おしっこ売りの幼女

ひす

第1話 新雪のように

凍える風に雪が舞い、山も森も白く染まる。

草木も枯らす寒さの中、白銀の世界にある大きな町で幼女が1人、狭い肩に雪を積もらせながら立っていた。


寒さで震える小さな手は水筒を握りしめ、薄手の着古されたコートに身を包む幼女は、吹雪の音に掻き消されるような細い声で、道行く人たちに声をかける。


「おしっこは…いりませんか…?」


幼女の力ない声に反応する人はいない。

今日を生きるほどの元気もない声が聞こえていないわけではない。


貧しくも温かな家庭に生まれた幼女だったが、病弱だった母親は幼女が8歳の時に亡くなり、父親も翌年には後を追うように病死した。

家賃も払うことができなくなり、両親も家も失なった幼女は、生きるためにこうしている。


「おしっこは…いかがですか…?」


通り過ぎていく人々が踏んでいく前の新雪のように、幼女の肌は白く美しい。

首から10と書かれた札を下げた彼女は、紛れもない美幼女だった。


それでもおしっこは一向に売れない。

最後に売れたのは、彼女がまだ9の札を下げている時まで遡る。


女は11歳から全盛期を迎える!


雪が降り止むことのない世界を治める皇帝のその言により、民はその年齢に満たない女を買うことを固く禁じられていた。

皇帝の言に反する者は、身分に関係なく死罪に処される。


年齢を偽った女への罪は更に重い。

本人は勿論のこと、一族郎党生きては帰れない。

天意に背き、欺く行為は、万死に値する。


かつて幼女からおしっこを買ったこの町の民も、既にこの世にはいない。

物の道理を理解できない者に帝国民である資格はないのだ。


「うぅ…おしっこしたいよぉ…」


罪を犯す者が現れれば商品になるはずのものを、幼女は漏らしてしまった。

いつでも出せるように準備して、何時間も経過していれば、そうなるのも無理もない。


「汚ねえな。ガキがジャマなんだけど!?」


首から11と書かれた札を下げた少女が現れ、幼女を蹴飛ばす。

美しさだけで言えば、倒れ込んで雪に埋もれる幼女より2枚は落ちる。


「ピチピチの11歳ですよ〜。おしっこはいりませんか〜?」


容姿の優劣では物は測れない。

皇帝の言により、1歳の違いであっても、合法か極刑かで天と地ほど差がある。

先にいようが後から来ようがそんなものは関係なく、1人の裕福そうな初老の男が少女に声をかける。


「なかなか可愛いね。いくら?」


「1万セリスだよ」


「上等な肉と最高の酒が買える値段だな…」


「今すぐほかほかになって幸せになれるよ?」


「11歳の魅力には敵わないな。買ったよ」


横槍を入れて瞬く間に売買を成立させた少女は、勝ち誇るように笑みを浮かべ、男の手を握る。

それでも今日を、明日を生きるために、幼女は食い下がる。


「私のおしっこも…買ってください… 」


「…また1年後に会おう。その時は5万セリスでも買うよ」


男は足にすがりつこうとする幼女の頭を憐れむように撫でると、少女と共に雪の彼方に消えていった。


道のりは厳しいが、ここよりも更に大きな隣町なら、何とかなる可能性もある。

男にかけられた少しの優しい言葉が逆に幼女の絶望を深め、町を出ることを決心させる。


民家の窓の向こうでは、自分と同じ年頃の子供が両親と幸せそうに食卓を囲んでいる。

羨ましくて耐えきれずに流れる涙も凍るような寒さの中、幼女は道も見えない暗闇に向かって歩き出す。


雪を食べても空腹は満たされない。

それでも新たな町に希望があることを願い、幼女は逆風の中を弱々しく進んでいくが、行く道も帰る道も分からないまま、幼女は力尽きてしまう。


「おしっこ…あったかい…」


新雪のように白い顔が白さを増す。

もう起き上がる元気も気力もない。


幼女は売り物にならなかった温もりを感じながら、静かに目を閉じた。

貧しくても両親がいて、温かく幸せだった頃を思い出しながら。

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