第6話 怪人の付与

私に内在する家路写楽は、すっかり大人しくなっていた。

もしかしたら、私が寝ている隙に入れ替りが起こっているかもしれないが、特に変わった様子もなく、私はいつものように寝起きしている。

遠藤平吉として職務を全うし、私の信じる正義を貫いている。

この、「遠藤平吉の正義」というものに、赤の他人が同調した場合、その他人にも遠藤平吉が宿るとしたら?


途方もない考え方のように思えるがしかし、事実、私はこのように存在している。ある正義に微塵の疑いもなく人格を合わせているのが遠藤平吉だとしたら、第二第三の遠藤平吉を他人の人格に誕生させることは可能な筈だ。

私はそれを佐々木史郎に試してみることにした。


まず、佐々木との接点を多く持つようにし、家族のように親密な関係を持つことが必要だった。交番からアパートまで近いことから、私は常に佐々木の動向をチェック出来ることを佐々木に話し、何か変わったことがあれば佐々木をいつでもサポートできることを話した。正直な佐々木は私を信じた。そこから、私の思う正義について少しずつではあるが話していった。彼は私が思うよりずっと素直で正直であった。彼の中にある正義に私の正義が混在していく。

彼が通院する時は偶然を装って常に私が居るように予定を組んだ。

次に、完全に私に安心しきった佐々木を今度は孤独にしてみた。通院の予約も少しずつではあるがずらしていく。接点を少なくしていく。すると彼は私を求めた。私がいなければ不安だという気持ちを彼の中に作り出した。

更に、私が最近困っていることを彼に話した。浮浪者の一(にのまえ)という男のことだ。以前、私が自転車の窃盗犯の足を折り浮浪者に預けた事があった。奴はそれを未だにネタにして金をせびってくる。私はほとほと困っている事を史郎に話すと、私を困らせている一(にのまえ)を嫌悪するようになった。それを確認した私は、正義の為に、皆のため、延いては全ての人類の為に一(にのまえ)は必要ないと思わせることに成功した。

しかし、すぐに捕まってしまっては意味がない。時と場所を指定し、足がつかないように犯行方法を入念に考えた上で一(にのまえ)を殺る。

途中、アパート内で別部屋に侵入した岡田を守るため苦労したが、何とか地域住民の理解を得ることが出来た。私はそこまでの信頼関係を地域住民と長年かけて培ってきたからに他ならない。


その時には既に、小さいながら遠藤平吉を心に宿した佐々木史郎を作り上げていた。つまり、他人にもう1つの人格を形成するに至ったのである。


私はその手法を交番の内田と二宮にも試していた。こちらも正義についての解釈が同じような解釈だったので、二人とも心に小さな遠藤平吉を宿すようになっていった。


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