第48話

「寝ぼけてねえよ」




愛想のない俺の答えに、蛍は機嫌を悪くすることなくそっか、と微笑んだ。ゆっくり、ゆったり。蛍のまとう空気はいつもそうだ。イライラしたり、怒ったところを見たことがない。



その様子になんとなく罪悪感を覚える。



親父と暮らしているうちに染み付いた言葉遣いは、無意識に人を傷つける。


今だって、朝飯作ってくれて嬉しいとか、そういう簡単な言葉が出てこない。その代わり舌打ちが零れる。まじでだせぇ。




「……運ぶ。かして」



もう出来ているものを奪うようにして取って、部屋の真ん中のローテーブルに置いていく。


洗面所の歯ブラシと同じように、同じ百均で揃えたせいで、全部の食器が揃いだ。


それにむずがゆい気分になりつつ、未だに台所にいる蛍の腕を引いて座らせた。



蛍はきょとんとしている。



「……飯、どーも」



言った俺に、ゆっくりと微笑んで



「やっぱりやさしい」



それこそ優しく呟いた蛍は、どこか頭がおかしいんじゃないかと思う。

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