第33話 一難去ってまた一難
「―理事長、これはどういうことですか?」
『ドゥーン魔法学校』の部屋の一室……そこで、一人の女子生徒が手にしていた紙を理事長の机に叩き付けると、冷たい声でそう言った。そんな女子生徒に理事長は顔色一つ変えることなく顔を上げると、厳しい目を向けてくる彼女に負けないほどの冷たい目で彼女の名前とともに声を返した。
「ルティアーナ・レグラートか……それで、君は何の話をしているのかな?」
「とぼけないで下さい。事前告知なしの生徒の編入と今期の入学生の人数が一人多いことについてです……ご存知ないわけがありませんよね?」
「あはは……」
「あー……」
そんな理事長の隣で、その娘であるイサリナとレアリアが苦笑いを浮かべている中、その彼女達の父親である彼は正反対に表情一つ変えることなくルティアーナに冷たい声を返した。
「その件か……ならば、問題ない。それは私が推薦した者が入っただけだからな」
「理事長が推薦した……?」
「そうだ。その二人は私の古くからの友人の弟子でな……彼らの才能を見込んでこの学校に入学することを勧めたのだよ」
「なっ……!? なら、その二人は正規の手続きを踏んで入学試験を受けた上で入学したのですか!?」
「いや、彼らの腕は私の友人である彼に保証されている……よって、試験を受ける必要がなかったからな。異例ではあるが、入学試験は免除してこの学校に入ってもらった」
「ふ、ふざけないで下さいっ! それは不正入学ではないですか!? 実力のない者をこの学校にコネだけで入学させるなんてあり得ませんっ!」
「確かに、入学を認めたことは事実だが、先ほども言った通り、彼らの実力については私とその友人が保証しているから安心したまえ」
「冗談でしょ……言っておきますが、いくらあなたがこの学校の理事長であるからといって、何でも許されると思ったら大間違いです。この学校には私の父を含め、大勢の貴族達の寄付がってこそ成り立っている……そのことをお忘れなのではありませんか?」
「もちろん、理解している。ゆえに、我々は優秀な生徒を育てるべく、常に最高の環境と最高の師を用意するように心掛けているのだからな」
「だとしたら、今の状況がどれだけおかしいことなのか理解して頂けると思いますが? この学校は数多の生徒が努力し、周囲の者達を蹴落としてでも這い上がり、入学を勝ち取った者達です……そのような場所に凡人が入る余地などありません」
「凡人に入る余地がない、か……ふむ、君は彼らの実力について誤解しているようだ」
「誤解……?」
「そうだ。二年に編入した女子生徒、そして今年入学することになった彼らの実力は目を見張るものがある……実際、新入生だった彼は、二年のジュリス家の生徒に『決闘』を申し込まれたが、初日でそれを打ち負かしているのだからな」
「なっ……!? あの、ジュリス先輩を……!?」
「ああ。さらに、その時に起こった不慮の事故でその彼女を守り、助けた行動力も賞賛に値するだろう」
「あ……あり得ませんっ! そのような生徒が居るなど、これまで聞いたことがありませんっ! 本当にジュリス先輩を倒すほどの実力を持っているのなら、この耳に入っていないのはおかしいです!」
「それは仕方あるまい。彼は私の友人とともに俗世から離れて生活していたからな……しかし、包み隠さずに言えば―彼らはこの学校の誰よりも強い」
「なっ!?」
「特に、君と同じく新しくこの学校に入った一年のレクト・ユーフィン……彼の実力ははかり知れない。恐らく、彼はこの学校―いや、この大陸でもっとも強くなる可能性がある……もちろん、一年の代表を務める君よりもな」
「ば……馬鹿にしているんですかっ!? 一年の代表を務めていた私よりも強い者など居るはずがありませんっ! それに、先ほどから理事長のご友人のことを話されていますが、理事長自身はともかく、そもそも、そのような名も知れぬ方の保証などあってないようなもの―」
「彼の師匠の名前は、ロッソ・イゾット―」
「―え?」
今にも理事長に掴み掛らんばかりの勢いで迫っていたルティアーナだったが、その名前を聞いてその目に衝撃が走る。そして、次の瞬間、発された理事長の言葉に思わず言葉を失うしかなかった。
「―この地で私とともに大陸最強の魔法使いと称された男だ」
◇
「―はぁ~」
そして、翌日。つまり、例の『生徒会選抜戦』とやらが行われる日。
床の上で寝た所為で体の節々がゴキゴキと音を鳴らして痛む中、俺はため息を吐きながら廊下を歩いていた。
――まったく、理事長も人使いが荒いよなぁ。ベッドが欲しいなら『生徒会』へ入れ、だなんてさ……そもそも、学校にすら入ったことなかった俺に『生徒会』なんて務まらないと思うんだが……。
とはいえ、昨夜のように惨めな思いをしたまま寝るのはキツい。というよりも、いつまでもミューイ達に甘えているのは男としてどうかという話だしな。
「しかしまあ、『生徒会選抜戦』か……一体、どんな人と戦うんだろうな……ん?」
そうして、一人で廊下を歩いていた時だった。ふと、廊下で立ち止まっていた生徒達が俺の方を見ながら何やらひそひそと話している姿が目に入った。何だろ?
「み、見ろよ……あいつ、昨日の『ジュリス家』の先輩を倒した奴だ……」
「見たこともない魔法を使っていたけど……」
「お、おい、あいつの噂、誰か聞いたことあるか?」
「さ、さあ……」
「そういえば、昨日ロッソ・イゾットの弟子だって……」
「え!? あ、あの有名なロッソ・イゾットの!?」
「お、俺、あいつが昨日ロッソ・イゾットと話してるの見たぞ!?」
「あー……」
昨日の噂、もう広がってるのか……いやまあ、師匠まで来ちゃったし、目立ってからなぁ……。
「ようやく師匠に目を付けられず、平穏無事に学校生活を送れると思ったのに……」
そうして、俺がため息を吐きながら廊下を歩いていた時だった。
「―そこのあなた、道を空けなさい」
「ん?」
周囲の視線に諦めの境地に達してた俺に聞きなれない声が耳を突いた。何だろう、なんか昨日のラングース先輩のことを思い出すな……。
いやいや、まさか、また俺が女子に絡まれるなんてそんなことそうそう―
「聞いてるの? そこを退きなさいと言っているのだけど?」
あ~、やっぱり俺ですよね~……。
顔を上げると、俺の正面に立っていた鋭い目付きの女子生徒と目が合い、俺は思わず心の中でそう呟いてしまう。というか、言うほど邪魔になってなくね? 俺、さすがに廊下の真ん中を歩いたりはしてないはずだけど……。
「悪い悪い、ちょっと考えごとしてて……つっても、廊下は結構広いし、邪魔になるってほどじゃないとは思うんだが……」
そう言いつつ俺が退くと、何やら目の前の女子生徒がピクッと体を揺らしたような気がする。すると、周囲がざわざわとする中、その女子生徒はやたらと冷たい声を返してきた。
「……あなた、誰にそんなことを言っているか分かっているのかしら?」
「え? いや、誰にって言われてもな……あ、 もしかして、どっかで会ったことあるとか?」
「なっ……!?」
「って言っても、この学校に来てまだそんなに話した奴多くないはずだし、さすがに忘れたりはしてないはずなんだが……って、どうかしたか?」
そんな中、俺の目の前で例の女子生徒が体をわなわなと震わせているのに気付いて声を掛ける。そうしていると、周囲のざわめきが強くなり、何やらその女子生徒のことを話している声が聞こえてきた。
「お、おい、あの女子ってまさか……!?」
「あ、あぁ……あいつ、どんだけ命知らずなんだ……」
「は? 命知らず?」
え? 普通に学校生活を送ってて『命知らず』なんて言葉聞くものなの? 何それ、学校って怖……。
そうして、俺が戦々恐々としていると、周囲に居た生徒が目の前の女子生徒を見ながら声を上げた。
「あれは、前の学校を主席で卒業して、この『ドゥーン魔法学校』を推薦入学したっていうあのルティアーナ・レグラート様じゃないか!」
「主席で卒業……?」
周囲の声につられて俺がその女子生徒の方に視線を戻すと、彼女は自信満々に髪を払いのけながら、優雅な仕草で俺に声を返してきた。
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