第37話 第3次ミューズ河攻防戦及び前哨戦

 アルベルトが指揮戦車で待機していると通信兵が電話を差し出してきた。

 本来は夜間における警戒部隊の指揮を執るために、後方で寝ている時間であったが、廃村を偵察している情報部特殊兵班からの廃村での補給部隊の動きが活発になっていると言う連絡があったので指揮戦車で仮眠していたのだった。

「監視所からです」

アルベルトはいよいよかと覚悟を持って電話を受け取る。

「はい。アルベルトです」

「監視所からの報告です。敵の戦車大隊規模の部隊が森の前で停止しています。指揮官は快速戦車の指揮型戦車に乗っています。どうやら快速戦車中隊、軽歩兵戦車中隊、大隊本部、竜騎兵小隊が続くようです」

「ありがとうございます。危なくなったら撤退してくださいね。私たちの部隊に戦死や戦傷と言う任務は含まれていませんからね。特にあなた方情報部特務部隊は貴重な存在ですから」

「ありがたくあります。いつでも撤退できるようにはしておきます」

「あなた方に幸運を」

「これから戦う少尉殿こそ幸運を。以上」

 アルベルトは指揮型戦車を降りると、ルクレール伍長とバルデン先任軍曹に集合を伝える。

 集まって来た二人に話しかけた。

 戦車は砲塔を道路側に向けて、車体は森の奥に向かって並んでいる。急いで逃げるためだ。小隊にもなっていない戦車戦力でできる事などほぼない事を戦車兵たちは理解している。

 アルベルトは自信にあふれ、ユーモアを言っている感じで命令を伝えようとする。

「敵がやってきます。私の発砲命令まで攻撃をしないでください。発砲命令を出したら、敵の大隊指揮戦車を目標に集中砲火をかけてください。撃破が確認され次第、撤退をします。歩兵の皆さんと合流して、そのまま敵の廃村に向かって全速で移動します。今は大隊長車を撃破する事だけを考えてください。それでは解散、戦闘準備を」

「了解です」

「了解しました」

 バルデン先任軍曹とルクレール伍長はそれぞれ敬礼をして、自分たちの戦車に戻る。彼女たちは震えていたが、アルベルトに何かすがるものを見出している様だった。

 アルベルトは自身の戦車に戻ると電話をミューズ河に防衛ラインを引く中隊長に連絡を行う。

 「中隊長殿に報告です。敵の連隊規模の戦車部隊が進行中です。これから戦闘に入ります」

「私だ。予定通り敵を迎撃をして、玉砕せよ。1両でも敵の戦車を減らすのだ」

「了解いたしました」

 がちゃ。

 電話をガチャ切りされる。

 アルベルトは思う。敵が来るまでの緊張感、道路からわずか50mしか離れていない状況、見つかる可能性、敵の大隊長車が通るまで恐怖で射撃命令を出さないかとの不安と恐怖。それを乗り越えないといけない。二度経験している。大丈夫と自分にアルベルトは言い聞かせる。

「不安そうな顔ね。隊長さん。指揮戦車の中で良かったわね。部下の前だと信頼を失う顔をしているわよ」

 ワークス中尉のアルトの笑い声が指揮戦車に響く。

 内心、助かったと思う。少し緊張が取れた。

 だからアルベルトも精一杯のユーモアで返す事にする。

「とりあえずは、逃げ出していない事を褒めて欲しいですね」

「冗談はよして、あなたのママになった覚えは無いわよ」

「ワークス中尉をママと呼ばないのは残念ですね」

「私は若々しい物。それと母性は実戦経験で失ったわ」

「冗談はこれくらいにして、警戒しますよ」

 アルベルトは猫型戦車の特徴でもある猫耳の様に突起となっている潜望鏡を使って道路の観察に行う。

 数分後、振動が伝わってきたと感じたら、敵戦車が見える。快速戦車中隊だった。

 まだだ。今じゃない。目標だけを狙うんだ。

 敵の快速戦車中隊は無警戒のまま過ぎていく。

 そして、続くように敵の軽歩兵戦車部隊が走り去った。

 それらの部隊より遅い速度、徒歩と変わらな速度で入って来る部隊が見える。

 間違ってい邸も今しかない。

「全車、無線封鎖解除、敵大隊長車に向かって発砲開始」

 隣に並んでいるバルデン先任軍曹の指揮する猫型戦車から小気味の良い20ミリ機関砲弾の発射音が聞こえる。

 それに遅れる事無くルクレール伍長の快速戦車からの砲撃音も混ざる。

 アルベルトは敵の指揮官が大隊長車から身を乗り出していた人物が爆円に巻き込まれて体がちぎれる所を目視する。

「全車、全力で撤退。第二次作戦開始」

 バルデン先任軍曹とルクレール伍長の戦車が撤退したの確認して、アルベルトの指揮戦車の撤退を命じた。

 遠くの方から「大隊長戦死。誰か命令」をと言う声が聞こえた。

 この混乱を生かすためにも逃げなければならない。

 アルベルトは後方を監視しながら逃げるのあった。


                                   続く

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