その2 「恋人ごっこ」

5. 幼なじみはからかわれるもの

「おはよう――――愛してるよ」

「うんっ――――私も愛してる! おはよっ!」


 手を振りながら、ぱたぱたと駆けていく彼女。

 ちょうど追い越された幼なじみ二人は、そんな一部始終を目撃して――――。

 

「ラブいな」

「ラブいねぇ」


 うんうんと頷きあった。

 にまにましながら、ミナモは顎に手を当てる。


「……あの様子だとまだ付き合いたてだな。一週間目くらいか?」

「そうなの? よくわかるね」

「聞く話によれば付き合いたてが一番アツアツで、だんだん冷めていくらしいぞ。それで最後には破局だ」

「救いがないなぁ……」

「ちなみにアメの経験談だ」

「…………聞かなかったことにしておくね」


 大丈夫だ、港に言っちゃだめな内容はあらかじめ釘刺されるから――――とミナモ。

 僕に伝わること前提なんだ、と港は少し面白く思う。


 ……恋人かぁ。

 そういえば小学生の頃はよくからかわれたな。

 ミナモと一緒にいるってだけで、やれラブラブだの、やれ彼女だの、やれガールフレンドだの……。


 いくら幼なじみって言ってもみんな理解しないで、あのとき結局どうしたんだっけ?


「――――親友って言い張ってたな、確か」


 えっ、と隣を見る港。


「小学生の時のこと考えてただろ? 恋人と間違われて一番嫌だったの、あの時だもんな。誰一人として話も聞かず、港といるだけではやし立てられ……はぁ」


 そうだ思い出した。

 

 ――――恋人じゃない、友達……いや、親友だから!


 ――――そうだ、私たちは大親友だ!


 そんな感じで反論してたんだった。

 それで少しはマシになったけど、やっぱりからかいは続いたんだ。

 だから僕たちは作戦を立てた。

 否定するからエスカレートするんだ、ならば。


「……やったねぇ、『恋人ごっこ』」

「あぁ……あれは傑作だったな!」


 からから、ミナモが愉快そうに笑う。

 じゃあ認めてやるよ、私たちはラブラブ! 恋人同士っ!

 教室で大見得を切って手を繋いだあの時。

 ぽかん、としたみんなの顔が面白くて、二人は思わず笑ってしまったのだった。

 ちなみに思い付いたのは港。


「しばらくは堂々といちゃついてたよな」

「わざとらしく手を繋いだりね」

「わざとらしくあーんしたり!」

「わざとらしくべたべたしてた」

「確かにめっちゃくっついてたな。あとことあるごとに好きって言ったり……今考えるとめっちゃ恥ずいな!」

「どう見てもごっこの域超えてたよね」

「ほんとそれ、ミイラ取りがなんとやらだな」


 はー暑い暑い、とぱたぱたする二人。

 ちなみに春だからか気温は低め。

 登校する生徒の中には、コートやマフラー姿も結構見かける。


 なんの気なしに周りを見ていたミナモの頭に、ぴこんと電球が点いた。

 つんつんと港をつつくその顔に、小学生の頃と同じ笑みが浮かぶ。


「……どうしたの?」

「……私たち、今は幼なじみで通ってるよな?」

「まぁそうだね。だいぶ疑われてるっぽいけど……」

「だったら――――また逆転の発想、してみないか?」


 首を傾げる港。

 鈍い、と不満そうに叩かれた。


「――――『恋人ごっこ』をもう一度するぞ。幼なじみで通ってる今なら、それでも恋人認定されないんじゃないか?」






――――――――【あとがき】


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