?」
エルだけは風を魔術でいい感じにしているらしく、風景を楽しみながら背に乗っていた。
「おれにも」
「何? 聞こえない。」
そうだった風が強すぎて声も届かないのか。
「ひゃっほー たーのしー」
クリスティアがどんどんスピードをあげて飛んでいく。
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